ただ話しながら昼飯食べる社長と生徒会長 デラックスも終えて、俺は予選敗退という結果。決勝まで行くと思って、社員に無理を言って大会の日程を全部休んだ。我社の社員たちはみんな各自仕事があるというのに、俺のファイトを見に来てくれた。やはり、俺の社員は変わったやつらが多い。
その中、からんと空いた会場内に俺はいる。撤収作業をしているのを眺めながら、今までのファイトを振り返る。
ケテルサンクチュアリの狐芝ライカは無駄のない男。高校生で生徒会長、期待されている彼は確かに強かった。同じプロの枠で選ばれた俺たちは彼から話しかけることはなかったが、それなりに会話はした方だと思う。
江端トウヤの時は彼の応援席で、ファイトとあのミチルさんと見たものだ。信念を貫く騎士と反逆の騎士の戦いは迫力があった。俺も心が弾んだし、どっちが勝ってもおかしくないファイト。本当はあの場所に立って優勝したかったけど、そこは仕方無い。
「あ、ライカじゃん。学校は?」
そろそろ帰ろうと思って出口へと向かうと、噂の狐芝ライカがいた。服装は変わらず高校の制服のまま。そういえば制服姿しか見てないな、と心の中で呟きながら彼に近づく。
「今日は土曜日なので休みです。で、僕に何か用でも?」
相変わらずの淡々とした話し方。ファイトの時はあんなに熱くなるのに、それ以外は冷たい。確かに今日は土曜日ということを思い出す。それなら、高校生の彼がここにいるのは別に不思議ではない。
だけど、気になるのはやっぱり服装な訳で。
「そーだった。ていうか、ライカは休みの日でも制服なの? せっかくカッコイイんだし、オシャレすればいいのに」
「何故貴方に言われなきゃいけないんですか。服装の自由は僕の勝手です」
やっぱり固い。ファイトの時もたくさんガードされたし、一筋縄ではいかないようだ。
「別に自由かもしれないけどさ。やっぱり気になるの。ここで会ったのも何かの縁だし、どっか食べに行かないか? なーに、社長権限だ、奢ってやるよ」
もっと彼について知りたいという欲で、食事に誘う。普段は女性にやることだが、興味を持ったなら仕方ない。何せ欲しいものなら行動する、これもブリッツ魂だ。
「……僕と食事しても何もありませんよ」
「いいって。一度ファイトした中だろ? なんなら、その後はファイトしてもいいんだぜ」
ファイトしてもいい、その言葉で少しだけライカの目が輝いたような気がした。そこは彼も男子高校生、好きなことや夢中になってることとなれば心が揺らぐ。
俺はライカの手を引き、そのまま会場外へと連れ出した。
食事場所、なんていっても昼時だからもちろんどこも混んでいた。どうしようか迷っている俺の横をライカは通り過ぎる。
「おいおい、待てよ。俺を置いていくな〜」
からかうように言い、それでも無視する彼の後ろをついて行く。どこか穴場でもあるのかと思ったら、入った先はコンビニ。というより、コンビニに入る彼の姿が意外すぎて思わず笑いそうになった。
「ライカもコンビニ来るんだな」
「僕のことをなんだと思ってるんですか。どこにでもいるただの高校生ですよ」
「そうだけどさ。あんまりイメージつかなくて。あ、俺もコンビニはよく行くぜ? スイーツとか絶品だしな」
俺の話を無視して、おにぎりを選ぶライカ。おいおい、俺は一応年上で社長だぞ。こいつ、年上に対する礼儀を知らないんじゃないか。
でもユウユくんの学校の生徒会長なんだっけ。そういう時は誰にでも優しい頼れる狐芝ライカくんになるのかな。
「これ」
手渡されたのは鮭のおにぎり。ポンとまるで音が鳴ったかのような渡し方。
「ありがと……って、なんでおにぎり?」
「大会が始まるまでに言ってたじゃないですか、鮭のおにぎりが好きだって」
思い返すと、その時は確かウララちゃんが自己紹介をして……
「あー、ウララちゃんの時ね。それでこれか〜」
なんだ、注意してきた割にはちゃんと話聞いてるじゃん。そこは良いとこだ。
ありがたく、ライカからのおにぎりを受け取り、別の商品へと手を伸ばす。ライカの方も鮭のおにぎりを取っていて、お茶のペットボトルを持ちながらレジへと向かっていった。
俺は更に梅おにぎりを手に取って、後を着いていった。
「いや〜こんな晴れの日におにぎりが食べれるって最高だな!」
会場近くのベンチに腰掛け、二人で買った昼飯を食べる。普段はこんな外で食べないし、なんなら社員を連れてはどこか食べに行ったりするのが多い。
「……本当にあなたはよく喋りますね」
「悪いか? そういうライカは喋らないよな。学校では生徒会長なんだろ?」
「そう、ですけど……」
落ち着いた雰囲気は変わらないが、少し気分が下がったような気がした。あんまり学校のことは聞かれたく感じなのかな。
「そういや、ライカってやっぱりユースベルクのこと好きなのか?」
「好きだと思います。ずっと使っているカードですし」
「反逆の騎士……かっこいいもんな。ヴェルストラだって、かっこよさは負けてないと思うぜ」
騎士というのも男心を擽られる。同じ騎士のバスティオンもかっこいいが、そこは好みだろう。
「でもヴェルストラは弱点がありますよね。ペルソナライドしないと、フライシュッツマクシムになれない」
ヒューと思わず口笛を鳴らす。俺のデッキは、確かにグレード三に再ライドしないと発動できない。要はペルソナライドが再ライドしないといけないという条件が付いている。
「ご名答。だが、再ライドしなくてもマクシムにできる方法はある。まぁ、それも手札にマクシムと盤面にシュタルトがいないと話にならないけどな。そういうライカだって、手札にレヴォルドレスがないといけないだろ?」
「そうですけど、僕の場合、レヴォルドレスは貴方の枚数より多いです。シュナイゼルや、ユースの能力を使えばサーチはできます」
「ま、事故は少なくなるよな。だけど、もしドレスが全部使い切ったり、ダメージに行ったら?」
「そこはまだ対応出来ないですね。ただ、今後のカードによってはその部分もケアできるかと」
さっきより話すライカに思わず笑ってしまう。ライカはそんな俺を見て嫌そうな顔をした。
「何がおかしいんですか」
「いやいや、さっきまであんな話さなかったのに急に話し始めるから。やっぱりカード、好きなんだな」
そう言うと、ライカはすぐに顔を背けた。今の時代、カードゲームをやっている人は多い。それは男女問わず、年齢だって関係ない。
「あんまりからかわないでください」
ライカだって、まだ高校生。カードゲームに本気なのはいい事だ。俺だって、まだまだ若い歳だ。彼以上に本気になれる。
「悪い、気を悪くしたなら謝るよ。さて、飯も食ったしファイトでもするか!」
立ち上がり、ライカに手を差し伸べる。悲しいことにライカは手を取らなかったが、ファイトする気はあるようだ。
「望むところです」