温泉宿にて「っだーーーーー!!!!!」
織田さんがボスン!と勢いよく布団に飛び込む。そして、シーンと部屋が静まり返った。
三十秒ほど経った後、その間微動だにしなかった織田さんが急に起き上がった。
「死んだかと思いましたよ」
「つかれたーーー!!」
「元気じゃないですか。俺なんかもうヘトヘトですよ。眠い…」
ふわあ、と思いの外大きな欠伸が出た。
連続殺人のアリバイの穴を見つけ、ようやっと容疑者を絞り込み、今日めでたく確保に至ったが、ここまでかなり長かった。容疑者を数日二人で張り込みし、この温泉旅館でばったり結城さんと吉川さんに遭遇し、協力することでなんとか解決したのだ。吉川くんの話から、結城さんのことをヤバい人だと思っていたが、認識を改めるべきところがあるようだ。
「佐藤ー、結城さんからもらったプリン食べないか?」
織田さんを見ると、布団を敷くために端に寄せられた机に向かい、プリンのふたを開けていた。結城さん曰く、温泉街で買ったイイヤツ、らしい。朝に甘いものを食べるのは胃に重そうだから、今食べるのがベストだろう。
織田さんの隣に座って、並んでプリンを食べる。なるほど、確かに濃厚で美味しい、イイヤツだ。
「甘くてうまいな。」
「ちょっと甘すぎな気もしますけどね。」
「ええ、じゃあお前上に乗ってる生クリームくれよ。」
「はいはい。」
生クリームをあげるためにスプーンで掬い上げると、織田さんは、口をぱかっとあけた。食べさせろということだろう。
お望み通り口に生クリームを運んでやると、甘ぇ〜と言ってにっこりして喜んだ。
まるで餌付けのようだと思っていると、ちゅ、とキスされた。
「何ですか」
「お礼」
「へえ」
「佐藤は?」
「はいはい」
これまたお望み通り口付けると、満足げににっこり微笑んだ。それが面白くて笑ってしまう。
「生クリームの時と同じ反応…」
「笑うんじゃない」
「は〜い」
小さな瓶に入ったプリンを一気に食べ、伸びをひとつして、今度は俺が布団にボスンと飛び込み、ゴロンと大の字になる。それを見て、織田さんが何やってんだよと笑いながら同じように俺のすぐ隣に転がってきて、最終的に俺に覆い被さった。
「うわ〜重い〜」
「嘘じゃねえか。俺まだ乗ってないもん。ほらプランクやってる時みたいだろ。」
「もんとか言いますか良い大人が。」
「うるせー、良いじゃん相手お前なんだから!」
「なんでそんな甘えたなんですか今日。」
俺の質問は無視して織田さんは、2回触れるだけのキスをして、それから俺の唇をなめた。すると、何かに気がついたような顔をし、そのまま俺の口内に舌を侵入させた。織田さんの舌は温かくて柔らかくて気持ち良い。そういう流れ?と思って織田さんの首に手を回そうとした。
「佐藤の口ん中、すげー甘い。うまい。」
ごくんと唾液を飲み込んで、無邪気に言った織田さんを見て、心の中で、全然そういう流れじゃなかったー!あぶねー!と叫んだ。はいはい、なるほどね、今そういうイチャイチャの時間ね、OK OK。別に良いですけどね。この人こういうところあるよな…。
「歯、磨きましょうか…。」
………
「なんでここで磨くんですか」
「普通鏡の前だろ」
狭い洗面スペースに男2人。当然かなり狭い。ひじとかあたるし。
「狭いでしょうがどう考えても」
「じゃあ佐藤が鏡の前譲れよ」
「あんたのが後だったでしょ」
「はあ?先輩だぞ俺は」
「うわ出た そういうの良くないですよ」
2人でぎゃーぎゃー言いながらもシャコシャコとしっかり歯を磨く。現場では色々なことに気がつく(ただし目星は外れる)キリッとした織田さんだし、皆織田さんのことをカッコ良いとか言うけれど、ほんとよく見た方が良い。ガキだこの人。
織田さんが先に豪快に口を濯ぎ、フン、という表情で洗面スペースを後にする。なんだこの先輩。
自分はより念入りに磨いた後、控えめに口を濯いで部屋に戻る。
すると、電気は豆電球に変えられ、変えた人物は布団に入り沈黙していた。寝ていたではなく沈黙していたと言ったのは、多分、寝てはないからだ。この人は寝る時かなり特徴的なポーズ…まあ仰向けといえば仰向け…?で寝るのだが、今は壁を向いている。
自分としては、恋人と久々に同じ部屋で寝るわけだから、そういう展開を期待していないわけではなかったが、先の織田さんの反応を鑑みるに、おそらく今日はあくまでも仕事の延長線という感じなんだろう。一線を超えるつもりは無い、のだろうと思う。
俺も織田さんに倣って自分の布団に入る。すると、織田さんがボソッとおやすみ、と言った。自分も、それにおやすみなさい、と返した。まあ、そりゃそうだよな。明日もちゃんと朝起きて、帰って、報告書まとめなきゃ。犯人は確保したが、その後の事後処理も意外と大変だ。
頭を真面目な方向に働かせながら、織田さんの方に体を向ける。自分の布団とわずかに隙間をあけて、織田さんの布団がある。織田さんの背中が見え、それから、丸く形の良い頭も見える。そうしてじっと見ていると、真面目なことを考えていたはずなのに、さっきしたキスとかもう随分と前にしたエロいこととか、そんなことばかり頭に浮かんできた。織田さんは今何考えてるんだろうか。俺は今あんたのせいでこんなムラムラしてんのに。
俺だってもうヘトヘトで眠かったが、こうなってしまったら仕方がない。一人で抜くか、どうにか織田さんにその気になってもらうかだ。まず一瞬、前者を考えた。しかし一瞬だった。だってこんなチャンス次いつあるか分からない。やっぱりその気になってもらうしかない。
「…織田さん、起きてますよね」
「…んー」
「…あの……エッチ、したいんですけど」
俺がそう言った後、しばらく沈黙があり、織田さんはゆっくり身体を起こして、俺に上半身を向けた。ムッとした顔のまま、パッと両腕を広げる。
「おいで」
言われるがまま俺も起き上がり、膝で歩いてモタモタしながら織田さんに抱きつく。すると、ギュウとキツく抱きしめられた。
「ヘトヘトでもう眠いんじゃなかったか?」
「言いましたけど…」
そのまま、布団に優しく押し倒される。表情は依然、ムッとしたままだ。
「なんか怒ってます?眉間に皺寄ってますけど…」
「ちがう。怒ってない。こうしてないと顔ニヤけるんだよ。」
「え」
「おまえから誘われるなんて思ってなかった。流石に疲れただろうと思ってキスだけで我慢してたのに。」
お詫び:
これ以降は恥ずかしくて公開できません。想像していただければと思います。