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    ocHan_Niji

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    ocHan_Niji

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    激重感情兄弟子シルバー視点のスカセベです!
    ギャグ!
    会話部分だけ読んでも大丈夫なくらいふわっと読んでもらえるローカロリー小説です!

    お義兄様と呼ばせていただいても?お義兄さまと呼ばせていただいても?



    「シルバーさん。どうか、我輩とセベクさんとの交際を認めていただけませんか?」
    「はぁ?」

     いつも温和な雰囲気を纏うシルバーからは想像できない鋭く短い返答に、ビクリと肩を振るわせた男はそれでもめげずに乾燥で所々ひび割れた唇を開く。

    「我輩の愛おしいひと、暗闇を照らす雷光。我輩の心と鼓膜を打つ雷鳴。彼と再会できたことは我輩にとって史上の喜び!この感動を世界中に教えて差し上げたいくらいです!」
    「はぁ?」

     
     身振り手振りを交えて感情的に話す男の口から紡がれる単語から推察するに、「セベクと会えて嬉しい」と言いたいらしい。ポムフィオーレの副寮長と似て回りくどい言い方だ。聞いていて心がモヤモヤするのは大切な弟弟子に素性の知れぬ人物が纏わり付いているからだろう。

    「セベク、彼の言っていることは事実か?」
    「……」
     
     当事者であるセベクは先ほどから口をむん、とひと結びにして沈黙している。普段のよく通る大きな声も今は聞こえない。

    「嘘ではございません!時代を超え、記憶を保持したまま再会できたのはまさに奇跡。我輩たちのこれから歩む道を、誰よりも彼の方の近くにいるシルバーさん、貴方に彼との交際を認めてほしいのです」

     ふわふわの白髪に特徴的な髪飾り、顔の半分もある大きな色眼鏡をしたひょろりと背が高く不健康とも思えるほど色白の男。ハッキリと見えないがその瞳は言葉よりも雄弁に胸の内を語っているように見える。

    「言いたいことはそれだけか」

     紳士的な振る舞いには好感を持てるが、それ以上に怪しさが勝って腰にある警棒へと手が伸びた。
     詐欺師は身振り手振りが大きくて第一印象は紳士でも騙した後は極悪人!ってのがセオリーなんすよ。といつか後輩が語っていたのを思い出したからだ。特にセベクや俺のような俗世に疎い若者は餌食にされやすいとか。

    「あぁっおやめください!我輩見ての通り武闘派ではございませんので、貴方の一振りさえ受け止め切れないでしょう。しかもその握り方、全く手加減する気がない!」
    「怪しい相手への手加減は不要、と教えられている」
    「我輩は怪しい者ではありません! 貴方のこともよぉく存じておりますとも、ずっとずっとセベクさんの側に侍っていたのですから」
    「ストーカー……?」
    「くっ、否定できないっ。普段はふわふわしているくせにお身内のこととなるとこれだから……変なところで鋭いから隠し事は通用しない、セベクさんの苦労が少し分かる気がいたします」
    「なんだと?」
     
     相手はシルバーのことを知っているような口ぶりだが、生憎こちらはこの男に全く見覚えがない。むしろこんな奇抜な生徒がセベクの側にいれば流石のシルバーでも覚えているはずだ。とりあえず繋ぎっぱなしの手を離して欲しい。
     そんな怪しげな男が突然「セベクとの交際を認めろ」と言ってきた場合の正しい対処法を誰か教えて欲しい。親父殿はこの状況を面白がりそうだからできれば別の、アズールなどこういった事態に詳しい人に。

     固まってしまったシルバーに対して男は再度「シルバーさん」と声をかける。
     普段ならセベクが先に「また立ったまま寝ているのか!?」と肩を揺さぶっていただろうが、むつりとこちらを見つめるだけで変わらず口を開こうとしない。その表情は、不満とも、不安ともとれるものだった。

     もしかして、俺がすぐ認めると言わないからそんな顔をしているのか?

     思うことがあれば臆することなく意見するセベクが。シルバーに対しては殊更遠慮せず伝えてくるセベクが。じっと黙ってこちらの返答を待っている。
     美しいアンティークゴールドが弱々しく揺れている。揺らめく瞳は、夜中二人でこっそり家を抜け出して見に行った湖畔に落ちた月を思い出させた。

    「シルバーさん、大丈夫ですか?なんだか顔色が優れないようですが」

     お互いを見つめ合うシルバーとセベクの間にぬるりと横入りしたスカリー。彼は長身のセベクよひも背が高いためすっかり視線が遮られてしまう。
     だが、今はそれで良かったと思う。
     あのまま金色に見惚れていたら何かいけないことを口走ってしまいそうだった。コホンとわざとらしい咳払いをして気持ちを整え、ようやくまともにスカリーに向き合った。

    「あ、あぁすまない。ただ理解が追いつかなくて……まず、貴殿はどこの誰でどうしてセベクとその、恋人、という関係になったのか説明してほしい」
    「ええ、ええ!我輩とセベクさんの馴れ初めならば何度でもお聞かせいたします!ほんの少し長く、永く、不思議なお話ですがどうかこれが夢幻でないことを信じてくださいませ」


     そうしてシルバーは、ほんの少し長い馴れ初めとやらを3時間ノンストップで聞かされ最終的にキャパオーバーで意識を失ったのだった。


    「シルバーさんが倒れてしまいました!そんなに刺激が強かったのでしょうか?」
    「……話の途中でこいつが意識を飛ばすのはいつものことだ。気にするな」
    「そうですか?でもギリギリ馴れ初めをお伝えできてよかった。起きたら我輩の覚悟を確とお伝えしなければ!」


     やる気満々、拳をぎゅうと握りしめて声高らかに宣言するスカリーを横目にセベクはお揃いの丸い耳をそっと撫で、誤魔化すように乱雑な動作でいつも通り寝落ちした兄弟子を部屋に運んで行った。




     


    「寝起き早々恋バナとは嫌でもテンション上がってしまうではないか〜!ふんふんそうかそうか、セベクももうそんなお年頃じゃったか。くふふ、バウルのヤツ今回は泡を吹いて倒れんといいが」

     まず最初に頼れる大人、リリアを訪れた。人生経験も豊富でシルバーたちのことを知っている彼ならシルバーの心配する気持ち、不審に思う気持ちを分かってくれると思ったから。まさか寝起きで機嫌の悪い養父から「あ?」とドスの効いた挨拶をされるとは予測できず一瞬固まってしまったのだが。

     シルバーはリリアが「うちの可愛いセベクが騙されておるのやもしれぬ!これが噂の結婚詐欺じゃな!今すぐその男をワシの前へ連れてくるのじゃ、見極めてやろうぞ」と言ってくれる、そして自分では暴けなかった彼の怪しい部分を白日の下に晒してくれると期待していた。だと言うのにリリアはカラカラと嬉しそうに(楽しそうに)笑って、まるでセベクたちの関係を肯定するかのような反応だ。

    「親父殿、笑い事ではありません。あのセベクが出会ったその日に交際を決めるなんて……何か魅了系の魔法でも使われているのでは」
    「まぁ確かにあの真面目が服を着て歩いておるような性格からは考えにくいがのぅ」

     恋ってやつは面倒なんじゃよ。

     リリアは静かに笑って未だ納得できないと顔を顰めるシルバーの頭を優しく撫でた。視界に銀髪が入り込み、朝日を浴びてチカチカと眩しい。
     
    「ともあれ人を想う気持ちは尊いもの。例え叶わぬものであったとしても……案ずるな、お主にもきっと分かる日が来る。それまで焦らず出会いを大切にするんじゃぞ」
    「……はい、親父殿」

     シルバーの望む言葉ではなかったが、なんだかとても大切なことを教わった、気がする。
     セベクは知っているのだろうか。恋を、しているのだろうか。もし彼がスカリーに恋をしていて、それがどうしようもなく面倒なものだとしても自分は祝福するべきなのだろうか。

    「疑問が増えてしまいました」
    「くふふっ。存分に悩めむか良い。お主らの年頃はそのくらいが丁度いいのじゃ。大体シルバーお主はちと達観しすぎというか落ち着きすぎというか……わしが若い頃は」
    「あっ親父殿もう朝食の時間です。はやく食堂に行かないと新鮮なトマトジュースが売り切れてしまいますよ」
    「むっ!それはいかん、すぐ準備して向かわねば!」


     昔語りを始めかけたリリアの気を逸らし、シルバー自身も朝食を取るため食堂に向かう。よく座る席には既にセベクとマレウスが食後の紅茶を飲みながら会話を(ほとんどセベクが喋ってマレウスはそれを上機嫌で聞いている形だが)楽しんでいた。
     シルバーが声をかけようかと悩んでいるうちに一年生たちとスカリーがセベクを巻き込んでじゃれ合いながら騒がしく教室の方へ行ってしまったので、昨日に引き続きセベクと話ができないまま1日が始まってしまった。




    「スカリー……あぁ、確かに僕もぼんやりとだが覚えている。あの街では貴重な体験をさせてもらった。セベクとやけに仲良くしていたが、そうか、そういうことになったのだな。盛大に祝福してやらなければ」

     次に訪れたのはセベクが最も言うことを聞くであろう相手、マレウスの部屋。流石に尊敬する主君から「付き合う相手は選ぶように」と言われれば(転生?したらしいが)故人であるスカリーとの交際をその場で取りやめるのでは、と考えたからだ。
     まさか放課後自室でガーゴイル作りに没頭しているとは知らず入室を許可されてから1時間も拘りについて熱く語られるとは思わなかったが。

    「祝福、ですか」

     しかしこちらもシルバーの期待虚しく二人の交際に賛成らしい。お祝いに何を贈るか楽しそうに悩んでいる主には申し訳ないが、シルバーは全くそんな気持ちになれなかった。
     祝福よりも先に「挨拶に来た時腰を抱いているのはいかがなものか」「そんな細腕でセベクを支えられるのか」「どこの誰だ」「アズールのような話し方をするな……もしかして:恋愛詐欺」などの考えが浮かんでばかりでまともに会話することすら難しかったというのに。
     
    「あの、マレウス様はあの男のことをご存知なのですか?恥ずかしながら俺は彼の名前すら最近飾られた肖像画を見るまで知らなかったのでどのような人物なのか不明確で」

     学園長が「我が校の出身者に有名人がいると誇らしいですねぇ」と説明していたのを、セベクは自分のことのように嬉しそうに聞いていた。

    「あぁ。中々面白い男だ。生涯をハロウィンに捧げ王と呼ばれるまでになったその一途さはセベクと似ているかもしれないな。初めて見たときは他人の空似かと思ったが、魂がそのままの形をしていたから疑う余地もない」 
    「そう、ですか……」

     となると、彼は本当にハロウィーンの王の生まれ変わりということだ。脳内で骸骨のような男がドヤ顔をしてくる。不揃いな歯に無性に腹が立った。セベクの父ならあの歯を見て卒倒してしまうだろうからそれまでに矯正するか事前に知らせるかしなければ……と、そこまで考えて何故自分がそんなことにまで気を回してやらなければいけないのだと心にモヤモヤが広がる。

    「ふむ。なにやら浮かない顔をしているな。大切な弟が取られて寂しいのか?セベクよりも大人びて見えるがやはりまだまだ幼子のようだな。ふふ」

     にんまりと口角を上げたマレウスはシルバーの眉間をぐり、と指で押す。無意識のうちにシワが寄っていたようだ。
     マレウスはシルバーやセベクを幼児のように扱う時がある。リリア曰く「擬似兄弟というやつかのぅ」とのことで、年上ぶりたい年頃なのかもしれないとも言っていた。年上ぶる必要もないくらいシルバーたちからすれば立派な年上だし、セベクが知れば不敬だぞ!!!!と叱られてしまうがシルバーにとってマレウスは主君の前に幼い頃から、物心つく前から交流のある兄のような存在だった。

    「それで、何故そんなに悩んでいる?セベクに友人が出来たことには素直に喜んでいただろう。」
    「それは……セベクが騙されているのではと」
    「ほう」
    「主観にはなりますが、俺にはスカリーという男が偉人には見えませんでした。人目も憚らず触れ合おうとしたり話し方も大仰で、それにセベクが隠し事をするなんて何か事情でもあるのかと考えてしまって」

     ずっと一緒にいた相手が急に世界を広げて離れていってしまうような不安感。俗世を知らぬセベクが傷つかないよう、浮かないよう見守り時に諌めてきた立場からは到底受け入れられるものではなかった。

    「お前はセベクの良き兄弟子で、先輩だ。そんなお前が心配する気持ちはよく分かる。あの子が顔馴染みのクマに驚かされて泣いていた時クマに怒っていたのもお前だった」
    「そんなこともありましたね」
    「だが、クマに悪気がなかったと知るとセベクと仲良くするよう背を押して無理やり抱きつかせていたな」
    「えっ」
    「ヘビにぐるぐる巻きにされたセベクを助けてまだ泣いていたセベクと一緒にヘビブランコに乗っていたのも」
    「え、あの」
    「天然ワニワニパニックとやらで遊んでいた時は流石の僕も肝を冷やしたが」
    「ま、マレウス様!その辺りでおやめください……もう、何を仰りたいかは理解しました」

     慌てて会話を中断し、顔の熱を誤魔化そうと首を振る。幼い自分の行動に転げ回って羞恥心をどこかへやりたい気持ちに駆られるが、今は我慢だ。
     幼いから微笑ましいと許されたであろうことも、成人した今では大事故モノ。もう既に傷を負った気もしなくもないが、身内にしか晒していない恥などあってないようなものだ。

     まだ話し足りないといった様子のマレウスに礼をして退室する。向かう先は、昨日一言も言葉を交わさないまま別れた大切な弟弟子の部屋。

    「……会う前に火照りがマシになっていてくれればいいが」

     触れた頬は、まだ熱い。





    「こんな夜更けに何用だ。しかも同室の者たちを追い出して……あとで文句を言われるのは僕なんだぞ」

     昨日は頑として口を開いてくれなかったのに、今はいつも通り話をしてくれる。それだけでホッとしてしまうくらい気にしていたようだ。
     セベクは毎晩の勉強のため机に向かっていた椅子を引き、入り口付近で立ったままのシルバーを睨め付ける。その瞳には困惑の色が浮かんでいた。

    「夜分にすまない。昨日の件について、どうしても今日中に話がしたかったんだ」
    「ふん。その件なら今からスカリーを呼ぶから少し待て」 
    「いや、彼は呼ばないでほしい。俺とお前の二人で話がしたい」
    「二人で?」

     スマホを取り出そうとしたセベクを制して、じっとアンティークゴールドを見つめると暫し逡巡してから居住まいを正してこちらの言葉を待つ。
     セベクとこうしてじっくり話をするなんていつぶりだろうか。ずっと一緒にいたから言葉少なくとも通じ合える、それがお互いの信頼の証のようで誇らしかった。だが、今はそうも言っていられない。

    「お前とスカリーとの関係に、家族でもない俺がどうこう言える立場でないことは重々承知の上で言いたい。お前は、彼といて幸せになれると、そう考えているのか」

     セベクの縦長の瞳孔がきゅう、と細くなる。警戒か、動揺か、そのどちらもか。少しでも答えに迷うならそんな男はやめておけと口走りそうになるのをグッと拳を握ることで我慢する。
     沈黙が数秒か数分かは分からないが少し続いた後、「無論」と短い返答があった。

    「僕だって何度も考えた。奴との恋路に障害は多いだろう。種族も違う、出会いだって普通じゃない、口を開けばハロウィンのことばかりだし、歯並びは独特だし、距離も近いし、変人と呼ぶに相応しい男だ」

     でも、と声が震える。
     シルバーはもはや口を挟む気すら起きず、ただ目の前の弟弟子の言葉を待った。

    「僕を想う気持ちが、人間の短い命が尽き再びこの世に生まれ落ちて尚あの日のまま変わらぬと、一生では足りぬほど愛していると言うんだ」

     ぽたり。ぽたり。
     涙が溢れ、セベクの部屋着に落ちる。声は変わらず震えていたが、頬はほんのり色づいて口元には笑みが浮かんでいた。
     大切な人を泣かせる者を許してはならんぞ、と幼い頃養父から言われたのを思い出す。でも、それが嬉し涙の場合にどうすればいいのかは教えてくれなかった。
     だから、たとえ拙くとも、後からバカにするなと怒られても、自分がしたいと思ったことをしようと決める。

    「おめでとう、セベク」

     ゴシゴシと涙を拭うセベクをそっと抱き寄せ、いつのまにか自分より背が高くなった身体を優しく撫でる。ビクッと肩が跳ねたが特に何も言わず好きにさせているセベクは仕返しとばかりにシルバーの肩口に顔を擦り付けて涙を拭いているようだ。

     昔は泣き虫で、一度涙が溢れたら水分補給が必要なくらいずっと泣いていたのに。

    「今日お前たちのことを見ていて気づいた。彼のお前を見る目が、まっすぐで、お前に触れる指が柔らかなこと。お前が彼に向ける顔がとても明るく楽しげなこと。全部に好意が込められていたこと」

     朝の食堂でセベクを呼ぶ声、そっと腰に回された腕、移動教室で見かけた二人の横顔、部活後の更衣室でスマホを見て微笑んでいたセベク。

    「俺は、寂しかったんだ」

     今日意識して観察したセベクが、これまで見たことのない表情をしていた。知らない人のようで、自分から離れて行ったようで。
     友人なら幼馴染で兄弟弟子である自分より近い位置に置かれることはないとどこかで慢心していた。だからセベクに新しい友人ができても喜ばしいと思っていられたのだろう。だが恋人は、愛する人は特別だ。それはセベクの家族を見ても顕著で、シルバーはセベクが手の届かない遠くへ行ってしまうのが嫌だったのだ。

     我ながら幼いと自嘲してしまう。

    「改めて謝罪と祝福をする機会を設けてほしい。お前にも彼にも酷い態度をとってしまった。お前は呆れるだろうが、俺は」
    「……僕が言ったんだ」

     シルバーの言葉を遮ってセベクが口を開く。ぐい、と胸元を押されて距離を取ると、少し乱れた髪の毛の向こうに赤くなった耳が見えた。

    「家族より先に、お前に認めてもらってからがいいと」
    「それは……光栄だが、何故だ?筋を通す礼節に厳しいお前らしくない」
    「僕の家族は、あの人も含め僕に甘いらしいからな。もし気持ちが浮ついていてまともな判断が出来ていなかった場合、それを真っ直ぐに指摘してくれるのはお前しかいないと思ったんだ」
    「セベク……」
    「それに、僕の個人的なことで若様やリリア様の手を煩わせるなどあり得ないからな!」
    「あぁ、そうだな。お二人なら例え駆け落ちしようがお前が幸せならそれで良いとおっしゃるだろう」

     ようやくいつもの調子に戻ったセベクに安心し、そう言えば今日リリアとマレウスにセベクの恋人問題について助言を賜りに行ったことを思い出す。勝手に話してしまったが、これは後に「なぜ僕の恋愛関係をバラしたんだ!」と怒鳴られることになるかもしれない。

    「スカリーにも連絡を入れておこう。シルバーから祝福をもらえると知ったら、奴め感激のあまり気絶してしまうかもしれないなぁ?それか……ふふん、貴様も“洗礼”を受けるかもしれんぞ!」
    「あ、あの、セベク」
    「今日一日中ずっと気にしていたんだ。流石に放課後には僕もつられて不安になっていたが、スッキリした。今夜はちゃんと眠れそうだ」
    「やっぱり寝不足だったんだな。どうりでいつもより動きが鈍いと思った」
    「ちがっ、わ、ない。が、明日の鍛錬では僕が圧勝するぞ!首を洗って待っていろ!」
    「では久しぶりに試合形式でやろう。俺も慣れない思考で思いっきり体を動かしたい気分だ」
    「スカリーが驚いて止めに入るかもしれん、とにかく話が終わってから移動して……」
    「なら彼にディアソムニアまで来てもらって……」

     何かを言おうと思ったのに、今朝からうっすらあった隈の謎が解けたうえ明日の鍛錬の話になって完全に頭から抜けてしまった。






     翌日スカリーとの話の前にマレウスとリリアから存分に揶揄われたセベクは、シルバーが集合場所に現れた途端顔を真っ赤にしてガッと胸ぐらを掴んできた。

    「僕の個人的な交際を勝手に話すな!そんなだからノンデリカシー顔だけカカシなんて言われるのだバカシルバー!」
    「す、すまない……相談できる相手が他に思い浮かばず」

     ガックンガックン、強い力で揺さぶられるシルバーを助けたのは意外にもスカリーだった。
     そっとセベクの肩に手を置き気遣わしげにシルバーを見ながら口を開く。かさついた唇がセベクの耳元に近づくのを見ても一昨日よりも心を乱さず済んだ。

    「セベクさん、大切な兄弟子にそんなことを言ってはいけませんよ!普段はあんなにシルバーさんすごいぞ自慢をして我輩の嫉妬ゲージを溜めまくっているのに」
    「んなっ、スカリー貴様ッ!それは他言するなと約束したのに……!」
    「スカリー殿その話あとで詳しく聞かせてくれないだろうか。俺もセベクの幼少期の話を教えよう。確かさっき親父殿が懐かしがってアルバムを探すとおっしゃっていたから写真もあるかも」
    「なんと!もちろんですお義兄様♡」
    「ふ、ふたりとも僕を置いて話を進めるなぁーーっ!!」

     ディアソムニアにセベクの怒鳴り声が轟く。
     スカリーがシルバーだけでなくリリア、マレウスからもセベクの恋人として公認され事件は一件落着、と思われた。



     2週間後、「電撃ワニワニパニック」と称されるバウル・ジグボルト襲撃事件が起こるとは誰も予想できなかったのだが、それはまた別の話。


    「キュート♡で天才⭐︎なリリアちゃんはお見通しじゃったぞ!」
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