竜の騎士とア〇パンマンディーノを一時保育に預けて、バランとラーハルトは街へ出た。
「たまには息抜きも大事だ。美味しいものでも食べて英気を養おう。いつもディーノの世話をさせてすまないな」
「そんな!可愛いディーノ様のお世話が出来て、毎日が楽しいです」
「ありがとう、ラーハルト。ん?」
「どうされました?バラン様」
「街に来ると色んな店で見かけるのだが、あの丸い顔の人形はなんだ?」
「あっ!あれはア〇パンマンです。
3歳くらいまでの乳幼児に絶大な人気を誇っているアニメキャラクターですよ」
「そうか。ディーノの年頃の子どもに人気があるんだな。どういうアニメなのだ?」
「私が聞いたところによると、ア〇パンマンが街で悪者とされているバ〇キンマンに正義の鉄槌を下して倒すというストーリーのようです」
「なんだとぉ!
それはつまり、ア〇パンマンが己の考えのみが正しいと正義を振りかざし、
街の人間を仲間に引き入れ、バ〇キンマンを迫害しているということだな!
いかにも愚かな人間が考えそうなストーリーだ!
こんなものは絶対にディーノには与えん!」
「仰る通りですバラン様!
しかし、このア〇パンマンの恐ろしいところは、わずかなスキをついて自宅に入り込んでくるところなのです!」
「なに?どういうことだ!」
「これまで世の親たちの多くは
『子どもが生まれてもア〇パンマンなんか買わない!ダサい!我が子には天然木で出来たおしゃれな玩具のみを買い与えたい。キャラものの服なんか着せない』
と心に誓っていました。
しかし気付けば家の中はア〇パンマンだらけ。
みな抗えず侵入を許してしまうのです。」
「そんな!なぜそんなことに!」
「侵入経路はさまざまです。
自分で買わずとも、親戚や友人からの出産祝いやお下がりにまぎれこんでいたり、
突然祖父母からプレゼントされたりします。
1体でも侵入すれば最後。
子どもは夢中になり、次から次へと新商品を買わされます!」
「何という恐ろしいアイテムだ!
しかし我が家にはお下がりをくれるような親戚や友人はいない。
ブラス殿がア〇パンマンを買い与えることもまずありえない。
侵入経路は皆無。大丈夫だ!」
「そうですね!心配し過ぎました」
「ア〇パンマンのことなど忘れて、ゆっくり食事を楽しもう」
「はい!バラン様」
2人は食事を楽しみ、久しぶりに自分たちの時間を満喫した。
「そろそろお迎えの時間ですね」
「ディーノは元気に過ごしていただろうか?」
迎えに行くとディーノは満面の笑顔で駆け寄ってきた。
「おとしゃん!にいに!」
((はあ~~!!!可愛い!!!))
ディーノの笑顔に癒されたのも束の間、ディーノが手に持っている人形を見て2人は驚愕した。
「はぅあ!!」
「バ、バラン様。あれは、、、」
「ああ、間違いない!」
「「ア〇パンマンだ!!」」
「これ!貰たのー!」
「貰っただと?誰にだ?こんなものを貰う道理はない!返してきなさい!」
「レオナちゃんだよ。もう要らないからってくれたの」
「ディーノ君のお父さん?こんにちは」
ディーノより少し年上の女の子が近寄ってきた。
「私があげたのよ。
わたし今はプ〇キュアが好きだから、もうア〇パンマンは卒業したの。
それと理由ならちゃんとあるわ。
今日ディーノ君が私の背についた虫を追い払ってくれたから、そのお礼よ。」
(まだ幼いのに、しっかりとした娘だ。
憎き人間とはいえまだ幼女。
礼だと言われれば、その気持ちを無下にはできん)
「バラン様。どうすれば、、、」
「とりあえずこの場は一旦引こう。
家に帰ってから処分すればいい。
私がディーノの気を引いている内にどこか遠くに捨ててきてくれ」
「は!承知しました」
帰宅後も、ディーノはア〇パンマンを大事に抱えて離さなかった。
「ア〇パンマンは~きみっさ~!」
「ディーノ!なんだその歌は?」
「ア〇パンマンだよ。保育園でア〇パンマンの歌いっぱい聞いたよ」
「!!!!」
「おのれ~。人間どもめ!たった数時間の保育でディーノを洗脳しよった」
「バラン様。早く忘れさせないと危険です」
「そうだな。ディーノよ。そのア〇パンマンはお父さんが預かっておこう」
「え⁉嫌だよ!ぼくが貰ったんだよ!ずっと一緒にいるんだ!」
「ダメだ!渡しなさい!」
「いやだ!」
しばらく押し問答が続いた。
バランの理不尽な要求にディーノの怒りはピークに達していた。
「今日のおとしゃん変!
おまえはいつものおとしゃんじゃない!
バ〇キンマンだな!
くらえ!あーーー〇ぱーーーんち!!!」
ディーノは拳に力を込めてバランに殴り掛かった。
「ぐはーーーー!!」
「バラン様ーーーー!!!」
ラーハルトは目を見張った。
ディーノの右手の拳には竜の紋章が光り輝いていた。
「ディーノ様の紋章が…拳に…」
(バ…バカな‼ありえん‼
長い竜の騎士の歴史において、額以外の場所に竜の紋章が発動することなど一度たりとも無かったはずだ‼
まさか人間の、、、ソアラの血が⁉
ソアラよ、お前までが私が間違っているというのか!)
バランは力なくうなだれた。
「ディーノよ。
お前がそこまで言うのなら、ア〇パンマンを持つことを許そう。
だが、この一体だけだ!これ以上は絶対に許さん!」
「なんで?なんでそんなこと言うの?おとしゃんのわからじゅや!」
「何とでも言え。今さら考え方を変えられん。大人とはそういうものだ」
━それから数週間が過ぎた。
「おとーしゃん!ありがとう!ア〇パンマンの太鼓大事に使うね!」
家の中はア〇パンマンの玩具であふれていた。
「バラン様。これでしばらくディーノ様は太鼓に夢中です。今のうちに家事や仕事を済ませてしまいましょう」
「うむ。急ぐぞ!ラーハルトよ」
部屋にはア〇パンマンマーチが軽やかに流れていた。
~なんのためーにうーまれてーなーにをしーて生きるのかー~
(やなせ先生の歌詞は疲れた大人の心に染みるな、、、)
そんなことを思いながら、今日もア〇パンマンの力を借りて家事・育児に奮闘するバランであった。
しかし、この時のバランとラーハルトは知る由もなかった。
もう間もなく、ディーノのア〇パンマンブームは終焉を迎え、部屋中のア〇パンマンがガラクタと化すことを。
鬼〇の刃ブームが到来し、DX日〇刀を手に入れるため世界中を探し回る羽目になることを。
【完】