天国について「天国か」
ギンの声に、トーバは顔を上げた。
少し離れたところでサツバらと話している彼が、どんな文脈でそれを出したのかはわからない。平然とした顔つきで笑い、顎に手を当ててどこか遠くをみている友人は、会話の返答をどうしてやろうかと悩むふりをしているらしい。
だが、以前彼が「天国」という言葉を出した時は、その顔はもっと違ったように思えた。
「トーバっていい奴だよな」
記憶のなかのギンは、そういいながらこちらが渡した缶ジュースを受け取っていた。日差しが強くなってきた時期で、自販機から吐きだされたばかりの缶は、肌に当てたくなるほど冷たい。
「この快晴時に、財布も持たずぶらついてるお前のほうが信じられないだろうが」
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