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苺色の月の輝く、甘い匂いのする夜だった。
冨岡義一はとにかくモテる。
小学校内外で待ち伏せをされての「好きです」に「ごめんなさい」は日常茶飯事、親友たちと通うスイミングスクールでは上下級生に保護者にコーチにと全方位からお気に入りにされ、上半身を脱いでいるからちょっと困ることもあり、その他にもあれやらこれやらどこでもいつでも、年齢性別職業既知未知に見境のないオールラウンダーは、成長につれて重たくなっていく、他人から一方的に向けられる感情から逃げ回っている。
「義一はさ、ダダもれなんだよね」
というのが、ちょっと不思議なことを時々口にする真菰の見立てである。
「本来なら開いていないはずのところが全開になってる、っていうか」
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