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    Leko_HB

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    ↓以前書いた三上兄がプロチームのHCをしている時空のK2の話です。
    長くなったので前後編に分けます。

    https://poipiku.com/33325/7775933.html

    #HB二次創作

    雪がとける日に(前編) 日本で一番雪が降ると言われるこの街の寒さは、僕にとってはなんてことないものだ。確かに寒くはあるが、道路は除雪され歩く道はあるし何よりコンビニや自動販売機で温かいものがすぐに買える。日本人は皆『田舎』と言うけれど、ロシアの山奥にある僕の実家を思い出せば大都会にすら思えた。
     
     ──この街に来たのはちょうど2年前になるだろうか。

     大学4年の卒業間近南郷大の監督に呼ばれ、下部チームで外国籍として契約を考えているというオファーが来たと告げられた時は本当に驚いた。その時の僕は丁度進路に迷っていた時期だった。バスケの強豪である大学の周りの皆は社会人チームに内定したり、教員免許を取って体育教師への道へと順風満帆に進路を決めていた。中でも高校からのチームメイトである圭悟は大学3年の時には既にプロリーグの上位チームから特別指定選手として声がかかり、既にプロのコート上で活躍し始めていた。他の筑波の皆も順当に各々の進路が確定した中、僕だけが宙ぶらりんのままだ。
     理由はハッキリしている。僕が小柄な外国人だから。
     急速に発展していく日本バスケ界で、プロ選手としての僕の価値はとても低い。各チーム3人までしか在籍出来ない外国人枠は2mを越えた屈強な大型センターか、リバウンドも取れて外からも打てる万能型選手の為のもので、僕のような180cmに満たないシューターはお金を出して契約してもらえる枠じゃない。
     そんな中で、僕の選手としての希望を見出せるとしたら帰化枠を狙うことだ。外国籍の枠とは別に、アジアの指定地域と帰化した選手が所属出来る枠が各チーム1人ずつある。アジア・帰化枠は技術さえあれば小柄な選手でも在籍させてもらえる確率が高い。僕の可能性はこれだけだ。
     なのに、決心はつかなかった。
     帰化するということは故郷を捨てることの様に思えて、家族と同じ国籍という繋がりと自分のアイデンティティを失うのはとても怖かった。
     そして、帰化したところで本当に僕と契約してくれるチームがあるかどうかはわからない。プロではなく社会人チームを目指し、就職も考えたがそれだって条件は同じだ。大学1年の時からずっと悩み続けていた問題は、卒業の日が近づいてくるにつれ僕の人生の大きな悩みとなっていく。

     中でも僕の心を乱したのは、大学2年の時のニュースだ。アジアの国際大会の選抜メンバーに同じ2年生である元喜屋武水産のケンプ君が選ばれたというニュースに、大学バスケ界は大きく賑わった。
     学生から選抜されることは珍しいが、それでも僕たちの一つ上の世代には高校卒業後すぐに日本代表となった高城選手がいる。それでも、その次に学生で代表に選ばれたのがケンプ君だということには周りの皆も驚いていた。
     だけど、驚きはしても不思議ではない。元々日本代表の一番のネックは日本人ビッグマンの少なさによるものだ。そんな中アメリカ人と日本人のルーツがある彼は2m超えの身長と日本国籍を持ち合わせている。走れてゴール下も強い若手選手は上位のプロチームからもいくつもオファーが来るものだ。
     実際にアジア大会の後すぐに東京の強豪チームから特別指定選手として声がかかっていた。
    「うらやましい」
     気がついたらニュースを見ながらそのまま口に出していた。とてもフユカイで自分の価値を下げる言葉だ。ただ自分の実力の足りなさを、同世代のプレーヤーにぶつけた自分自身の幼さにとても恥ずかしくなった。落ち込みながら、記事をスクロールするとケンプ君のインタビュー動画があったのでそのまま再生ボタンを押す。そこにはとても嬉しそうに意気込みを語るケンプ君が居た。在籍している大学のコーチや招集してくれた代表のコーチへの感謝と意気込みを語った最後に彼は言った。
    「I love mama,papa. ボクを大きく産んでくれてありがとう」
     動画を閉じ、彼のバックボーンを羨んでしまった自分に情けなくなって少しだけ泣いた。

     進路も決まらないまま大学4年になる頃、真琴から連絡が来た。圭悟が特別指定で在籍しているチームの試合を皆で観に行こうという誘いで、久しぶりに筑波のレギュラーだったメンバーが揃うことになった。
     この時点でプロを目指してバスケを続けているのは僕と圭悟だけだ。
     実家の和菓子屋を継ぐ為に京都へ戻った尚樹以外の4人は皆南郷大へと推薦で進学した。けれど真琴だけは理工学部に進んだので、結局体育学部でバスケを続けているのは僕と圭悟と林田の3人だ。当然のように体育学部に進んだ組は3人ともプロリーグを目指していくのだろうと思っていた。
     けれど僕のそんな勝手な予想とは裏腹に2年になる頃に林田はプロは目指さず教員免許を取ると言い、選手としては大学で終わりにすると僕たちに打ち明けた。何も考えていないように見えて実は周りの人や自分のことが見えている林田らしい答えだと僕は思ったけれど、圭悟にとってはショックだったみたいだ。一人ずつ一緒にバスケをプレーしてきた仲間が減っていくのは彼にとっては寂しいことだったみたいで、そんな圭悟に「僕はバスケを続けるヨ」と声をかけた時は少し嬉しそうに笑ってくれた。
     でも結局僕はこの国でバスケを続けられるのかもわからない所に立っている。
     尚樹も林田も真琴もそんな僕を心配してくれて、久しぶりに会ったのに皆は近況報告よりも先に僕のこれからについて次々に提案してくれた。
    「ALTとかあんだろ、俺が実習行くとこで聞いてきてやるからよ」
    「俺の家に外国人技能実習生として来ればいい」
    「僕が立ち上げた会社で雇うよ。K2なら語学力でも技術力でも申し分ないしさ」
     高校1年の頃はクールに見えた皆が僕を心配して凄い勢いでまくし立てる様子はなんだかおかしくて思わず笑ってしまう。
    「アハハ、皆ありがとう。僕は良いトモダチに出会えて嬉しいヨ」
     僕の言葉に3人が少し照れている。だけどこれは本当の気持ちだ。
    「でもね、まだ僕はこの国でバスケがしたいんダ。家族の為を思うならきっと皆の言う通り確実に仕事が出来る方を選んだ方がいいんだと思う」
     皆に自分の気持ちを話していたら、僕の中でずっとモヤモヤしていた自分がバスケに関わっていたい理由がハッキリとわかった。
    「僕はネ、まだ悔しいんだ。インターハイで届かなかったブザービーターが。あの届かなかった0.2秒は僕を日本のバスケから離れなくしたとっても長い時間なんだヨ」
     笑いながら自分の気持ちを皆に伝えると、皆も納得したように僕に笑ってくれた。
    「さあ、試合が始まっちゃうヨ。圭悟の応援に行こう」
     青とオレンジの光に照らされた美しいプロのコート上に立つ圭悟の姿は、僕たちの誇りそのものだった。

     この国でバスケがしたい。そんな自分の明確な気持ちに気づいても状況が良くなった訳じゃ無かった。外国籍のまま受けられそうなトライアウトには全て送り続けどんな小さなチャンスでも掴む為に必死にスキルと知識を磨き、ウエイトを増やしたものの合格まで辿り着くことは叶わなかった。
     そもそもトライアウトは日本人メインのもので、外国籍の僕が受けられる試験は結局身体の大きなセンター向きの外国人選手達だけが最終選考に残っていった。
     そして時間はすぐに流れていき、大学4年の1月の頃には流石にもう諦めの気持ちが少しずつ心に広がっていく。大学の体育で一人シュート練習をしながら、そろそろ真琴に泣きつこうかな、とリングの中央に吸い込まれていくボールを見つめた。
     そんな時ガラガラと体育館の扉が開く音がし、振り返るとそこには大学のバスケ部の監督がいた。
    「K2、良かったここに居たか。今から監督室に来てくれ。話すことがある」
     急に告げられたその言葉に思わず身構えてしまう。今後の進路についてやビザのことなど、僕については色々めんどくさい手続きが沢山あるのだから。
     監督室のソファに座らされて、テーブルを挟んで向かい合うと監督は困ったように口を開く。監督のその表情を見て、きっとこれから僕がこの国で出来るバスケの最後の日が決まるんだ。そう覚悟した。
    「K2、お前を来シーズンから外国籍として契約したいというオファーが、あるプロチームから来た」
    「……правда」
     思わず母国語で驚いてしまった。
    「驚くのも無理は無いな。俺ですら今本当に驚いてる。もちろんお前にとっては良い話でしかないと思う」
    「そんな、僕を取りたいなんて、3部リーグでもありがたいことデス」
    「それが、2部リーグの中位に位置するチームだ」
    「……Не может быть」
     まったく想定していなかった話の内容に頭が追いついていかない。2部リーグで中位についているくらいなら1部リーグを目指してもおかしくない圏内だ。それなのに貴重な枠を僕で使うというのだろうか。
     驚きすぎて固まってしまった僕の様子に、苦笑いしながら監督は口を開いた。
    「それがな、お前を獲りたいと言ってきたチームのヘッドコーチはお前もよく知っている人だよ。三上克彦HCだ」
    「三上コーチ」
     懐かしい響きに6年前の記憶が蘇る。三上コーチに拾われてこの国に来たのに契約を果たさなかったのは僕の方だ。なのにどうして。
    「確かに三上HCの居るチームは地方チームだから、財政的に潤沢な訳ではないんだ。それでもお前に話を寄こすってことはきっと何か考えてることがあるのか、もしくは圭悟が何か動いたかな。でもどっちにしろ弟が推薦したってだけで情けかけるような人じゃないだろう。契約するのはK2自身だ。まず話を聞いてきなさい」
     監督はそう告げて、僕と三上HCが会う日程を調整してくれた。三上コーチがHCを務めるチームの試合が2週間後越谷であるそうだ。つくばから向かう僕と場所の都合が良いということで東京の北千住で会うことになった。色々契約内容などで秘密にしなければならないことがあるので大学の監督は同行しない。あくまでも僕と三上コーチが二人で会うんだ。
     三上コーチとの最後の記憶はブーイングの中体育館を去るコーチの後ろ姿だ。圭悟の件があったけれど僕を日本に連れてきてくれた恩人に牙を向いたのは僕の方だ。日本式の「セイイ」を見せるために、時代劇でよく見る土下座ってやつを僕もするべきかな、なんて柄にもないことを考えて思わず一人で笑ってしまった。
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    Leko_HB

    DOODLE↓以前書いた三上兄がプロチームのHCをしている時空のK2の話です。
    長くなったので前後編に分けます。

    https://poipiku.com/33325/7775933.html
    雪がとける日に(前編) 日本で一番雪が降ると言われるこの街の寒さは、僕にとってはなんてことないものだ。確かに寒くはあるが、道路は除雪され歩く道はあるし何よりコンビニや自動販売機で温かいものがすぐに買える。日本人は皆『田舎』と言うけれど、ロシアの山奥にある僕の実家を思い出せば大都会にすら思えた。
     
     ──この街に来たのはちょうど2年前になるだろうか。

     大学4年の卒業間近南郷大の監督に呼ばれ、下部チームで外国籍として契約を考えているというオファーが来たと告げられた時は本当に驚いた。その時の僕は丁度進路に迷っていた時期だった。バスケの強豪である大学の周りの皆は社会人チームに内定したり、教員免許を取って体育教師への道へと順風満帆に進路を決めていた。中でも高校からのチームメイトである圭悟は大学3年の時には既にプロリーグの上位チームから特別指定選手として声がかかり、既にプロのコート上で活躍し始めていた。他の筑波の皆も順当に各々の進路が確定した中、僕だけが宙ぶらりんのままだ。
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    DOODLE↓以前書いた三上兄がプロチームのHCをしている時空のK2の話です。
    長くなったので前後編に分けます。

    https://poipiku.com/33325/7775933.html
    雪がとける日に(前編) 日本で一番雪が降ると言われるこの街の寒さは、僕にとってはなんてことないものだ。確かに寒くはあるが、道路は除雪され歩く道はあるし何よりコンビニや自動販売機で温かいものがすぐに買える。日本人は皆『田舎』と言うけれど、ロシアの山奥にある僕の実家を思い出せば大都会にすら思えた。
     
     ──この街に来たのはちょうど2年前になるだろうか。

     大学4年の卒業間近南郷大の監督に呼ばれ、下部チームで外国籍として契約を考えているというオファーが来たと告げられた時は本当に驚いた。その時の僕は丁度進路に迷っていた時期だった。バスケの強豪である大学の周りの皆は社会人チームに内定したり、教員免許を取って体育教師への道へと順風満帆に進路を決めていた。中でも高校からのチームメイトである圭悟は大学3年の時には既にプロリーグの上位チームから特別指定選手として声がかかり、既にプロのコート上で活躍し始めていた。他の筑波の皆も順当に各々の進路が確定した中、僕だけが宙ぶらりんのままだ。
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