1.しあわせを込めて パチパチと音を立ててフライパンの上で踊るのはギネマの実。
「今日のメニューはみんなが大好きな……アレです」
「アレ?」
「……」
「……あれ?」
レスポンスの遅さに相棒は思わずキッチンに向かうコリンクのツートーンな背中を覗き込む。
みんなって誰? というつっこみを忘れさせるほど――たっぷり十秒は溜めてから発表されたそれは。
「じゃん」
フライパンの火を止めて、飴色に炒まったギネマの実を冷ましながら振り返る。
いつの間にか彼女の両手に収まっていたのは、異様な存在感を放つ缶だった。
パッケージに描かれたどこかで見たような男性の顔。崩れることのないその笑顔。
「そ、それは……!」
思わずアカネは切り株の机から立ち上がる。わなわなと水掻きのついた手が震えている。
「世代的にもシリーズ的にも幻の"ボブのかんづめ"……!」
ヤヨイのタメに負けず劣らずの迫真の声色でメタ全開である。
「そう、今日はボブと共に歩もうと思うんだ」
「ボブ缶とギネマ……なるほど」
誇らしげなヤヨイのボケにはもうつっこむ気力も無いらしく、アカネは机に向かって座り直し得心した様子。
完全にスルーの構えに入った相棒を尻目にヤヨイは口を尖らせてちぇー、と呟きフライパンに向き直る。
横に置かれていたボウルに缶の中身を入れて塩をふりかけ暫く混ぜる。パン粉とモーモーミルク、ラッキーに貰ったしあわせたまごを入れて、混ぜ続け……まとまりが良くなったところで二つに分ける。楕円形に伸ばして肉球で真ん中をへこませれば、滑らかなハンバーグのタネが完成した。
「ちょっと待って今しあわせたまご使った?!」
「え、うん」
慌ててボウルに駆け寄ったアカネは、けいけんち……と呟いて崩れ落ちた。