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    柿村こけら

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    柿村こけら

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    おれはバニーガールが好きなオタク。

    #遊了
    tour
    ##YGO

    バニーガールVS逆バニーの遊了 真っ白な部屋について、遊作が抱く感情は恐怖だ。置かれたVRゴーグル。強制的に行われるデュエルの成績で変わる食事。敗北に付随する容赦のない電撃。狭い部屋には自分の他に数字しかなく、寂しいという感情さえいつしか失ってしまった。
     今だって、似たような部屋は怖い。
     もう十年以上前のことだと言うのに忘れられない。半年間で遊作の身体に与えられた恐怖は、恐らく一生消えやしないだろう。例外なのはスペクターくらいで、恐らく尊や美優だって真っ白な部屋に入れられれば何らかの発作を起こすはずだ。
     それでも今、遊作が正気を保っていられるのは――ひとえに、目の前にある安っぽい電光掲示板のおかげだった。古いラーメン屋の看板などで「激安! ラーメン! 大盛り!」と書かれているような旧式の電光掲示板は、チカチカと眩しい光を放っている。そこに記載された文字列は十六進数でもイグニス・アルゴリズムでもない、至って普通の日本語だ。
    「『置いてある服を着ないと出られない部屋』……Aiでもこんなことはしないだろうが……」
     文字を読み上げながら遊作は呟いた。左腕にデュエルディスクはなく、ようやく復活したはずの相棒は部屋の外にいるらしい。唯一の救いは隣に了見がいることくらいだろうか。一人なら情けない顔を見せていたかもしれないが、遊作とて恋人の前では強がってしまいたくもなる。
     部屋の状況を把握したところで、はあと溜息を吐いてから遊作は了見の身体を揺すった。二人して何者かに襲撃されてこの部屋に連れ込まれたのだろうか、記憶は定かではない。気絶していただけの了見はゆっくりと目を開き、それから室内を見回して「……誘拐か?」と冷静に告げた。
    「さあな。俺も直前の記憶がないから、どうしてこんな部屋にいるかは不明だ。三つ推理しようか?」
    「不要だ。貴様が思い付くようなこと、私が思い付かないわけがないだろう。……で?」
     状況のせいで苛ついているのか、了見は不機嫌そうに腕を組みながら細めた目で電光掲示板を見遣る。「何だこれは」と問うことさえ嫌なのだろう。とは言え遊作もそれに対する答えは有していないのでどうしようもない。
    「見ての通りだ」
    「……またあの厄介なダンジョンではあるまいな」
    「少なくとも俺たちは生身のようだし、あそこは関係ないんじゃないか。それで……どうしようか、この服」
     電光掲示板の下には丁寧に畳まれた服が二着並んでいる。しかし、それは制服や浴衣といったような服ではなかった。もちろんPlaymakerやリボルバーの纏うようなスーツでもない。
     つるつるしたエナメルの生地に、機能性はまるでなさそうなカフス。それにすぐ破れてしまいそうなストッキングと、赤いハイヒール。トドメとばかりに一番上に乗っているのは、ウサギの耳を模したカチューシャだった。
     いくら普通の高校生とは違う生活を送ってきた二人でも、それがいわゆる「バニーガール」の衣装であることはすぐに解った。
    「どう見ても女物だろう、これは……」
    「しかし、これを着ないと出られないんじゃないのか。二着あるし」
    「こんな意味不明な指示に従うと?」
    「俺は『デュエルをしないと食事が貰えないし部屋からも出られない』という意味不明な状況で半年生き延びた経験があるから、生死が関わっていないだけこっちの方がマシだと思うぞ」
    「ウグゥ」
     ダイレクトアタック。一気にLPをオーバーキルされ、了見はその場に蹲った。精神攻撃は基本である。
     既に死に体の了見は膝立ちをしながらもう一着のスーツを手に取った。しかしそちらは、遊作が広げたものとは少し毛色が違っている。エナメルの生地は同じだが、カフスに袖が直結しているのだ。それに、なぜかストッキングではなくサイハイブーツのような形をしたエナメルの靴がセットになっている。何より特徴的なのは、赤いボディスーツが欠けていることだった。
    「どういうことだ? 服部分が完全に欠損している」
    「確かにこれじゃ、腕と足しか隠せないな。まるでこっちの服とは逆だ」
     二つのバニースーツを合わせれば全身を覆うことができそうだが、微妙にサイズが違う。合わせて着るためのものではないのだとしたら、どうして違うデザインなのか。そもそもボディスーツはどこにいったのか。百歩譲って(本当は一億歩くらい譲って欲しいが)これを着なくてはならないとしても、これでは首から太ももまでに何も残らない。
    「しかしこれ以上はないみたいだぞ。カチューシャは二人分あるし、俺たちでこれを着ないと出られないんじゃないのか?」
    「……」
    「……」
     二人の視線が交錯する。
     例え恋人の前と言えど意味不明な空間で謎の服に袖を通すにあたって、譲れないものはある。二着のバニースーツのうち、片方は明らかな「ハズレ」だ。服として機能していないそれを着るのはいくら何でも無理がある。
    「……チッ。カードがあればデュエルで決着をつけるところだったが」
    「了見、お前に風は吹かないぞ」
    「うるさい黙れ。大体遊作、貴様いつもなら自分が犠牲になるだの私にそんな格好はさせられないだの言ってくるだろうが! 何故今回に限って言わない!?」
    「決まってるだろう! 普通に嫌だからだ!」
    「貴様……!」
     いくら遊作でもそれは着たくない。もちろん了見が泣き落としにかかったら降参してしまう可能性はなくもないが、状況が状況なのでギリギリプライドが競り勝っているのだ。揺らぐ気配のない恋人に了見はチッ、と舌打ちをする。
    「そういうわけだから諦めろ。どうする? 公平にジャンケンで決めるか?」
    「ジャンケンか……仕方ない」
     最初はグー、と遊作が告げ――遊作はグー、了見はパーを出した。今度は遊作の方がガックリと崩れ落ちる。一方で了見は大人気なくガッツポーズを決め、旧アバター時よろしく高笑いを零した。
    「残念だったな遊作。風が吹かなかったのは貴様の方らしい」
    「くっ……! しかし、勝負の結果だから悪あがきはしない。了見、そっちの服はお前に譲――」
     る、と言おうとして。
     遊作は目の前の了見をじっと見つめた。緑の双眸に見つめられ、何事かと了見は首を傾げる。しかし了見が問いかけるより先に、遊作は立ち上がって無言では了見の胸に両手を伸ばした。
    「……何をしている。返答次第では殴るぞ」
    「殴ってから言うな。あとこのネタ、ETDと被ってるぞ」
    「帯でわざわざ主張したからもう一度やったまでだ。……で? 貴様、何をしている」
     ギャグ漫画のような大きなたんこぶをこさえた遊作は了見の胸から手を離しつつ「いや……」と申し訳なさそうに足元の服を見遣る。並んだ二着のバニースーツ。布面積が多い方を勝ち取った了見は、遊作の視線を追ってから目を細めた。
    「何なんだ。何かあるなら早く言え」
    「……了見、この服、入らないんじゃないか?」
    「は?」
    「理由は三つある。一つ、このバニースーツは付け襟のボタンの構造を見るに女性用だ。二つ、了見の胸囲は明らかに想定より大きい。最後に、わざわざ胸部の布がないデザインのものも用意されている!」
    「……ッ!」
     ビシッ! と遊作がもう片方のスーツを指し示す。確かに遊作の言う通り、布地がある方のスーツはどう見ても了見が着るには厳しいサイズだ。背はまだ遊作の方が小さいし、体力の割に細い彼ならばこのスーツもギリギリ着れるだろう。反駁を見付けられなかった了見はガクリと首を折る。
    「というわけで無事スリーカウントノルマも達成したところで、諦めて了見はそっちを着ろ。ページ数が残り少ないんだ」
    「くっ……! アンケートを取った時点で大抵の人間は『了見がバニーを着るアホエロ』だと思っただろうに……!」
    「無配なのをいいことにメタネタに走りすぎるなよ。大丈夫だ了見、逆バニーもバニーであることに変わりはないし……ん?」
     ポン、と了見の肩を叩いた遊作が不思議そうな声を漏らす。翠緑の双眸が見ているのは安っぽい電光掲示板だ。チカチカと相変わらず眩しい光を放っていたそれの文字が、一文字ずつ変わっていく。最初は「置いてある服を着ないと出られない部屋」とあったはずなのに、光る文字はピンク色になった上に「服を着てからセックスしないと出られない部屋」に変化していた。
    「……最低のエラッタだな……」
    「……どうする?」
     一応、といった風に遊作が了見に問いかける。了見はニコリと珍しく満面の笑みを浮かべると、床に広げられたバニースーツに手を伸ばした。
    「続きはWebで」
    「……もうスペースないからな」
     呆れたように遊作は告げると、溜息を零しながら制服のネクタイに指を掛けた。



    2020.08.08 柿村こけら
    バニー運囚が流行ってるそうなのでいつぞやの無配を再録しました
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    ❤😭💖🌋
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    p_manxjugg

    MOURNING本当はこれも本にしたかった作品でした…。ただ書き続けるのが困難になってしまったのでこちらにて供養したいと思います。
    moratoriummoratorium

    (ブリテン共々落としてやろうと思ったのにな。)

    奈落に落ちゆく中でオベロン=ヴォーティガーンは思った。旅をしていく中で感じた違和感が確信に変わった時(そんな茶番終わらせてしまいたい)と思うほどに苦々しい思いをしたからだ。カルデアのマスター藤丸立香はごく普通の人間だ。特に秀でたところはなく、最初こそ注意深く見ていたが見れば見るほどに彼女が平凡な女性ということしか感想を持てなかった。だからこそだ、冒頭のようなことをオベロンは強く思ったのだ。彼女はもう自分一人の意思では止まれないところまで来てしまった。「ここで引くわけにはいかない」という『諦めることを諦めてしまった』、その事実に憤りを感じざるを得なかったのだ。自分はまだいい。「そうあれ」と望まれて生まれたのだから。だが、彼女はそうではない。あの時奈落で対峙した時の彼女の意思の強い目を思い出す。あれは決して正義としての意思の強さではなく、もう後がないことへの決意だったのだ。ならば最後に…夢に訪れた彼女はなんだったのか。虫たちと戯れていたあの姿は。オベロン自身が招いたつもりはなかった。ならば…。そこで思考を停止した。考えても仕方がない。今更考えたところでもう終わったのだ。彼らは見事奈落から脱出し遥か彼方へと旅立っていった。
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