まだら「アブトの目、綺麗だからよく見せてよ」
突拍子無さすぎたかな。理由なんて何でもよかった。ただ、木漏れ日の下で佇むお前を見ていたら、あるキモチが溢れてきて。それの正体を確かめたくて、気づいたら口に出していた。
すぐに取り消そうとしたけれど、「お前のも見せてくれるなら」と返された。
本気か、と喉元まで上がってきた台詞を間一髪飲み込む。
全く予想だにしてなかった展開に、言い出したのはオレからなのだけど、急に照れ臭くなる。ますますそのキモチが大きくなった。しかも揺れている。
ざぁ、と木立の繁った葉が風に鳴った。
隙間から差し込む光が、オレのキモチと同じようにゆらゆらする。その光は、アブトの頭に体に優しく降りかかり、斑に煌めかせた。
やっぱり止めておこうかな、と考えたのは一瞬で、探求心と好奇心には勝てずに「じゃあ」とアブトへ近づいた。
一歩分だけ開けて止まる。
普段でもこんな近さで、しかも真正面から向き合うことなんてない。
ゆらゆらしたキモチは優しいものではなくなってきた。
こんなにも距離が近いのに、アブトの様子は普段とまるで変わらない。オレばかりが緊張している。
一歩分の距離。とても重くて遠い気がした。
内側からオレを叩く鼓動は痛いくらいになっていて、掌も汗ばむ。
挙動不審にならないように振る舞いたいけど、きっと失敗してしまっているな。
頬が熱くなる。きっと赤い。でも構ってる余裕なんてない。
急にアブトから手が伸ばされた。整備のために日頃から工具を握っている掌は、よく見たらタコができている。オレとそう変わらない大きさのこの手で、いろんなものを握りしめて来たんだ。それは道具だったり、マウスだったり、…何かの想いや覚悟だったりするんだろうな。
それが今は柔らかく開かれて、オレの頬へと伸ばされている。
未知なるコワサが出てきて、オレはきゅっとアブトの腕を掴んで止めた。
それに構わず、綺麗な黄蘗の瞳は観察するかのようにただオレをじっと見つめてくる。
…何を考えているんだろう。普段以上に読めない表情を浮かべるアブトの、オレよりも色の白い頬に手を伸ばした。オレの手は、止められなかった。
これから何をするか、したいかなんて考えていない。
ただ、木漏れ日の下で俺たちはお互いを確かめあっていた。そんな気がする。
跳ねていた心臓は、普段よりも力強くはあるが、心地良い感覚へとシフトしていた。
このキモチに名前を当て嵌められることが出来たら、この一歩をなくせるだろうか。