黄色の星 あれは何だと聞いたら姉上は
「あれは信号。赤が止まれ、青が進め、黄色は赤に変わるから注意しなさいってことなの」
地上へ何度も人の姿で探索や調査をしていた姉は、自動車という乗り物を操縦できる。
最後に少しだけ走らせて、と。車のキーを指先で回してみせた姉は私を隣の席に押し込んだ。
大気を汚す悪きものだと決めつけていたが、乗り心地は悪くない。
巧みにハンドルを操る姉上の鼻唄をうたいだしそうな様子を横目で見ながら、今まで聞いたことはなかったが彼女はこういった機械が好きなのかもしれないとぼんやり思った。
席に背中を預けながら、後ろに過ぎ去っていく人の社会の景色を眺めていたら、ふと道の至るところに配置されているものが気になり尋ねたのだ。
行き交う乗り物がそれが提示する色で動きを止めたり進めたりするので、それの有用性は分かる、しかし一つだけ純粋に疑問だった。
「赤と青だけで事足りるのではないのか?」
「言われてみればそうね? 歩行者用の信号には黄色はないし。黄色が付いてるとより安心して走れるからかしら」
「なぜ?」
「止まれ、進め、だけより分かりやすいし、どんなにスピード上げてても黄色が出たらすぐに注意できるわ」
姉上の説明を受けながら雲がかかって見えづらい、進め色をした空を見上げる。
ユゴスピアから眺めていた地球。その念願だったはずの地上から、逆に宇宙を探しながら漠然と思った。
自分は、戦士として立派に生きて散ったかつての臣下へ、緑色については言及したがその他の色については考えていなかった。
全力で走るための黄色。
かつて地下で対峙した色のシンカリオン。暗がりでも眩しかった威風堂々とした巨体を思い起こす。
当たり前のようでいて、難しいことを、己はずっと考えずに放棄していた気がする。
守られなければ、強くはいられない。
ならばあの時、守るものはあっても、守ってもらえるものがいなかった悪魔が敗れたのは当然だったか。
「何を考えているの?」
己を守ろうとしてくれた、そして護ってくれている人に、
「早く、ユゴスピアに帰りたいと思っていただけだ」
自分の走るべき道をもう一度、共に確かめるために。
今度は、己が皆が走るための黄色い星になれるよう。