わがままひとつ今日は俺の誕生日。それを知っていた上司の菊田さんが、食事に誘ってくれた。定時を少し過ぎてから菊田さんと一緒に会社を出る。
よく行く店に入り、いつものように注文を済ませた。
「有古、誕生日おめでとう」
乾杯、と菊田さんが掲げたグラスに自分のグラスを軽く合わせる。明日も仕事なのでそれほど飲めないが、まだまだ暑い日が続くなかで仕事終わりの一杯はうまい。
料理も運ばれてきて箸をつけたところで、
「遅くなりました」
とよく知る明るい声が響いた。驚いて個室の入り口を見れば、予想通りの人物が靴を脱いでいる。
彼女が来るなんて聞いてない。
慌てて菊田さんを見るが、菊田さんは俺の視線に気づいていないのか、彼女を俺の隣に座らせておしぼりを渡している。
1940