遮光ㅤ明け方の透明な空気が街の輪郭をやわらかくぼかし、ヴェールのような光をさらさらとこぼす。少しずつ鳥の声が戻り、人々、あるいは自動車の息づかいが通りに満ち始める。同居人の今井が仕事から帰ってくるのは、たいていそんな時間帯だった。
ㅤ土鍋の中の雑炊はくつくつと穏やかに煮え、静謐なリビングにほのかな出汁の香りをただよわせている。最近新調したばかりの壁時計を確認しつつ、今日の彼はどのくらい疲れているだろう、と考えた。たくさん酒を飲んできたならこのたまご雑炊を食べさせてやればそれでいい。ただ、体力を使ってきたならば、もっとたんぱく質を摂るべきだ。すこし悩んで、焼き鮭を加えることにした。グリルを使うと掃除が面倒だが仕方がない。
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