秘密の宝箱 胸の奥に、宝箱がある。
蓋がきゅぅと弧を描いている、絵にかいたような「宝箱」。
誰にも見せられない、大事な宝箱。
「好きだよ、鈴さん」
夏の日差しは和らぐことを知らなくて、髪の下がじんわりと汗ばむ。頬をつたう程ではないことに感謝しながら、エコバッグ片手に歩いている時だった。
それまで隣を歩いていたのに、急に立ち止まるものだから、数歩離れた所で鈴も立ち止まる。顔と、右肩だけで少し振り返って、立ち止まった彼を見れば、彼は鈴をまっすぐに見ていた。
そして紡がれた言葉に、鈴の胸がコトリと音を鳴らす。ひとつ深呼吸をすれば、すぐに胸の奥の音はおさまった。
「ありがとう」
まっすぐ、真剣に言ってくれる恵に、鈴はいつものように返す。けれど、その返答を彼は望んでいなかったのだろう。ぎゅぅ、と眉間に深い山脈を築いて、咎めるように鈴を見つめてくる。見ていられなくて、視線を少し下げた。
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