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    shikimi_note

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    尻叩きのために新刊になるはずの空十の冒頭載せます

    ##新刊

    新刊予定掛かっていた
     まるでデートみたいだ。
     平日の昼間。人の少ないショッピングモールの中を、十四は空却と並んで歩いていた。
     実際はデート、ではない。単にふたりで買い物に来ているだけだ。だが、ふと、デートみたいだと思ってしまったら、胸が弾まずにはいられない。緩んでしまいそうな頬を、気合を入れて引き締め直す。にまにまなんかしちゃダメだ、変な表情や態度を見られて、からかわれなんかしたら……真っ赤になって、そして自分は恥ずかしさのあまりに走り出してしまうだろう。そんなみっともないこと、するもんか。
     自分が見せられる一番いい顔で、空却さんの隣を歩くんだから!
     十四は胸の中に深くしっかりと、自身の言葉を刻んだ。
     好きな人の隣を歩くのだ、誰よりもいい姿勢をした、にこやかな表情の自分でいたい。そんなことを思う片想い中の自分自身が、照れくさくて、そして誇らしい。
     通りすがる人たちに教えてあげたい! この人は空却さん、自分の大好きな人っす!
     乱暴者だし、人の話は聞かないし、おっかない。波羅夷空却という男はそういう人物だった。しかし、十四はそんな彼に惚れていた。ただ、強引なだけじゃなくて(そこも魅力ではあるんだけれど)、ふと見せる、心根にある優しい部分だとか、なんだかんだ面倒見がいい部分だとか、あと、所作が意外にも美しいところ……そういう一面に気が付いてから、どうも彼に対してときめきが収まらない。世間ではこれをギャップ萌えとでも言うのだろうか。
     空却さんの魅力をたくさんの人に知ってもらいたい! だけど、自分の中で秘密にもしておきたい……。みんな空却さんに惚れちゃったら困るっすからね、なんて。
     表には出さぬとも、これ以上ないくらいに十四の頭の中は浮かれまくっていた。
    「なぁ十四」
    「は、はいっす!?」
     声をかけてきた空却に、十四は肩を跳ねさせた。
    「そんなに驚くことねえだろ」
    「ちょっと考え事してて。どうかしたっすか?」
    「ん、いや、どっかお前が寄りたい店あったら寄るけど、なんかあるか?」
    「え?」
    「時間あっからよ。別にどこもねえなら帰る」
    「そうっすねえ」
     このショッピングモールの中で、今欲しいものが売っているお店、あったかなぁ。顎に指を当てて、考える。たくさん店が並んでいると、あれもこれも欲しくなってしまうが、先程新しいアクセサリーをひとつ買ってしまって、財布にそこまでの余裕はない。
     そういえば。十四の頭の中に、ふと、自分の家の洗面台のイメージが浮かんだ。
     化粧水、あとちょっとでなくなりそうだったな。
     それが買える最近お気に入りのスキンケアブランドのお店は、確かこのショッピングモールにもあったはずだ。
     そのブランドの名前を空却に伝えようと口を開くが、すぐに喉元にまでのぼっていた言葉を飲み込む。
     今日は、寄らなくてもいいや。空却さんはそういうの興味ないだろうし、付き合わせたら悪いから。
     それに、スキンケア用品が欲しいなんで言ったら、女々しいと思われてしまうかもしれない。先ほどまでの浮かれ具合が嘘のように、十四は一気に冷静になった。
     最近では男性向けの美容グッズも多く出ていることも、自分自身を磨くことに性別は関係ないということも、そして何より、空却がーー口こそは悪いがーー簡単に否定の言葉を口にするような人物ではないことも、全部十四はわかっていた。
     だが、頭から離れないのだ。数日前、修行の時に空却に言われた「女々しい」という言葉が。
     その日は前日の夜にライブがあったため、疲労がまだ体に残っていた。初めて共演する先輩バンドもいて緊張したことから、精神的にも疲れていた。だから、空却の厳しい口調がいつもより鋭く感じ、つい泣きながら弱音を吐いてしまったのだった。そんな十四に、空却は怒りと少々の呆れが混ざったような表情で、「ったく、女々しいな」とこぼしたのだった。
     空却としては何気ない一言だったかもしれない。しかし、好きな人の言葉はいつまでも頭に残ってしまう。マイナスなものならなおさら、忘れようとしてもこびりついたように記憶にずっとあるのだ。
     もうこれ以上、空却さんの中の自分の印象を下げたくない。
    「特にないっす! 空却さんは? 他にありますか?」
    「ねえな。あー、んじゃ、帰るか」
    「はい! 帰りましょ!」
     時間に縛りはない。しかし、だからといってこれ以上、ふたりで歩き回る必要もなかった。ただ買い物に来ただけ。それ以上のことはない。目的を果たしたならば、あとは帰るだけ。
     恋人だったら、違うのかな。
     ふと、そんなことを思った。
     まだ帰りたくない。でも、自分は恋人じゃないから、空却さんにそんなことを言えない。
     きゅっと苦しくなった心臓を気に留めないようにするが、一度凪いだ頭の中は考え事をやめてはくれない。
     もし、空却さんと、恋人だったら。
     もうちょっと一緒にいたい、と彼の服の裾を掴んで甘えることができたかもしれない。だけど今の関係のままでそれを言うのは少し不自然な気がして、口にすることは難しかった。
     意識のしすぎ、考えすぎ、それもあるだろう。友達に対して、もっとおしゃべりしたいからまだ帰らないでいようと提案するのは、できる気がする。あるいは、獄と空却と十四の三人で出かけていて、まだ一緒にいたいと言うのも、不自然ではないとも思う。だが、空却とーー想い人とふたりきり、まるでデートみたい、少しでもそう考えてしまったら、一気にそれはできないことに変わってしまう。空却はおそらく、これをデートみたいだなんて思っていないだろう。そうだとしても、言えないものは言えない。少し前、そう、自分の恋心に気がつく前だったら、気軽に「空却さんともっと話したいっす! あそこのカフェ入っておしゃべりしましょ!」と言い出せたはずだ。
     モヤモヤする。
     前だったら言えたはずのことが、言えなくなってしまった。もし、自分が小さなわがままを言ったことで、面倒くさい奴だなと思われてしまったら、と想像すると、怖くて無難な選択しかできない。
     好き、って思われなくてもいい。片想いがずっと続いてもいい。だけど、嫌われることはたえられない。それだけは絶対に回避したい。
     恋は楽しい。でも、ここまで自分の身動きを不自由にするものだとは思っていなかった。スキンケアブランドの名前を出さなかったのだってそうだ。言ったら印象を悪くさせてしまうかも。そう思ったら、言葉を選んで話すようになってしまった。
     それにしても。唯我独尊を身に纏ってこの世を生きる空却が、自分に時間を使おうとしていたのは、なかなかに驚いた。別に彼はケチなわけではない。だとしても、わざわざ十四の行きたいところを尋ねてきたのは意外であった。
     優しい、そんなところも好き。もしかして、空却さんももっと自分といたいのかな? なんて勝手な解釈で、また浮かれてしまいそうだ。
     すぐ浮いては、またすぐ沈んで、恋する者は忙しい。
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    MEMO卒業後の五乙ネタまとめ。乙骨が教師になる世界線。乙骨、狭い賃貸アパートに住んでる。五条がよく家に遊びに来て、相変わらず狭い家だね~呪術師は給料もいいんだし引っ越したら?と言っても、一人暮らしだしこれぐらいがちょうどいいんですて返してたのに、ある日突然、キッチンが広い大きなマンションに引っ越したから

    また遊びに来た五条が、前より広くて良いね!僕んちよりは狭いけど。でもなんで大きいとこに引っ越したの?心境の変化?て聞いて、まあそんな感じですかねて乙骨は答える。乙骨は狭い部屋でも満足だったけど、五条が家に来た時に頭ぶつけそうになったり猫背になったりなるのが気になって引っ越したて話

    二年で飲みしてる時に引っ越しの話になって、なんで引っ越したんだ?て聞かれて、いや僕の家よく五条先生が来るんだけどすごく狭そうでさ…。壁や天井とほぼ接地してるっていうか…だからちょっと広くなれば過ごしやすくなるかなって。て答えて、全員にすごい目で見られる。

    悟のために引っ越ししたってことか!!!??て言われて、えっいや…そういうわけでは…?やっぱよく遊びに来る人が不便そうにしてたらよくないかなって。いやでも言われてみれば確かにそうだよね…。て言う。お前悟のこ 1058