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    2人の出会いまで。書けたら通し番号で増えていきます。
    追記:見ていただきありがとうございます…!
    イベント中に書き上がらず…。イベント後もポイピクに通し番号付けて投稿していきますね!
    完成したら、pixivにも上げます。

    月面都市コペルニクスで出会う幼少期アスカガの話①朝のピークを過ぎた駅構内は人影がまばらだ。けれど、切符売り場だけ混んでいるのは休日だからだろうか。

    学校課題に必要な資料を探しに行こうと、キラと待ち合わせた中央図書館。その約束と古物市の日程が被っていることを知ったのは、約束の前日だった。
    滅多にやらない古物市は掘り出し物が多く、絶対に行きたかった。けれど早朝からの市にキラをつき合わせるのは気が引けて、現地で待ち合わせることにしたのだが。……やはり、キラと一緒にハルマさんの車で送って貰えば良かったかな。
    ややげんなりした気持ちで順番を待っていれば、頭上では駅のアナウンスが流れている。何度も聞いたそれは、特別警戒体制の知らせだ。そういえば、地球のとある国の要人が来ているんだったか。出かけに見ていたニュースでそんなことを言っていた気がする。確か、オーブという国の……。
    自分の前に居た人間が、切符を手に改札へ向かった。やっとだ。まあ、この分ならキラとの待ち合わせにも十分間に合うだろう。

    そう切符を買おうとしたときだった。

    『お客様へお伝えします。当駅着の電車は全て運休とさせていただきます』

    「なんだって?」
    突然内容が変わったアナウンスに、思わず後ろを振り向く。
    騒めく人々の隙間からは、多数の人間が改札を出ていくのが見えた。
    ピコン。
    軽やかな音を立てた端末を取り出す。届いたメッセージは待ち合わせ相手のキラからだ。

    『アスラン、大丈夫?電車止まってない?』

    ドンピシャのタイミングだ。周りを見れば、先ほどの混み具合が嘘のように切符売り場には人がいなかった。代わりに人がまばらであった駅構内には多数の人がごった返している。

    『切符を買おうとしたら、丁度』
    『良かった、じゃあ乗る前だったんだね。今このニュースが流れて、心配してたんだ』

    メールと共に添付されたURLを開けば、ニュースサイトへ飛ぶ。速報と銘打たれた記事には『列車襲撃』と書かれている。どうやら駅に停車中の列車が武装者からの襲撃にあったのだという。ただ、すぐに取り押さえられたこともあって、乗客は全員無事のようだ。

    『これが原因か』
    『そうみたい。こわいね』

    こちらが読み終わるのを待っていたのだろう。すぐに返事が返ってくる。

    『アスラン、古物市に行くって言ってたから、その最寄駅だよね?父さんが迎えに行こうかって』

    ありがたい申し出だった。けれどこの駅はキラの最寄駅からちょっと離れていて、申し訳なさもある。調べてみると、バスは通常運行のようだ。ここにも中央図書館行きのバスがあったはず。
    場所を移動しようかと顔をあげて、そこで隣に人が居ることに気付く。

    茶色の帽子と同じ色のジャケットを着た子供だ。年は同じくらいだろうか?しきりに上看板の案内と売り場の機械を見比べている。そして恐る恐るボタンを押しては、首を傾げる。
    じっと見つめてしまったのは随分不審な様子だったからだ。何度もボタンを押すが、お金は入れていない。
    帽子から飛び出ている金の髪。その髪の下で、これまた同じ金の色をした眉が困ったように下がり、同じく金の瞳が水を張りじわりと滲んでいく。

    あっ、泣いてしまう。

    何か声をかけねばと、口を開く。
    が、それより先に子供がこちらを振り向いた。バチリと音がしそうな勢いで目が合う。
    滲んだ瞳がまんまるに開かれ、ぎゅっと釣り上がる。

    「な、なあ!お前、これの使い方分かるか?」

    随分えらそうな口調だった。
    けれど、眉は下がったままで。勝気に釣り上がった瞳とその口調が、余計に子供の心細さを掻き立てた。

    「分かるけど……。君、お金は?」
    「お金?」
    「まさか、そこからなのか」

    きょとんとした様子に、まさか本当にお金を知らないのか?とため息が漏れる。
    呆れているのが伝わったのだろう。ハッとした様子で、ジャケットのポケットに手を突っ込んだ子供が、見つけ出した何かをこちらに向けた。

    「馬鹿にするなよ!ある!あるけど、使えなかったんだ……」

    手のひらに載せられた硬貨はどれも見たことがないものだ。まじまじと見れば、今朝ニュースで見たばかりの国名が書かれている。

    「オーブの硬貨……か?この機械はプラントの通貨用だから、ここでは使えないぞ」
    「えっ、そうなのか」
    「両替はこの辺にあったかな……」

    発着場が近い中央の駅に向かえばあるのかもしれない。だが、観光地から外れた周辺では、あまり期待できない。
    それに、そもそもだ。

    「電車は全部運休に入ったから、切符を買っても乗れないぞ」
    「動かないのか!?どうして!?」
    「どこかの列車が襲われたんだ。その影響だとさ」
    「そんな……」

    そのまま口を引き結んだ子供が俯く。
    前髪に隠れる前に見えた金の瞳は、再び水に滲んで揺れていた。

    「親御さんに連絡は出来るか?」

    知らない場所にたった一人なんて、不安に決まっている。知らず、問いかけた声が優しくなった。

    「分からない……。連絡用の端末も落としてしまって……。でも、行き先は分かる。中央議事堂ってところに行く予定だったんだ」

    硬貨を握り込んだまま、ぎゅっと力を込められた手が痛ましかった。
    土地に疎く、お金も持たず、見た限り迷子。
    ……本当は両替の件も含めて、警察で保護してもらうのが一番なんだが……。
    視線だけ動かし、端末の画面を確認する。
    バスの路線図には、中央図書館と中央議事堂が同じ路線で示されている。

    「……手」
    「え、あっ」
    「そんな握りしめたら、傷になるぞ」

    硬く握りしめられた子供の手を取り、一本一本ほどくように指を広げた。広げられた手のひらの、その硬貨ごと手を合わせる。ほどかれる自らの指先を見ていた子供は、合わさった手とこちらの顔を見た。
    落ち着いて、恥ずかしくなったのだろうか。
    少しばかり頬を染めた子供はこちらから視線を外すと、硬貨をポケットにしまう。

    「すまない。いや……ありがとう」
    「いいよ。じゃあ、こっち」
    「わっ!」

    空いた手を取り、今度こそ握りしめる。
    この人混みだ。はぐれてしまったら、またこの子供は1人になってしまう。
    ああ、そうだ、その前に。

    『ありがとう。でもバスで向かうよ。おじさんにも、ありがとうと伝えてくれ』

    キラへメッセージを返す。そのまま端末を鞄にしまおうとして、子供と目が合った。飲み込めていなさそうな顔に、思わず笑みを含んだ息が漏れた。

    「ほら、行くぞ」
    「行くぞって……。どこに行くんだよ」
    「中央議事堂に行きたいんだろう?連れて行ってやる」

    再びまんまるに開かれた金の瞳。良かった、滲むような涙の気配はもう無さそうだった。

    「……いいのか?」
    「いいよ」

    まんまるな目のまま、どうして?と小さな声で呟く。
    そうだな。出会ったばかりで、どうしてだろうか。ただ、ほっとけなかった。
    そう伝えるのが気恥ずかしくて答えずにいれば、子供も独り言だったのだろう。
    じっとこちらを見ていたまんまるの瞳がふにゃりとゆるまる。

    「ありがとう!お前、いいやつだな!」

    光り輝くような笑顔だった。
    急に眩しく見えた気がしたのは、子供が金の髪に金の瞳を持つからだろうか。
    落ち着かない気持ちになり、前を向く
    泣きそうな顔よりも、驚いた顔よりも、笑った顔の方がずっといい。
    そんなことを思いながら、子供の手を引いて歩き出した。
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