『ケートスはもう歌わない』サンプル白い扉が幾重も続く廊下を歩く。
床も壁も同じく白い。自分の着ている赤服はここでは余計に目立つだろう。
しかし通りがかる者は誰もいない。
「ここ、どこだ……」
何度目かの曲がり道、使用済みの備品が詰まった段ボール箱を抱えたシンは途方に暮れていた。
今回避難及び救護場所として選ばれたこの施設『メンカル』と呼ばれ、元はどこかの研究所だったらしい。
閉鎖されていたが、ブルーコスモスの襲撃で文字通り火の粉が降りかかり、戦闘停止後はしばらく鎮火作業に追われていた。
それも先ほど終わり、空いたスペースをちょうど良いからと救護場として使うことになったのだ。
戦闘の停止と人々の避難誘導も終えたミレニアムは、整備が終わるまでまだ時間があった。
救護場を飛び立つ間に何か出来ることはないかと、備品運びを請け負ったのはいいが……。
仕方ない、少し引き返して誰かに聞こうか。
そう考えて、十字路で足を止めたときだった。
ガシャンッ
並ぶ扉の一つから何かが倒れた音がした。
駆け出し、斜め前の扉を開く。
同時に誰かが飛び出してくる。
「おい、大丈夫か?」
飛び出してきたのは子供だろうか。自分の腰ほどの背丈だが、フードローブを被った子供の姿はよく見えない。
「どけっ!」
子供に気を取られていたが、部屋から続いて飛び出してきた大人を慌てて避ける。
「なんだよ、お前たち。こんなところで何をしてるんだ」
子供を背に庇うようにして、出てきた大人たちと対峙する。人数は二人、体型から考えれば男だろうか。サングラスやヘルメットを被り、顔を隠している。
「お前には関係ないこと、だっ!」
「おっと!」
言いかけながら振りかぶってきた男の腕を避ける。だが、後ろには子供がいる。
躊躇いなく持っていた段ボールを、飛びかかろうとしてきた別の男の顔にぶつける。ヘルメットにぶつかった衝撃で中身の袋が空いたのだろう。途端に白く烟る。
「っ、なんだこれは!」
使用済みの消火剤が場を舞う。
こいつらの目的も気になるが、今は子供の安全が最優先だ。逃げるため、子供の手を取ろうとするが、それよりも早く子供が飛び下がった。
「あと一人いる!」
「なっ!? ……っと!」
子供の声に既視感を覚えたが、それどころじゃあ、ない。後ろから殴りかかってきた男の腕を、腰を落として躱わす。そのまま立ち上がりの勢いで、男の空いている下顎目掛けて思いっきり掌底を打ち込んだ。
「ぐっ!?」
よろけた男の後ろでは別の扉が開いている。どうやら中で部屋が繋がっていたらしい。
「小賢しい真似を!」
振り返れば、即席の煙幕は薄れてきていた。
そのせいで最初に対峙していた男が煙幕を抜けた。子供のローブに手をかける。
「かがめ!」
フードローブを手放した子供がかがむ。
空のローブを手にした男は、そのまま体格差で押し込めようとしたのだろう。そうはさせないと、子供に覆い被さろうとした男の背に、一撃入れるために振りかぶる。
が、それより前に、かがんだ子供が足払いをかけた。
「うわっ!?」
前屈姿勢で体勢を崩された男は、床への直撃を避けようと受け身を取った。しかし、その隙を逃さなかった子供は、男が手放したローブでその両腕ごと縛る。
「おお……」
見事な手際だった。
思わず漏れたこちらの声に反応した子供は、被っていたベレー帽を深く被り直し、俯く。けれど、つばの無い帽子では子供の顔は隠しきれない。
子供の顔に、先ほどの既視感の正体に思い至る。この顔に似た顔を、よく知っている。
「なあ、お前……」
「お前ら、よくもやってくれたな!」
いや、そうだ、まだ一人残っていた。仲間をやられ、後に引けなくなったのだろう。男はナイフを取り出し、構えた。
子供を背に引き寄せ、男を睨みつける。手持ちの武器は銃だが、まだ粉が舞うこの場所で使いたくない。いっそ子供を抱えて逃げるか。だが人がいる場所にナイフを持った男を連れて行きたくない。
どうするか、そう思ったときだった。
「うおりゃーー!」
「うわぁぁぁ!?」
聞き馴染んだ声が男の背後からナイフを持つ腕を捻り上げ、そのまま投げ飛ばした。彼女は息一つ切れず、赤い髪や服に付いた粉を払う。
「ルナ!なんでここに」
「何って、シンを探しにきたのよ。備品頼んだけど場所を伝え間違っちゃったって言われて。ところで、こいつらは何?」
「ああ、子供が襲われて……。あっ、逃げるな!」
初めに掌底を打ち込んだ男と、子供が縛りつけた男が、投げ飛ばされた男を連れてあっという間に駆けていく。何者か、何が目的だったのか分からない。だが、子供の安全は確保できたと一つ胸を撫で下ろす。
「子供って?」
「え、ほら、この子……ってあれ!? いない……」
いつの間に行ってしまったのだろうか。追われていたのなら、こちらで保護しても構わなかったのに。そう、あの子供にも聞きたいことがあった。
「いやいたんだよ、ここに。薄緑のベレー帽に同じ色の服を着て。黒髪に緑目の」
ちらりと見えた、青みを帯びた黒髪。
俯いたときに節目がちに見えた緑の目は、きっと強い眼差しなのに、どこか憂いを帯びているのだろう。
あの人のように。
「……アスランそっくりの子供が」
※※※
ミレニアム内にある特別通信室を後にしたアスランは、艦内デッキを歩いていた。
この艦に来るのは、あのファウンデーションの一件以来だった。窓に目を向ければ、先ほどまで自分たちが居たコロニーが遠のいていく。
窓の反射越しに、ここまで案内してくれたアーサー副艦長がクルーに話しかけられているのが見えた。後ろを歩いていたメイリンも気付いたらしい。振り向けば、アーサー副艦長が笑顔で会釈をしていた。
合わせて、会釈を返す。
コンパスが凍結され、出向していたミレニアム艦隊もザフトに戻ることになった。しかしそこに配備されていた人員ごと議長直下の部隊という形になり、コンパスが担っていた治安維持を継続して行っているのだという。
あくまでプラント内における治安の維持ではあるが、ブルーコスモスによるテロ活動が再び活発してきたことを考えると、このミレニアムの活動は必要なことだろう。
「あっ、お姉ちゃんたちだ」
メイリンの言葉に視線を向ければ、デッキにある休息スペースに馴染みのある顔ぶれが揃っていた。
アーサー副艦長は、シンやルナマリアたちはミレニアムが飛び立ったコロニーにおいて、救護活動をして戻ってきたばかりだと言っていたか。
姉がいるメイリンはともかく、自分が声をかけてわざわざ休息を邪魔することもないだろう。
「メイリン、少しだが時間も取れるだろう。君はここで休んでいるといい。俺はキャバリアーへ先に戻っている」
このミレニアムが持つ特別通信室はザフト参謀本部からの回線が繋がっている。そこでイザークから受けた情報と、先ほどコロニーに降りた際に研究所で得た情報を頭の中で整理しなければ。
キャバリアーへ戻れば、カガリへの定期報告の時間がやってくる。
「あ、大丈夫ですよ。お姉ちゃんとは連絡も取っていますし……。でも、ちょっとだけ声をかけてこよ、」
「はぁ?あのアスラン・ザラに隠し子ぉ!?」
………。
「……は?」
誰の、何が、だと。
突然、見に覚えのない事と共に名を大声で呼ばれ、間抜けな声が出てしまった。
メイリンは言いかけた言葉を笑顔でしまい込むと、ススっと話し込む三人の元へ近づく。
「ちょっとアグネス、声が大きいってば!」
「だって、あのアスラン・ザラよ!? そんなことある訳ないじゃない! 相手誰よ、どこのどいつよ!」
「そもそも隠し子とかじゃないっつうの! それくらい似てたってだけで……」
「アスランさんに? 隠し子かってくらい似てた子供?」
「そうそう。シンが見たっていうのよ、メイリン……って」
「何でいるのよ、あんた」
「メッ!?、イリン……。いや、ってことは、まさか」
恐る恐ると、だが三人揃った動作でこちらを振り返られ、六対の瞳と合う。
「そんなもの、居る訳ないだろう……」
苦り切った声がため息と共に漏れる。
赤い髪を二つ分けにした赤服のパイロットが、引き攣った顔したシンを勢いよく指差した。
「そうですよね、アスランさんに隠し子なんている訳ないですよね! ほら、ちゃんと謝りなさいよ、アスカ」
「はあぁぁぁ!? 隠し子って言い出したのアグネスだろ!?」
「あんたが変な事言い出したんでしょ!」
「ちょっと、二人とも!」
目の前で言い合いを始めた二人を、ルナマリアが宥めようと試みる。しかし、こちらの視線に気付いたルナマリアは宥めるのを諦め、気まずそうに笑った。
「その、私たちがさっきまで居たコロニーで、シンが助けた子供がアスランそっくりだったみたいで……」
「コロニー……。もしや、子供と会ったのは研究所か?」
「え? ええ、そうです。なんか複数の大人に追われてたところをシンが助けたみたいで……。一人は私も倒したんですけど」
「さすが、お姉ちゃん」
「うーん、結局逃げられちゃったけどね」
今回あの研究所は避難民や兵士たちの救護場に一部を使われていたなと思い返す。避難しにきたのか、それともこちらと同じ目的だったのか。
「シン」
「なんすか、別に俺だって、あんたの隠し子だと思ってないし……ただ、ちょっと……」
「それはもういい。その話、他の誰かにしたか?」
「はあ、ルナたちだけで、誰かに言いふらしてなんかないです」
「そうか。なら、正式な報告書として上に挙げろ」
「え? 誰にも言うな、とかじゃなく?」
「別に誰に言ってもいい。ただ、……お前たちは今ハーゲン隊だったか。隊長のハーゲン中佐に報告して、コノエ艦長まで話を上げてもらえ」
ミレニアムは現在議長直下の船だ。あの艦長にまで話が行けば、必要なところに話が行くはずだ。
端末で時刻を確認すれば、そろそろ報告の時間が近付いている。やはり俺だけでも先に戻るか、と顔を上げれば、何か言いたげな顔したシンがこちらを見ていた。
「なんだ」
「あんた、あの子供について、何か知ってるんですか」
「……子供については何も。だが、追ってる側の方はある程度の予測が付く」
「追ってる側って?」
随分と聞きこんでくるなと思わずシンの顔を見る。どこか不安そうな顔をしているのは手助けした子供への心配か。
「それとも機密情報とかで聞かない方がいいやつ?」
「いや、そうではないが……。ただの推測に過ぎないからな。まあ、心配するな。お前がちゃんと報告書を上げてれば、そのうちイザーク辺りが何とかするだろう」
「ジュール中佐が……? あっ、待てよ!」
「ええー! もう行っちゃうんですか、アスランさん」
「あ、そろそろ時間ですね。じゃあまたね、お姉ちゃん」
「気をつけてね、メイリン。……アスランも」
三人の声を聞きながら後にする。扉を潜れば、キャバリアーを置いてあるドックまですぐだ。
「なんだよ……。別に言ってもいいなら今言ってけばいいだろ……」
「色々あるんじゃない? ターミナルなんて色んな情報扱うし……」
「そりゃあそうだけど……」
「シンも、心配ならそう言えばいいのに」
「なっ! そんなんじゃ……」
言われて、ルナマリアの顔を見れば、目が合ったルナマリアは優しく頷く。そっくりな二人の人物の話。もしかしたら、ルナもレイを思い出したのかもしれない。
「ふん、似てる子供にもアスラン・ザラにも振られたからって拗ねてるんじゃないわよ」
「拗ね!? ねーよ! いや! 別に、振られたとかでもねーし!」
「ああ、もう、アグネス煽らないでよ!」
だから、幸か不幸か。三人が騒いでいる声はデッキを後にしたアスランには届かなかった。
※※※
『隠し子? お前に?』
キャバリアーアイフリッド内のメインディスプレイからカガリの呆けたような声が響く。
「あくまで、それほどに似てる子供だって話だ」
報告の一つとして、自分に似た子供をシンが見たというミレニアムでのやり取りを伝えた。
シンに誰に伝えてもいいと言ったのは本心だが、なるべくなら伝えたくない相手だっている。
それが目の前のディスプレイに映る報告相手、カガリだった。
しかし正式な報告書を上げろと言った手前、何がどのタイミングで伝わるかも分からない。ならば、自分の口から言った方が良い。
『あの研究所で見たってことがどうにも気になるな』
「ああ。イザークから提供された情報から考えると、その子供も無関係な存在とは言い切れないのだろう」
ミレニアムを介して行われたイザークとの情報共有。
そこではザフト軍の現状や要注意人物の情報を得た。
だが、まさか別件で調べていた研究所と話が関わってくるとは。
『お前たちが集めてくれていたファウンデーションに関する情報の中でも、あの研究所群は度々出てきていたな。名前は『ケートス』だったか』
「ああ、研究内容からそう呼ばれていたらしい。直接の関係は無かったと思っていたが、もしかすると本当にファウンデーションが手を回して壊滅させたかもしれない」
『襲撃者はブルーコスモスか……。ブルーコスモスとファウンデーションとの繋がりも気になるが、それよりも、大西洋連邦が興味を示していたことの方がな……。研究所については、どうだった?』
「研究の内容について新しいことは特に。だが、何かの人員リストがあったから、これはイザークとも共有をしている。気になるのは、リストと共に消し忘れただろう指示書だ」
『指示書?』
「最重要項目として“ヴィアを探せ"と。ヴィアが人なのか物なのかは判明しない。だが……」
『ヴィア……。お母様の名前と同じだな』
「ああ」
あの研究所はメンデルを生き延びたとある研究者が、自身の研究を続けるために作ったものだ。複数あるとされているが、いずれもブルーコスモスから襲撃を受けており、研究者自身もその襲撃で命を落としている。
現時点で判明している研究内容は、精神感応による交信。実際にアコードたちが使っていた念話がこれに該当するのだろうか。
資料によれば、宇宙クジラのエヴィデンス01から着想を得て、くじらたちが使うエコロケーションのようなものを人でも扱えないかと試みた研究であるらしい。
なので、研究所群は『ケートス研究所』と呼ばれ、それぞれ別地域に建てられている研究所にも、それに因む名で呼ばれていた。
先ほど行ってきたのが、『メンカル』。
後は判明しているのが、地球にある研究所で『ディフダ』。
しかし、この研究内容自体には特段警戒するものは無かった。問題は。
「連合が計画していたという『アスハ代表暗殺計画』に何故この研究が出てきたのかは、それはまだ分からない」
『暗殺後にすげ替えるって書いてあったやつか。まあ、暗殺と言っても過去の頓挫した計画だったんだろう?』
「だが、この計画に触れる内容の資料が連合側から出ているとメイリンが突き止めた。今度大西洋連邦の首相とプラント評議会の議長がオーブへ会談で訪れるだろう? 万難は排した方がいい」
過去のことだろうが、カガリの暗殺計画に関わることならば見過ごすことは出来ないが、今は特に大事な時期だ。
『そうだな、今回の議題にはコンパスについても組み込まれているし……。あー、プラント議長はコンパス復活に賛成しているから、あとは大西洋連邦への説得だけだと思っていたんだがなぁ……』
「すまない……」
『お前が謝ることではないだろう。お前は大事なオーブ国防軍のザラ特務一佐だ。だから、プラントがお前を欲しいって言うなら、お前の意思を第一に汲み、その上でちゃんと然るべき手段を取る。話はそれからだ』
イザークが提供してくれた情報の中で、どうやらザフト軍本部の中には"アスラン・ザラ"をプラントに呼び戻すという案が出ているらしい。
話が出ているだけなら、断ればそれで済む。
だが、それを推し進めようとしたのが、新しい国防委員会の副長官だという。
「ジャガンナートの一件もあり、プラントの新しい国防長官自体は穏健派だ。事を荒立てるタイプでもない。だが、この副長官は一時期今回の研究所があるコロニーの統括をデュランダル前議長から請け負っていた」
中々尻尾を見せないやつだと忌々しげにイザークは言っていたか。恐らくだが、子供を追っていたのもこの副長官の手の内の者だろう。
『それで今度の会談で、議長の後衛護衛艦隊の指揮を取る、か。何か魂胆がありそうだ。お前、気をつけろよ』
「ああ、君もな」
ディスプレイの中のカガリが指を伸ばす。メイリンが内容をまとめたものがカガリの元に届いたのだろう。一度二度何かを確認するように、しなやかな指先が動く。
『次の目的地は地球にある方の研究所だったか?』
「ああ、現役で稼働してると確認が取れている。本命の研究所だ」
『今はブルーコスモスの拠点にもなっているんだろう? 敵陣に一人で行くようなものじゃないか』
「準備はしていくさ。場合によっては潰すかもしれないからな」
『潰すって……! ……はあ、そうだな。分かった、気をつけろよ。……ちゃんと無事に帰って来い』
「ああ、君のもとにちゃんと生きて帰るよ」
強い眼差しでこちらを見据えるカガリは、きっと無意識なのだろう。そのしなやかな指先が彼女自身の胸元で握り込まれるのを見て、微笑む。
『よし、では引き続き、よろしく頼む』
「はっ!」
敬礼の形を取り、通信は終わった。
「あ、カガリさんとの通信終わりましたか?」
「ああ」
報告のために席を外していたメイリンが部屋に戻ってくる。
「先ほど報告書を送っただろう。無事カガリの元へ届いていたぞ」
「それは良かったです! キャバリアーの伝達は本当早いですね。あ、隠し子疑惑の話は載せませんでしたから、安心して下さい」
「いや、それは口頭で伝えたから……」
「え! 言ったんですか」
「ああ、変な伝わり方をしても困るからな」
「確かに」
律儀だなぁと聞こえてくる声に、そうだろうかと内心で答える。
「これは興味本位なので秘密にしてもらってもいいんですけど、それを聞いてカガリさんはどんな反応を?」
「いや、特には。研究所と繋がりがあるのか気にしていたな」
「ああ、そうか。そうですよね。さすがです、カガリさん」
うんうんと頷いているメイリンに、先ほどからなんだと見やる。それと同時に、もしかしてあまり言わない方が良かったのだろうかとも考えた。
「その、事実居ないのだとしても、隠し子だなんだって聞くのは、やはり気持ちがいいものではない……か?」
「うーん、私はなんでそんなことに? っていう好奇心が勝っちゃうので……。ただ、人によっては嫌がるかもしれませんね。アスランさんの場合、モテるし」
メイリンの返答に、自分の場合はと考えてみる。カガリに隠し子の疑惑があると言われたら、どう思うだろうか。
「……すごい怖い顔してるんですが、もしかして自分に置き換えました?」
「……噂の原因となったものに対するシミュレーションを考えていた」
「あー」
そちらのタイプですよねえ。でもなぁ……というメイリンの言葉を聞きながら、それでもその場合はカガリから言ってもらった方が良いなと思う。なら、自分たちはこれで良いのかもしれない。
ひとしきり考え、納得していたところに、こちらの様子を伺っていたメイリンが「あの……」と問うた。
「アスランさんって一途ですよね」
「?、まあ」
「だから気になっていたので、この際聞いちゃいます。あ、でも、これも答えたくなかったら全然答えなくていいですよ」
意を決した様子のメイリンに視線を向ける。が、同時に消えたはずの通信ランプが点灯していることに気付く。
しかし、待ってくれと声を出す前に、メイリンが一気に疑問を吐き出した。
『ああ、すまないな。伝え忘れていたことが、』
「デュランダル前議長のラクス様と同じ部屋で寝てたって前にお姉ちゃんから聞きました。あれはどういう……こ……あ」
『……あったんだが……』
「カ、カガリ」
ザッと血の気が引く。視界には同じように青ざめたメイリンの姿が見えたが、構ってはいられなかった。
(以下、本へ続く)