「テメェ明日オフだろ」
本日のパトロールが終わり、エリオスタワーへ帰宅しようとしていたら、アッシュから声を掛けられる。
「そ、そうだけど何…?」
「ちょっと来い」
明日は一日オフなのでいつも通りゲームを…と考えていると、不意にアッシュに手を掴まれた。
そのまま急に手を掴みながら歩き出したのでグレイは戸惑いつつ、慌ててアッシュに抗議する。
「取り敢えず乗れ」
アッシュに手を引かれ、少し歩いた先にあった車に手を掴まれたまま乗せられる。前に座る運転手にアッシュは待たせたな、と告げ車が走り出す。
「ねぇ、ど、どこに連れてくの…?」
疑問に思い、右側に座るアッシュに質問したのだがまだ手を掴まれたままで、反応がない。このまま黙ってついて来いという事なのだろうか。グレイは諦めて車内の窓から夕暮れの海を眺めながら時間が過ぎるのを待っていた。
「着いたぞ、降りろ」
目的地に着いたらしく、ずっと握りっぱなしだった手がようやく離されて、車からも降りるアッシュ。同時にグレイ側のドアも開いたので急いで降りる。
「ここは…ホ、ホテル…?」
一緒に降りたアッシュはいつの間にか中に入り、フロントで受付しているようだ。上着を着ているものの、取り敢えず外にいると寒いのでグレイはロビーへと向かう。
グレイが普段生活していたら到底行くことのない様な高級感のあるホテルに連れてかれ、周りをきょろきょろと辺りを見回していたら、受付を終えたのかアッシュが戻ってきた。
「ついて来い」
「…また…?」
また右手を掴まれたと思ったらそのままホテルの一室に連れてこられる。
ホテルの部屋には誰もいないと思っていたら何人か綺麗な服を着た人達が待っていてアッシュと何か会話をしている。
着いたときから察していたものの、やはりホテルの一室とは思えない豪華さだ。
「じゃあ、前に話した通りで頼む」
「かしこまりました」
一人部屋を眺めていると話が纏まったのかアッシュとアッシュが用意したであろう人達が何かを持ったままグレイへと向かってくる。
何をされるのかとグレイが困惑している間にアッシュに服を脱がされあっという間にスーツへと着替えさせられた。
「じゃあ俺も着替えてくるわ」
「あと任せたからな」
アッシュもグレイと同様にスーツに着替えるのだろう、隣の部屋へと行ってしまった。
グレイも式典やらでたまに着ることもあるスーツだ。というのに自分が今まで着たことの無い様な肌触りの生地でアッシュが用意したであろうスーツ。高いはずがない。自分なんかが着ていると値段の割に見劣りするのでは…と少しネガティブになってしまう。
「やっぱり似合っているじゃねぇか」
グレイがネガティブになっている間に着替えたアッシュも戻ってきていて少し自慢げな顔をしている。
ふと前にある鏡を見るといつの間にか髪型までセットされていた。
隣に座ったアッシュも同じ様にセットされている。
それまでいたアッシュの使用人であろう人達は「それでは」とだけ告げ全員退出し、広いホテルの部屋にアッシュとグレイ、二人きりになった。
「俺の家主催のパーティーがあるんだよ」
ふとアッシュがグレイにここへ連れてきた経緯を話し出す。
「いい機会だから紹介がてらテメェの紹介だけすんだよ」
「しょ、しょ、紹介……」
そういえば前に紹介だとか何とか言っていたような気がする…とグレイは記憶の片隅に置いた恥ずかしい記憶を思い出す。
「顔が赤くしすぎだろ」
「ア、アッシュこそ、…い、いつもより赤いよ…?」
「…うるせぇ!」
お互いに色々思い出し、顔を赤くしていると照れたのかアッシュはグレイの頭を掴もうとしてしまう。
折角セットして貰ったので勿体ない、と慌ててグレイはアッシュの手を掴む。
「アッシュやめて、折角セットしてもらったから崩れちゃうぅ…!」
「……っ」
何とかアッシュの手から髪の毛を死守したグレイは紹介…と一人笑みを隠し切れなかった。多分アッシュにもバレている。