New Record かさかさとビニールの擦れる音。白い手袋の指先が小さなクッキーの袋をつまみ上げ、うず高く積まれたお菓子の山が少しずつその標高を増していく。いつになく真剣な様子のドクターに見つめられ、俺は完全に身動きが取れなくなっていた。
「入るぞ、先生。……ああ、新人もいたのか」
「おっ、お疲れ……さまです……! 隊長……!」
オフィスの扉を開けたレベッカ隊長は暫し沈黙した。なんで黙るんですか隊長。すぐにでもそう聞きたかったが、何かいえばすぐにでも頭の上のチョコレートがこぼれ落ちてくるような気がして
言葉を飲み込んだ。
「いや、なんとも芸術的な積み方だと思ってな。食べ物で遊ぶのは良くないと言いたいところだが、確かにこれはすごいと思うよ」
えこれってどうなってんの? 俺いまどうなってるの!? 動揺して身じろいだからか、耳元で包装紙がぱりぱりと鳴った。「動かないで!」と言わんばかりに先生が人差し指を立てる。
「この形は以前どこかで……そうだ。この間新人のブログで読んだブリリアントトルネードパフェか。……いや、というよりはデラックスレインボーサンデーか?」
「えっ? このまま世界記録を目指す? そうか……ふふ。どこまで行けるか楽しみだな、先生」
談笑する先生と隊長の傍で、空気椅子を続けていた俺の足は限界を迎えつつある。……えっ!?写真撮るんですか!?
ほらピースして、と雑に促してくる先生に言われるがままに両手でピースを作ると、懐にぬるりと潜り込んできた先生も両手でピースしていた。
ぱちり、と軽いシャッター音。