闖入者SPLASH!サマー・サバイバル後の三上君と笹塚さん
週末の合同練習後の菩提樹寮は、いつにも増して騒々しい。
「よっしゃ赤羽、スマブラ対決するぞ!」
「良いですね、負けませんよ!」
「……対決ってことは勝ったら何かもらえるの?」
「では明日の昼食を負けた者が奢ると言うのはどうかな」
「あーもー、流星素振りまではじめちゃったじゃん!」
夕食が終わり、ワイワイと楽しそうに盛り上がっている。
「三上君も一緒にやろうや~」
「いえ、俺はもうちょっと明日の準備がしたいので……」
南さんが誘ってくれたが、まだもう少し明日合わせる部分の譜読みをしておきたかった。
(……静かな場所は)
部屋に戻ってもよかったけど、食堂のダイニングテーブルでパソコンとにらめっこをする笹塚さんの姿があった。
だから何となく俺は、笹塚さんの向かいに座って譜面を広げる。
「……何?」
譜面に書き込みをしていると、笹塚さんが顔を上げた
パソコンのディスプレイの光が眼鏡に反射していて、少し面白い。
「別に、今日の復習です……俺が居たって、笹塚さんは気にしないでしょう」
「まあな」
それだけ言うとまた笹塚さんは自分だけの世界に戻って行く。
この前まであれだけ一喜一憂していた反応も、そう言う人だと分かってしまえばどこか居心地が良い。
「……その音」
「はい?」
「その音、良いな……そのまま続けろ」
「そのまま続けろって……」
そう言って笹塚さんが集音マイクを俺の手元に向けてきた
どうやら俺がペンで譜面に書き込む音を撮りたいらしい。
別にあなたの為に書いてる訳じゃないんですけど、と心の中で独り言ちながら俺はペンを走らせる。
静かな食堂に、俺の走らせるペンの音だけが響いている
目の前の天才は何が良いのか分からないが、どうやら満足したようで
何度か頷いて、ようやくマイクを引っ込める。
「……うん、良い曲が出来そうだ」
「出来たら俺にも聴かせてくださいよ」
「何で?」
「だって、俺の出した音なんですから、どんな風になるか知る権利が俺にだってあると思います」
「……まあ、それもそうだな」
その答えに俺は満足して、また手元の譜面に視線を落とした。
「おやおや、随分仲良くなってるみたいだねあの二人」
ネオンフィッシュの次のライブの打ち合わせを終えて、少し遅い夕食を取りに来た仁科は
案外楽しそうな二人の姿を見て、やはり自分の勘は正しかったと満足そうに頷ずくのだった。
─了─