どちらまで?3ワンドロ「すみません、新宿までお願いします!」
中華チェーン店の前を横切る個人タクシーを呼び止め、目的地を完結に伝える。財布の中にはいくら入っていたか。紙クズになる宝くじはもう買わなかったから、少なくとも二千円以上は渡せるはずだ。俺の神様になった、これからなる人相手に運賃を踏み倒そうなんて考えてはいけない。
車は夜の街をひっそりと走り出す。往来を歩く人の服装はまだ秋服で、小戸川さまに至っては半袖だ。
「小戸川さまは、過去をやり直したいって思ったことはありますか?」
「初対面の奴にさま付けで呼ばれる筋合いないんだけど」
「映画とかでもよくあるでしょ。あの日に戻れたら、あれをやり直せたら」
その言葉を今まさに実体験していると、正直に話して信じえもらえるとは思わなかった。未だに自分自身でも半信半疑なのだ。俺を監禁した人達の顔が並んだニュース画面の現実味の薄さ、有象無象から推しが糾弾されようと消えなかった未練。ひた走るこの青梅街道は、そういったものが綯い交ぜになった都合のいい幻想の延長線に過ぎないのかもしれない。
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