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    終戦後フェヒュ(+エデレス)
    朝は素肌を頑なに見せないヒュのことを心配したフェがレスに相談したのをレスがエデに相談した話

    #フェルヒュー
    ferhu

    終戦後フェヒュ(+エデレス)それはそれは、甘く濃密な夜だった。
    幼子の飲む薬湯に垂らされる蜂蜜のようにたっぷりと、帝都アンヴァルの伝統菓子よりもさらに甘く、それでいて情熱的な。
    夜が更けても終わらぬ伴侶の営み、永遠を感じながら微睡めば朝。
    フェルディナントは瞼の裏に明るい光を感じて、目を覚ました。
    「おはようございます、フェルディナント殿」
    カーテンの裾を持ち上げるヒュ―ベルトが、窓から差し込む朝日を浴びて煌めいている。
    既に彼は白いシャツと黒いベストを身に着けており、その白が光を反射するのでいっとう眩しく、フェルディナントは思わず寝ぼけまなこを擦った。
    「おはよう、今朝も早いな、ヒュ―ベルト」
    「おかげさまでぐっすりでしたから」
    幸せそうに微笑むヒュ―ベルトを見て、フェルディナントもまた優しく微笑む。
    しかしフェルディナントの微笑みに内包された感情は、幸せだけではなかった。
    溢れんばかりの幸せと、ほんの少しの落胆。
    今日も、見ることが叶わなかった。
    寝起きのヒュ―ベルトの、体を。


    『大抵彼が先に起きてしまうからね。たまに私が先に目を覚ましても、彼はくるりとシーツにくるまっていて、とてもじゃないが起こさないように素肌を覗き見るなど叶わないのだ』
    『なるほど。聞いているだけで胸焼けしそうだ』
    『無理もない。特に閨での彼は普段とはまた違った一面を見せ……話がそれたな。ええと、明るいところで肌を見られるのが嫌だというので深掘りはしていないのだが、こうも頑なに隠されてしまっては好奇より心配の方が勝ち、不安を感じるのだ。先生は何か知らないか?』
    ということがあったんだよ、とベレスが言うのを、エーデルガルトは書類仕事をしながら聞いていた。
    「それで、師は何か心当たりでもあるのかしら?」
    「無いからエルに聞きに来た」
    エーデルガルトは相変わらずペンを走らせている。
    ベレスはそれを見ながら、何も言わずに待っていた。
    ややあって、エーデルガルトは一枚の書類を仕上げ終わる。
    そうして彼女は、ゆっくりとベレスの方を見た。
    ベレスはようやくエーデルガルトと目が合って、ゆるりと眦を下げる。
    二人はしばし無言で見つめ合った。
    共に激動の時代を駆け抜け伴侶となった二人は、時に言葉を交わさずともつぶさに意思の疎通をすることができる。
    渋るエーデルガルトを押し切ったのは、ベレスの真っ直ぐな瞳だった。
    「……そうね、師にならいいわ。むしろ彼も歓迎するかもしれない。いえ、するでしょうね」
    エーデルガルトはそう言ってから席を立ち、ベレスの耳元へと唇を寄せる。
    そして紙の捲れる音にさらわれてしまいそうなくらい小さな声で、彼女に言った。
    「教えてあげるわ、ヒュ―ベルトの秘密」


    ヒュ―ベルトの秘密を聞き出したベレスは、早速相談をされたフェルディナント、ではなく、ヒュ―ベルト本人と茶会の約束を取り付けた。
    ベレスに耳打ちをしたエーデルガルトは呆れた風であったが、その姿を見たベレスがたまらなくなって離れていくエーデルガルトの頬に掠めるようなキスをすれば、彼女は耳まで真っ赤にしてしばし固まっていた。
    ベレスはそれを思い出しひとりほくそ笑んでは、茶器の準備をしている。
    「ベレス殿、ヒュ―ベルトです」
    ヒュ―ベルトがベレスの私室を訪れたのは約束の時間丁度であり、まさにベレスが菓子を並べ終えたところでもあった。
    彼は白いシャツに黒いベストという、宮城でよく見かける服装である。
    「おや、テフをご用意くださったのですか」
    「ああ、私もずっと気になっていてね。最近たまに、フェルディナントから焙煎の仕方だとかを教えてもらっている」
    「フェルディナント殿にですか」
    「うん、私も彼も君に振舞いたいわけだから。そのうちエルも言い出すよ」
    笑いながら言うベレスに、ヒュ―ベルトも笑った。

    二人はテフを飲み、甘さよりもしょっぱさの勝つような茶菓子を摘まみながら、他愛のない会話を楽しむ。
    仕事の合間とはいえ今は余暇であるとけじめをつけているため、政治に関することが話題に上がることはない。
    街にある美味い店の話だとか、帝都での流行品だとか。
    ひとしきり会話が盛り上がったところで、ベレスはようやく本題へ取り掛かることにした。
    「そうだヒュ―ベルト、頼みがあるのだけれど」
    「構いませんよ」
    想定以上の即答ぷりに、あまり狼狽えたりすることのないベレスもさすがに驚く。
    「詳細を聞かずに承諾するのは感心しない」
    困ったように言うベレスを見ても、ヒュ―ベルトは得意げに鼻を鳴らすだけだった。
    「クク、先生相手だからです。それに、恐らくそちらのご用件の方が本命なのでしょう?」
    「ふふ、君といると楽で良い。それじゃあ、今ここで脱いで欲しいんだけど」
    「なるほど、今ここで脱ぐ……今ここで脱ぐ」
    ヒュ―ベルトの目が、声と共に張られていく。
    彼は明らかに動揺し、逡巡していた。
    ベレスはヒュ―ベルトが悩んでいる様子を見て、やはりエーデルガルトの見立て通りであったと感心すると同時に、多少の照れ臭さを感じる。
    彼女は今、ヒュ―ベルトからの信頼と甘えを噛み締めていた。
    「実はフェルディナントから、君が朝になると肌を見せてくれないことについて相談されていてね。かなり心配していたから、何か力になれないかと思ってエルにその件を相談したんだ」
    ベレスが最後のテフを飲み切る。
    ヒュ―ベルトはベレスの言葉を聞いて、彼女の意図を完全に理解した。
    そして緊張を解き、彼もまたカップに残ったテフを飲み切る。
    「それなりの見た目なのですが、それでもご覧になってくださると?」
    「うん。むしろ見たい」
    のんびりと茶器をいじりながらも興奮と興味を隠さず言い切るベレスに、ヒュ―ベルトはじわりとはにかんだ。
    ベレスも返事をするように微笑めば、ヒュ―ベルトは着席したまま自身のベストへと手を伸ばす。
    体を曲げながら腕を抜いては皺にならないようにベストを脱ぎ去り、ループタイを解いた。
    脱いだものを椅子の背中にかけ、いよいよシャツのボダンに指を掛ける。
    彼はゆっくりと一つ一つボタンを外していった。
    そして遂に現れた素肌に、ベレスは思わず声を漏らす。
    ヒュ―ベルトの素肌には、喉元から鼠径部にかけて、転々と赤い噛み痕が散っていたのだ。
    それは到底じゃれる様な甘噛みで残るものではなく、喰いちぎるような獣の獰猛さを感じさせ、痛々しいくらいである。
    しかしヒュ―ベルトはその傷跡を、いとし子を撫でるようになぞっていた。
    これこそがエーデルガルトの言う、ヒュ―ベルトの秘密である。
    彼は伴侶から付けられた傷を、いたく大切にしているのだ——その伴侶には内緒で。
    「彼は夜目が聞きませんからね、夜中は誤魔化せているのですが。ばれてしまえば、すぐにひっ迫した謝罪の言葉と共にライブが飛んでくるでしょう」
    「うーん、実に想像しやすい」
    「この痕を見られてしまうと彼は自制するでしょうから、朝はあのような対応になってしまいます。ギリギリまで残しておきたいものですので、夜、彼に肌を見せる直前には自分で治してしまいます」
    「そうすればまた付けてもらえるから、と」
    頷くヒュ―ベルトに、ベレスもまた心得たといった風に頷き返す。
    ベレスに秘密を暴露したことで気持ちが昇華されたヒュ―ベルトは、得難い満足感に浸っていた。
    彼にしては珍しく、完全に気を抜いて油断していたのだ。
    それが原因で、彼はベレスの行動に対応するのが遅れてしまった。
    「……ベレス殿?」
    ベレスが服を脱ぎ始めている。
    ヒュ―ベルトに背を向けて、一枚一枚上半身の服を脱ぎ捨てていった。
    後手に回ってしまった以上、ヒュ―ベルトはもうベレスを止めることができないとわかっている。
    「いくら貴殿と私の関係とはいえ、女性が男性の前で服を脱ぐのは感心しませんな」
    困ったように言うヒュ―ベルトの声を聞いても、ベレスは得意げに鼻を鳴らすだけだった。
    「ふふ、君相手だからだよ。実を言うと今日はもう一つ用件があってね」
    脱いだ服をヒュ―ベルトと同じように椅子の背にかけていき、ようやくベレスの素肌が晒される。
    それをみたヒュ―ベルトは、思わず声を漏らした。


    「エーデルガルト、聞いても良いだろうか?」
    「あらフェルディナント。何かしら?」
    「ヒュ―ベルトに用事があるのだが、彼の所在を知らないか? 執務室にも私室にもいなくてだな」
    「彼なら今は、師の部屋でお茶会の予定だったと思うけれど」
    エーデルガルトはそう言ってからしまったと思ったが、もう遅かった。
    フェルディナントは礼を言い、もうベレスの部屋に向かい始めている。
    恐らく今日のヒュ―ベルトは、ベレスに噛み痕を自慢しているに違いない。
    その現場にフェルディナントが突入するのは、あまりにも間が悪かった。
    「フェルディナント。私も師に用事があるから、一緒に行くわ」
    しかし、今更誤魔化してフェルディナントを止めるのは不可能である。
    エーデルガルトは、せめて起こるであろう混乱を抑えるため彼に同行することにしたのだった。

    二人が顔を真っ赤に染め上げながらそれぞれの伴侶にライブをかけるのは、それから十分後のことである。
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