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    CitrusCat0602

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    CitrusCat0602

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    これはねこが楽しいプランツドールパロなプロチコの続き

    2 ぱち、と目を開く。すると、目の前に見目麗しい少年が穏やかな寝息を立てながらそこにいたので、チコーニャはひどく狼狽した。寝ぼけ眼で昨日のことを思い返せば、そう言えば彼と共に眠りについたのだと言うことを思い出す。彼の頬に触れた。とても人形とは思えないほど暖かく柔い肌だ。
     頬を赤らめながら陶然と見つめていれば、ぱちりと彼が目を開く。そしてチコーニャが起きていることに気が付くと、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。

     ーー花婿を見るような目で、見つめてくださいましね

     ふと店主に言われたことを思い出す。チコーニャはオラクルに身を寄せた。彼は特段逃げることも無く、ただじっと彼女を見つめている。ふに、と唇を押し当てて、チコーニャはぱちりと瞬きをした。

    「……なんで止めるの?」
    「……」

     唇を触れ合わせようとしたのに、あえなく挟まれた彼の手に阻まれる。チコーニャはむくれながら文句ありげにそう口にし、それを聞いていたオラクルは困ったように笑った。

    「オラクルはチコーニャのお婿さんなのに……」

     オラクルは困ったように笑うばかりで、チコーニャは一層頬を膨らませる。よしよしとご機嫌を取るように彼がまろい頭を撫でてやれば、チコーニャはやがて機嫌を良くしてオラクルの胸に頬を擦り付けた。

     二人で手を繋ぎ、食事をするために移動する。如何せん広い家なので、オラクルにある程度部屋の位置を教えながら歩いていた。

    「昨日紹介したけどチコーニャ妹と弟が四人いるから、今度みんなでかくれんぼしよっか。きっとすごく楽しいよ」

     オラクルは相変わらず言葉を発さないが、楽しみだと言う代わりににこりとほほえんだので、チコーニャは満足そうに笑った。
     改めて次の部屋、と思った時、廊下の向こうから走ってくる足音が聞こえる。チコーニャはそちらに目を向けた。

    「あっお姉ちゃん」
    「アリオール、走ったら危ないよ」
    「えへへ……あ!お人形ちゃんもいっしょなんだ!おはよ!」

     チコーニャはオラクルの方に目を向ける。彼は昨日と違って不思議そうな無表情ではなく、柔らかな微笑みを浮かべてアリオールを見ていた。それにチコーニャはえ、と声を漏らし、アリオールは驚いたように瞬きを繰り返してから同じように笑い返す。

    「えっと……もしかして、お姉ちゃんの妹だから?えへへ、うれしいな。お姉ちゃんのこと好き同士仲良くしようね」

     妹がご機嫌にオラクルの空いている手を握ってそういうのを、チコーニャは複雑そうな顔で聞いていた。しかし気を取り直し、三人でリビングに向かう。家族全員で朝食を取りながら、やはり他の家族ににこにこと笑いかけるオラクルを見て、チコーニャは何とも言えないもやもやを感じていた。

     その日は平日、10に満たないとはいえ学生の身分である彼女はいつも以上に長く感じる学校生活を終えて足早に家に帰ってきた。手を洗って足早に自室に戻り、鞄を放ってベッドの上で外を眺めていたオラクルに飛びつく。

    「ただいまぁ!」

     オラクルは自分に飛びついて来た幼い主人を受け止めようとして失敗し、そのままベッドの上に倒れ込んだ。身体を起こし、きょと、とした顔で自分を見るオラクルと目を合わせる。暫くまじまじと見つめ合って、お互いにくすくすと笑い声をあげた。

    「えへへ、びっくりした?」

     自分の肩にぽす、と頭を乗せ、見上げるようにして主人がそう尋ねてくる。オラクルは微笑みながらこくんと頷いた。彼女はくすくす笑いながらオラクルの手を握り、指を絡ませる。それにぴくり、と反応を示し、オラクルは不思議そうに少女を見つめた。彼女がにぎにぎと手で遊ぶものだから、少しだけくすぐったく感じて彼は肩を竦める。

    「……宿題しなきゃいけないけど、動きたくなーい」
    「……」

     甘えるように彼女がそういうのを聞いて、オラクルは一瞬受け入れようとしたのか頬擦りをした。しかしすぐにム……という顔で首を横に振り、ちょんと指先で彼女の鼻を突く。

    「……」

     ぷう、と頬をふくらませて嫌だと主張する少女に、それでもダメだよと言うようにオラクルが首を振った。しばし無言のやり取りがあり、最終的にチコーニャは諦めてオラクルから離れ宿題をすべく鞄を漁る。その背中を見て、オラクルは満足げに頷いた。
     鉛筆と紙が擦れる音がする。ちゃんと机に向かって勉強をしている彼女の背中を見つめながら、ただただ人形は微笑んでいた。彼は彼女に幸せになって欲しいと思っているので、本当は彼女が求めるように甘やかしても良かったのだが、長い目で見るとそれがあまり良くないことであるというのが彼にはわかっている。彼女の日常は、自分といる時間だけでできているわけではないのだ。

     どのくらい時間が経っただろうか、やがてチコーニャは鉛筆を置き、くるりと振り向いてオラクルに飛びつく。

    「終わった!もういいでしょ?ねっ!ハグして!」

     ぐりぐりと頭を擦りつけてくる彼女におかしそうな笑い声を上げて、オラクルはぎゅうと抱きしめてやる。そしてすりすりと同じように頬擦りをしながら嬉しげに目を細めた。

    「えっへへ……オラクル良い匂い……」

     首筋に顔をうずめて深呼吸をし、目を伏せてうっとりとそう呟く。オラクルは優しい目で彼女のことを眺め、優しくその頭を何度も撫でてやった。その感触を味わいながら、チコーニャはこれほど幸せなことはこの世にないだろうと口元を緩ませる。

    「ねえ、私が大人になったら結婚式挙げようよ」
    「……」
    「オラクルは私の花婿さんだもんね。お揃いの白いお洋服着て、指輪も交換しようね」

     ご機嫌に笑いながら言う彼女に、少しだけオラクルは微妙な顔をした。彼女は人間で、自分は生きていると言っても人形である。本物の伴侶になどなれるはずがなかった。今朝のやり取りから気づいてはいたが、どうも彼女は自分にとんと惚れ込んでいるようである。オラクルも彼女を愛してはいるものの、よくいるプランツドールのように何も考えず自分のやりたいように生きるような性質はしていなかった。故に、自分が生きるためとはいえ少女を騙しているような気持ちになって居心地が悪い。しかし彼女があんまり幸せそうに未来のことを語るので、水を差すのもと思った彼は、また表情をいつもの微笑みに戻して彼女の頬に自分の頬を擦り付ける。すべすべの肌にくすくす笑いながらチコーニャはオラクルの手を握って指を絡ませた。
     チコーニャはそのまま鼻歌を歌い出し、オラクルの手を指で弄り回している。そんな幼い彼女の後頭部をじっと見つめながら、彼女の幸せにはもしかして自分が必要なのだろうか、とぼんやりと思った。
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