もぞ、とベッドの上で寝返りを打つ。ちらりと時計を見て、ベッドに入ってから二時間が経っているのを確認した。ルピナスが一向に寝室に入って来ない。ぎゅう、と枕を握りしめ、少しの間の後テロスはむくりと身体を起こす。ずりずりとベッドの端まで這っていくと、それまで毛繕いしていたループスが気がついて白狼の姿に変わり、テロスの傍までやってきた。テロスが手を伸ばせば、ループスは尾を伸ばし巻き付けテロスを持ち上げる。そしてそのまま背中に乗せて尾を解いた。
「ルピナスに会いに行きたいの……連れてってくれる?」
「にゃあ」
ループスは了承の声を上げて寝室のドアを開ける。そしてそのまま廊下に出た。常に過ごしやすい気温に保たれている寝室とは違い、夜の廊下はひやりとした空気に満たされている。テロスはくしゅん、とひとつくしゃみをした。
薄暗い廊下を少し進んで、ルピナスのいる書斎を覗く。ルピナスは何やら書き物机に向き合って何かを書いている様子だった。きぃ、と扉が立てた音で、ルピナスが振り向く。
「ルピ、寝ないの?」
「ああ……うん、ちょっと書くものがあって。……ごめんねテロス、先に寝てて?まだかかりそうだから」
ルピナスはテロスに歩み寄ると申し訳なさそうに眉尻を下げる。そして先に寝るようにと言いながらキスを落とした。テロスは少し考えた後、部屋を出ようとするループスを止めてソファに下ろしてもらう。
「じゃあ、ルピナスが終わるまで待ってる」
「え?でも……遅くなっちゃうかもしれないよ」
「うん……でも待ってる」
「そっか。……眠くなったら寝てていいからね。僕が後でベッドに連れてってあげる」
こっくりとテロスが頷いたのを見てから、ルピナスはまた机に向き直った。にゃあとループスが控えめに鳴くので、テロスはループスのいる方を見る。ループスはブランケットを咥えていた。
ループスから受け取ったブランケットを頭から被り、ルピナスの後ろ姿を眺める。紙の上をペンが走る音を聴きながら、テロスは徐々に瞼が重くなってくるのを感じた。ふあ、と欠伸をひとつすると、いつもの姿に戻ったループスがやってきて傍で丸くなる。それを撫でてやりながら、やがてテロスはとろとろと眠りについた。
漸く書くものが終わってルピナスは軽く伸びをする。それからテロスの方を振り向いて、寝息を立てているのを見るとふふ、と笑った。
「かわいいなあ。僕がいないと不安で寝れなかったのかな」
テロスを抱えあげながら、ルピナスは嬉しそうに目を細める。少しだけ開いた口をじっと見つめ、ゆらりと尾を揺らしながら指でその唇に触れた。ちう、と吸い付くように口が動く。少しだけ指を押し込み、口の中を弄ろうとしたルピナスを咎めてループスが小さく鳴き声を上げた。ルピナスはちらりとループスを一瞥する。それからふうとため息を吐いた。
「そうだね。……もう寝ないと。」
ルピナスはテロスの口から指を離し、そのまま部屋を出る。後に残されたループスは呆れたようにもう一声鳴いた。