【イルアズワンドロ】誘惑 うん、と唸る声が聞こえて、入間は顔を上げた。
その視線の先では、教室の隣の席に座ったアリスが、手元の書類を眺めながらなんだか難しい顔をしている。
その手元にあるのは、今入間が見ていたのと同じ書類――つまり、今学期の選択授業の申請書。
出会ったばかりの頃のアリスであれば、「入間様はどの授業を取りますか」と真っ先に聞いてきて、迷わず同じ授業を取ったであろうし、少し前までのアリスならば、例え入間とは離ればなれになってでも、自分の力を存分に伸ばすために必要な授業を潔く選択していただろう。
それが珍しく、今日のアリスは難しい顔で書類を眺めたまま、じっと固まっている。
「アズくん、どうしたの? 選択授業決まらない?」
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