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    onionion8

    @onionion8

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    onionion8

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    ちょっとすけべなケイアキだけど、兄弟子ふたりと話してるだけで先生は回想にしか出てこない。

    三人寄れば文殊の知恵、という言葉がある一方で、女が三つ寄ればそれは姦しいと読むらしい。ならば英雄が三人集まればいったい何になるだろう。アキレウスはふとそんなことを思ったが、ここは沈黙は金という言葉に従った。目の前に積まれたチョコをひとつ、もぐもぐと食べていたせいもある。溺れるほどの濃厚な甘さがどろりと喉を焼いてゆく。
    「それで、バレンタインだからいつもと違うことしたい♡ とかいう頭ゆるふわな考えで教授に媚薬を盛ったのか」
     食いたくないが食わねばならないチョコがある。そうイアソンに呼ばれて来たのはいいのだが、いつの間にかそんな話になっていた。アキレウスがせっせとチョコを食べる合間にうっかり口を滑らせた、ちょっとした恋バナ、もとい猥談である。兄弟子はため息と共にうんざりとした顔をするが、もともとチョコのせいでそんな顔をしっぱなしなので気にならない。美形の無駄遣い、とは誰が言った言葉だろう。アキレウスは紅茶で喉を潤すと、次のチョコを手に取った。沈黙とはすなわち肯定のことである。
    「誰が頭ゆるふわだ。サーヴァント、それもケイローン先生にも効くほどの媚薬だぞ? どれだけ頭を使ったと思ってる」 
    「いやお前には言ってない。そっちのバカに言ってんだ」
    「誰がバカだ」
     しかして沈黙とは容易く破れるものでもある。女同士の友情ほどに破れやすい、などと言うといろいろ厄介なので言わないが、上司との口約束くらいにはすぐに破られるものだった。アキレウスは名誉のために兄弟子たちの会話を遮り抗議する。
    「お前だお前、踵が弱くて馬とおしゃべりする英雄」
    「それはいくらなんでも雑すぎるだろ! あとクサントスはまじで喋るんだって言ってるだろが!」
     怒りを込めてばきばきと石版のようなチョコを砕き割ると、中から呪いがこぼれ落ちた。パッと見はただのベリーソースのようであるが、ベリーソースは喋らない。神の馬たるクサントスはまじのまじで喋るのだから、神代の力を使えばただのベリーソースも愛を語ることがある、とはあいにく聞いたことがない。ゆえにこいつは呪われている。
    「ほらイアソン」
    「はい! 俺が悪かったですごめんなさい! だからそれ頼むからこっちに向けないで!」
     この変わり身の速さを見習うつもりはまったくないが、危機回避力の高さはなるほど凄まじい。アキレウスは差し出したチョコを引っ込めながら、ぴゃっと部屋の隅まで逃げた男を見て思う。普通はこんな呪い付きチョコを渡される時点でほぼ詰んでいると言ってしまっていいはずなのに、何だかんだでイアソンは今日も無事に生きていた。呪われることも狂ってしまうこともなく、文句を言いつつ逃げ惑いつつ、イアソンはイアソンのままだった。
     そんな悲劇と喜劇をおいしく捏ねて焼き上げたような男の様を見ていると、アキレウスは不思議と楽しかった。今日もおかしなチョコが混ざっていると分かっているのに食べに来たのは、つまりそういうおかしな劇を見に来たという感覚だ。手の中の呪い入りチョコがくすくすと笑っている。
    「アスクレピオスゥゥ……!」
    「静かにしろ。こんなものいくら食べたところで死にはしない」
    「死ななきゃいいわけじゃないんだこっちはよォ!」
     アキレウスがイアソンで面白がりに来たように、医神もまたイアソンで楽しむために来たらしい。もっとも、彼はイアソンがチョコを食べた時の肉体および精神の反応を見たいというだけなのだろう。毒ならともかく呪いの類は大して興味がなさそうである。
    「これ、食べるとどうなるんだ?」
    「作った相手に愛を囁くようになる」
    「ほらぁ! そういうの! 地味だがそういうのが一番だめなやつなんだって!」
    「ふぅん、じゃあ俺が食べても効くやつか?」
     ごちゃごちゃとうるさい男は置き去りに、アキレウスはアスクレピオスに問いかけた。分析中のチョコを刻んでいた手がふいに止まり、医者の鋭い視線が向けられる。
    「ああ。恐らく、だがそれに攻撃の意思なんてものはない。だから害意や悪意に対して無敵だというお前の加護ではそれの呪いは防げない、はずだ」
    「なんだよ、歯切れの悪い言い方だな」
    「そこの船長以外が口にした場合は別の効果があるかもしれないからな。気になるなら試しに食べてみろ。死にそうになったら助けてやる」
     無表情ながらわくわくという擬音が似合う様子で持ちかけてくる兄弟子に、アキレウスはそっとチョコを置いた。つやつやとした表に刻まれた繊細でうつくしい紋様に、カカオのビターな香りと甘酸っぱいベリーの香りがほどよく混ざって調和する。美味そうだなとは思うものの、呪われてまで食べたいほどのものではない。
     代わりに別のチョコを漁っていると、恐る恐るといった動きでイアソンが席に戻ってきた。愛していると囁く呪いをちらりと見る目は死んでいる。陽射しの下ではまばゆく輝く金髪も、心なしかくすんでいた。美形の台無し状態である。
    「いいかアキレウス、恋人だろうがなんだろうが一服盛るのは絶対間違ってるからな」
     これは弱体ではなく愛情の強化扱いになるとかナントカなため解除は不可だと結論が出て、一層げんなりした顔の男は呻くような声でまともなことを言い出した。アキレウスはまたしても口の中のチョコに言葉を阻まれたので、仕方なく眉間に皺を寄せるだけにする。
    「だいたいだ、そんなものに頼ったところでよくて失敗悪けりゃ破滅、ってのがギリシャの定番ネタなんだよ」
     かつて神の助力によってコルキスの王女の心を惑わした男は疲れ果てたようにテーブルの上へ突っ伏した。残りのチョコまだまだ山になっている。あといくつヤバめのチョコが混ざっているかは分からないが、すべて食べれば待っているのは確かに破滅かもしれない。
    「それはあれだろ、神が絡んだ時の話」
    「媚薬を盛ったお前も媚薬を用意したうちの船医も半神だし、教授は大神の末子だが? 登場人物全員神の血を引く奴らだが?」
    「おっとこんなところに急患か。あのクソ羊と僕が血縁だとか言うふざけた口にはこいつを突っ込んだ方がよさそうだな」
    「やめろ! いややめてくださいお願いだから!」
     完全に対イアソン用兵器と化しているチョコの運命がどうなるか。それはアキレウスの知ったことではないので気にしないようにする。それが安全に食べられるかはアスクレピオスの分野であって、食べるかどうかはイアソン本人の問題だ。
     だからアキレウスは自分の問題について話題を戻すことにする。すなわち、バレンタインの媚薬作戦のことだった。ほろりと苦い夜の記憶が蘇る。
    「先生、媚薬飲んでも俺のことめちゃくちゃにしてくれなかった」
    「なんだセックスしなかったのか」
    「いやそれはした」
    「待て待てそういう生々しいのちょっとキツい、っつうかヤることヤッといて何が不満なのお前」
    「だっていつもと全っ然変わんなくてだな……ああくそっ俺は先生にめちゃくちゃに抱かれたかったのに!」
     あの時、欲情した男の顔で迫られた時、これはイケると思ったのだ。しかし現実はそうチョコのように甘くはなく、ケイローンはその猛る肉欲に身を委ねてはくれなかった。
     たっぷりの潤滑剤とやさしく丁寧な長い前戯。すっかりと蕩けた媚肉を目の前にしてもなお、挿入はアキレウスを気遣うものだった。突き入れられるモノの興奮しきった熱さとかたさ。口づけて絡ませ合った舌の熱。ぱたぱたと垂れ落ちるほどに浮かぶ汗を拭う手と、いつもの澄んだ翠とは違う欲を湛えた男の目。焦れているのは全身を通じて伝わってきたはずなのに、最後まで焦らされていたのはアキレウスの方だった。
    「いや……でもまぁ抜かずにずっと、ってのはいつもとちょっと違ったか。あれは結構やばかった」
     つきつきと疼く胸の先を弄ってとねだる余裕もないほどに、思い切り奥を突いて欲しかった。あんな餌を前にした獣のように涎をだらだらと垂らす雄々しい肉棒を見せられて、我慢ができるはずがない。ぐ、と押し込まれるのに合わせて息を吐き、ずりずりと中を擦られる刺激に声を上げ快感を訴えた。そうして素直に喘いだ方が、ケイローンは嬉しがる。
     ぱんぱんと肉がぶつかる乾いた音と、ぐぽぐぽと秘部を捏ね回す濡れた音。そのどうしようもなく卑猥な音に、アキレウスの高くかすれた声が混ざる。それが好きだとは相当な物好きだなと思いつつ、こうして媚薬を盛ってまでひどく抱かれたがる自分がそれを言うことはできなかった。
     ゆっくりと、けれど休むことなく揺さぶられ、快楽で身体が満たされる。大きく開いた足がぴんと伸び、こみ上げる射精感にぞくぞくと背がしなる。来る。はやく。来てしまう。まとまらない思考が感覚だけを拾い上げ、内側で感じる熱だけが確かなものになった。
     どぷ、と音がしそうなほどの勢いで、中に熱いものを注がれる。その感覚を表す言葉をアキレウスは持っていない。衝撃、違和感、濡れた感じ。腹の中が重くなり、雌にされたような敗北感のようなものが胸を刺す。けれど見上げた先に満足そうなケイローンの姿を見つけると、すべてはどうでもよくなった。多幸感がふらふらと腕を伸ばさせて、種付けを終えた男の身体を抱きしめる。
     感じる重さも愛おしいなと思っていれば、小さく謝る声がした。これくらいで潰れてしまうほどやわくはないと笑おうとして、しかしそれは失敗した。ぐぐ、と中が圧迫される感覚に、苦痛はないが思わず悲鳴がもれてしまう。そしてアキレウスが状況を正しく把握する前に、謝罪をしたはずの男はゆっくりと腰を振った。軽く動かれるたびに射精されたものがあふれ出て、もらしているようなたまらない心地がした。
     ぱちゅん、ぱちゅんと響く音。いつもとは違う二回目に、アキレウスはへらりと笑っていた。求めていたのはこれだった、と言うにはまだまだやさしいが、それでもこうして抑えきれない欲を見せてくれるケイローンにどうしようもなく興奮した。
    「けど終わったあとでしこたま怒られたんだよな」
    「ほれみろ媚薬、ダメ絶対」
     なぜか勝ち誇った顔をするイアソンに、アキレウスはむっと唇を尖らせた。今度はチョコを食べていない時だったので、言い返すことに制約はない。だがここで何を言ったとしても、ケイローンが怒った事実は変わらない。
    「まぁあれは媚薬というよりただの精力増強剤だがな」
    「えっ……まじか」
     媚薬というのはある意味男の、いや人類のロマンだろう。そう言いたかったところを打ち砕かれて、アキレウスは言葉を飲み込んだ。
    「このただのチョコレートの方がまだ媚薬らしいと言えるものだ。だがお前としては分かりやすい効果があってよかっただろ」
     いい加減呪いの相手は飽きたのか、アスクレピオスは無害なチョコをぼりぼりかじりながら言う。そこから続く薬学の話をアキレウスはぼんやり聞き流しながら、そういえばケイローンとはチョコを食べていなかったことを思い出した。
     媚薬。媚薬とはいったいなんだろう。今さらなことを考えるが、医神が言うなら試してみてもいいだろう。これならきっと失敗はしても破滅するほどのことはない。怒られたことをさっぱり反省しないまま、アキレウスはバレンタインも終わってしまった今どうやってケイローンにチョコを渡そうか思いを巡らせた。今度こそ甘いだけの夜に期待する。
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    onionion8

    DOODLE今さらまた一人先生の誕生日ネタにたぬきを添えた胡乱な話。富Kのつもりで書いてはいるけどCP要素はあんまりない。
     実家に戻った富永は、忙しいなかでの眠りのうちによく夢を見るようになった。それは今さら国試に落ちる夢ではなく、どこか異世界を旅するような夢でもない。何度も繰り返し見る夢は、懐かしい、T村で過ごした日々だった。吹雪と血。違法な医療行為と警察沙汰。はじまりは凄惨なものであったのに、気がつけば穏やかな暮らしがそこにあった。
     同居を許された診療所。同居人となったその主。起きている時にも時おり思い出しはするが、夢ではいっそう鮮やかに、あの頃のKが目の前に現れる。それは白衣姿であることも、マント姿のこともあるが、そのどちらでもなく、くつろいだ部屋着であることも多い。
     富永がKとともに過ごした八年間を振り返ると、やはり医者としての姿が浮かぶので、不思議といえば不思議だった。どうしてこうも、何でもない日の何者でもない彼を夢に見るのだろう。まだ預かった子も昔の執事も看護師だっていない頃、ふたりきりだった診療所。寝起きのKがぺたぺたと、スリッパを鳴らして歩く姿。あるいは風呂から上がって出てきたKが、濡れた髪をタオルで巻いている姿。
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