マチュとヒゲマン 〜未来への、約束〜「貴方は、ニュータイプなのです。それも本物の」
「ニュー…タイプ??なにそれ??」
「人類がコロニーを生み出し、宇宙で生まれ生活するようになった結果、稀に研ぎ澄まされた感覚を持つ者が現れたのです。その者たちをニュータイプと呼んでいるのです」
「なんか分かんないけど…そうなんだ?」
「光り輝く洪水の世界を見たことはないですか?ジークアクスに乗っている時に」
「ハッ……ある……「キラキラ」って、呼んでたけど…」
「それが見えるのがニュータイプの証です。"向こう側"から来たミノフスキー粒子と反応したエネルギーが、光輝いている様に見えるのです」
「向こう…側…??(分からん)」
「まぁ、良しとしましょう。あのジークアクスをあそこまで使いこなせるニュータイプは限られているのです」
「私が…特別だってこと…?」
「そう…ジークアクスの力を引き出し、薔薇の少女を救えるのは、貴方だけです」
「……」
「ただ貴方の…やりたい事をして欲しい。矛盾しているかもしれませんが」
「私…シュウジの…大切な人を守りたい」
「大切な人を守る…その為には、戦わなければなりません。覚悟は…できますか?」
「できるかどうか…でも、絶対に守りたい!シュウジに…会いたい…」
「彼の為に、戦ってくれますか」
「…うん!」
「ふむ…そうと決まれば、貴方には戦い方の基礎から学んで貰います」
「え〜〜!めんどくさっ!ジークアクスがあればいけるんじゃなくて??」
「戦場は…"命のやりとり"をする場所です。クランバトルとは訳が違うのですよ」
「うっ…」
「それですら命を落としてきた者を見ているはずです…
少しでも戦場で生き延びる為に、私は貴方に"本気"で教えますから貴方も本気で取り組んで下さい」
「ひゃ〜〜〜ヒゲマンスパルタ!」
「ひ…ひげま…??」
「ん〜〜〜なんかおヒゲがチャーミングだなって思ってたから」
「あ、ありがとう…?」
「こらーッッ!!中佐に向かってその口の聞き方!!」
「まーまーコモリ少尉、彼女は民間人ですから大目に…」
「えっ、ヒゲマンってもしかして偉い人??」
「シャリア・ブル中佐って呼んで!ジオン公国軍中佐!」
「ちゅーさ?って偉いの?」
「まあ、この中では一応トップですが」
「しゃりあぶるちゅー…やっぱ言いにくいからヒゲマンでいい?」
「あのねぇー!民間人だからって調子乗りすぎ!」
「まーまー、それよりマチュ君、早速特訓、始めますよ」
「しょーがない、ちゃっちゃとやっちゃうか〜」
「おそらく敵はビットを持ちオールレンジ攻撃を兼ね揃えた、ジークアクスと同等の能力を持った機体と当たる可能性が高いです。
このオールレンジ攻撃をかわせなければ、生き残れません」
「ひっ……」
「本当は突撃機動群の教本を1から読んでもらいたいところですが、今は時間がありません。スペシャル特訓最短コースでいきます。
身体で覚えて身に付けていきますよ!」
「え〜っ💦ヒゲマン無茶振りすぎっ💦」
「真のニュータイプである貴方なら、きっとできます。怖がらずに。さあ出撃を!」
「わわ、マチュ、ジークアクス、出ます!」
「よし…この空域にしましょう。ではマチュ君、いきなりですが私の弱点を教えます。」
「へ??」
「ハンデです。ここを戦場だと思って、私を敵と思って死ぬ気で戦って下さい。これが特訓です」
「でもいきなりはキツいって…何も分かってないし…」
「貴方はクランバトルである程度戦い方を齧っているはず…。シュウジ・イトウと華麗なMAVを見せてくれていたじゃないですか。」
「シュウジ……。でもあれは……シュウジがいたからできてた訳で…
私の力なんかじゃなくて…」
「マチュ君…確かに荒削りではありますが貴方の機体の扱い方、間合いの取り方は"本物"でした。必ずうまくいく」
「分かった…本気で…やるよ」
「いいですね…いきましょう。では始め!」
「ヤバっ!ちょっと!どこヒゲマン??」
「戦場ではどこから敵が現れるか、攻撃が飛んでくるか分かりません。突撃機動群教本その1!回避運動!」
ビュン!
「ちょっとヒゲマン!当たるってマジで!」
「よく避けました。見事です。
私の弱点を教えましょう。あと4回までしか一度にビームを撃てません。避けきれば勝ちです。さあ次!」
ビュンビュン!!
「ちょっと〜〜ー!しぬ!!しぬって!!!」
「これが戦場です。よそ見してる暇はありませんよ」
ビュンビュンビュン!!!
「ひ〜〜〜!!!ころす気〜〜〜!?!?」
「そうです」
ビュン!!
「戦場では皆が"殺す気"なのです。ここが1番クランバトルとは違うところです。」
ビュンビュン!!
「お見事。よく動いている」
「はぁ…はぁ……ちょっともう…むり……」
「今日はこれくらいにしましょう」
「ヒゲマンって控えめだけど…実はめっちゃ強かったりする…?はぁ…はぁ…」
「ふふ…」
──ジオン公国軍中佐、シャリア・ブル。
またの名を、"木星帰りの男"
そして、ジオン軍最強のニュータイプと言われた男──
「ねぇ……ヒゲマン?」
「どうしました?」
「ヒゲマンって…人、殺したこと…あるの?」
「………。それが私の仕事なのでね」
「ごめん、変な事聞いて…」
「戦うのはやはり、嫌ですか?」
「ううん…嫌じゃない。ただ…ただ……」
「…私は軍人として命を受けていますが、貴方は違う。命を奪うか奪わないかは…貴方が決めることができる」
「……」
「ただ、戦場は殺戮の場です。殺す気の相手を殺さずして勝つことは…難しいのです。でも貴方なら…できるかもしれない」
「……うん」
「コモリ少尉のところへ寄って、今日はもう早く休みましょう。明日からまたバリバリ叩き込みますからね」
「はいはーい💦」
(私は何をさせているのか…まだ未成年の少女に…
しかしあの計画を実行に移すには、彼女の力が…必要だ…)
「コモリ…さん?」
「ああ…貴方。お疲れ様」
「あの…私、服なくて…」
「中佐からは聞いてます。はいこれ」
「あっ、ありがと…」
「中佐も何を考えてるんだか…あ、おしゃべりロボットが随分騒いでいたけど」
「……あ、ご、ごめんなさい💦」
「可愛がってるのね、貴方の名前をずっと呼んでたわ」
「うん…なんか御守りみたいな感じで…」
「お母さんには連絡、してるの?」
「……」
「軍用の暗号通信機、貸してもいいけど」
「え……」
「それがあれば、お母さんに連絡できるんじゃない?」
「いっ…いいの…?」
「お礼は中佐に言ってね」
「おはよう、マチュ君。昨日は眠れましたか?」
「う、うん。なんとか…あ、暗号の通信機、貸してくれてありがと…」
「親御さんはさぞかし心配でしょうから…」
「きょ、今日は何するの?」
「ふむ、今日は実戦第二段階、攻撃の仕方です。
相手のオールレンジ攻撃を避けつつ、隙を窺い、攻撃を仕掛けて下さい」
「こっ、攻撃って…ヒゲマンの機体傷つけられないし…」
「大丈夫です。本気で攻撃してきて下さい。
私は必ず避けますので」
「ヒゲマンすご!余裕じゃーん」
「油断しているとやられます。その一瞬が命取りになります」
「きっつ…」
「さあいきますよ!突撃機動群教本その2!死角からの攻撃!」
ビュビュン!
「ちょっと!昨日より速いじゃんむり!!」
「昨日と同じでは成長できません。はい次!」
ビュビュビュン!!
「ちょ!ま!!攻撃なんて無理だって!!うわっ!!」
「よく避けている…素晴らしい、が、それだけでは勝てませんよ」
ヒュンッ
「あ、ヒゲマン消えた!?」
「ニュータイプの感覚を研ぎ澄ませて…貴方には見えるはずだ」
ピキーーン
「下だ!」
「ご名答!」
「遠慮なくいくよ!でやあーっ」
ヴンッ
「え???」
「チェックメイトです」
「え…後ろ?うそ…何も見えなかった…」
「攻撃を仕掛ける瞬間が最大の隙を生んでしまうのです。
MAV戦ならその隙を埋めることができますが…1人で戦う場合、それに留意しなくてはなりません」
「く〜〜っ」
「大丈夫。もう一度やりましょう」
ヴンッ
「はぁはぁ…」
ヴンッヴンッ
「はぁ…はぁ…」
ヴヴンッ
「当たんない!!なんで…!」
「落ち着いて…心を鎮めて……高ぶった感情ではうまく感じ取ることはできません…
あのシュウジ・イトウと組んでいた時を、思い出すんです」
シュウジ…
(さあ目を閉じて…海を泳ぐ、魚の様に──)
「シュウジ!!」
「!!!!」
「でやぁーーーーっ!!!!」
(速いっ!!)
ヴンッッッ
「はあっ…危なかった…もう少しで真っ二つになるところでした…」
「本気でかかってこいって言ったの、ヒゲマンじゃん!」
「いやあ想像以上でした。合格です」
「ねー、コモリーん!」
「えっ私のこと?」
「いつも…ありがと…服とか…いろいろ」
「しっ、仕事だから…」
「ね、コモリンはさ、戦ってて怖くなったりすることない?」
「…初めて艦に乗った時は緊張したけど、今は…そう、やるべき事をやらなきゃ、って気持ちのほうが強いかな…」
「そっか…皆すごいんだな…」
「貴方もよく頑張ってるのね。脱走はするし…最初はどうなるかと思ってたけど」
「色々迷惑かけて…ごめん…。あ、まあ、私も何かできることがあればと思って…」
「でも無理はしないで。まだ貴方未成年でしょう?親御さんもずっと心配してるだろうし…この仕事は危険だから」
「うん…」
「でも中佐と一緒なら…大丈夫かも」
「ヒゲマン強いもんね」
「ジオン軍最強のニュータイプって言われてるからね中佐は。でも気を付けて」
「さて…特訓も最終段階ですね。」
「やっと終われる〜〜」
「突撃機動群教本その3…は、奇襲と制圧です。相手の不意を突き、無力化します」
「無力化…」
「倒すと言うことです。生き残るには…相手を倒さなければいけません。それが戦場なのです」
「う……にしてもヒゲマンよく覚えてるね?本の内容」
「ふ…これを書いたのは私ですから」
「え〜マジ??すご…」
「では始めますよ。相手の死角に入り込む。これが基本です。
私の死角に入り、攻撃を仕掛けて下さい。」
「!?私ヒゲマン倒しちゃうかもよ〜??」
「どうでしょうか。私も本気でいきますから」
「ひ〜〜💦ごめん今のウソ!」
「本気で来てください。私も貴方を倒すつもりでいきますので。それが最後の訓練です」
「わかったよ…ヒゲマン顔がマジすぎてこわ」
「遊びじゃないのですよ。貴方が生きる為です。では始め!」
「しかく…って言ってもオールレンジで攻撃できるヒゲマンズルすぎだし…どこから狙えば…?」
「モビルスーツ同士の戦いは有視界戦闘。有限の攻撃回数。所詮は人と人の戦いです。必ず死角はあります。
貴方になら見えるはず!」
ヒュンヒュンヒュン…
「てーかビーム撃ちすぎ!」
「集中しないと当たりますよ」
「くそ〜どこ…どこが…」
ピキィーン
「!?キラキラ??」
キラキラが…教えてくれてる…?シュウジ??いや…声…ララァ……!?
(オメガサイコミュか…!?)
「見えた!!」
(まずいっ)
「ヒゲマンの真下、ガラ空きじゃん」
「ふ…来なさい!」
「おりゃーぁっ!!」
ヴンッ
(私は…まだ未成年の少女に…人の殺し方を教えている…)
「いい動きです!」
「避けるの速っ」
(彼女に生きてもらう為とは言え…私は…)
ギュンッガッ
「くっ…掠ってしまったか…」
「ヒゲマン!!!!」
「はっ…」
「ボケっとしてたら死ぬんじゃなくて??」
「その通りです。私は今やられましたね」
「ヒゲマン…」
「お察しの通り、です。私は人を殺しすぎました。
綺麗事とは分かっていますが、貴方にその片棒を担がせている…」
「ちがうよヒゲマン。そんなんじゃない。
私はシュウジに会うために戦うって決めた。自分で決めたんだ。」
「マチュ君…」
「ヒゲマン最初に言ってたじゃん。大切な人を守る為なら、戦わなきゃいけないって。その為なら私、何でもできるよ!」
「……私の方が、浅はかだったようですね。
マチュ君、貴方は強い…」
「ヒゲマン…もう一回ちゃんと教えて!本気じゃないんじゃ、意味ないはず。
手加減してんのずっと分かってたんだからね!
ヒゲマンの"本気"、見せてみてよ!」
「ふっ……バレてましたか。
では見せましょう…私の本気を。さあ、ついて来なさい!」
ビュンビュンビュン!!
「やば…すごいスピード…キツっ」
ギュンッ
「後ろっ!?」
ビュンッ!
「これがヒゲマンの…本気!?」
シュンッ
「また見えない……感じるんだ……私なら……できる!」
ギュンッ
「右!」
ギュルルル…
「え……ワイヤーが……」
ビュビュンッ!!
「左!間に合わない…やらなきゃ……やられる……うわぁあぁぁあ!!!!!」
ブチン!!
「な…!!??」
「だぁぁあぁっっっっ!!!!!」
「そこまで!!!私の負けです!!!」
「あああヒゲマン無理だよーっ」
ガチィーン
受け止められるジークアクス。
「はあ…はあ…はあ……」
「よくやりました…これほどの戦いは…大佐以来です」
「大佐…?赤い…彗星の……?」
「そうです…赤い彗星のシャア…私とMAVを組んでいた…」
「まぶ…!?ヒゲマンって彗星さんとMAVだったの?うっそ〜〜〜!?!?」
「昔の話ですが。マチュ君、貴方は赤い彗星に匹敵する才能の持ち主です。貴方ならきっとやれる。私には分かる」
「うれし〜〜✨こんなに褒められたことなんて今まで無かったから…!ありがとヒゲマン!」
「私からも…今までありがとう。マチュ君。」
〜出撃前夜〜
「出撃、緊張しますか?」
「んー、まあ、ちょっとはあるけどヒゲマンがいるから平気!って思ってる」
「ふ、そうでしたか」
「でも、本音言うと死ぬのは怖いかな…」
「……私も怖いです。何度戦場へ出てもそれは変わらない…」
「あんなに強いのに??」
「結局はニュータイプとは言え人だからなのでしょうね。でも私は絶対、貴方を殺させない」
「ヒゲマン…」
「貴方のやるべきことを果たすのが私のさだめであり、ニュータイプの未来なのです。生きなさい、マチュ君」
「ヒゲマン…絶対に、絶対に絶対に、死なないでよ!!絶対にだよ!!」
「……」
「ヒゲマンにはもっと…教わりたい事たくさんあるし、彗星さんの話も聞きたいし、もっと強くなりたいから!!
だーかーらっ!!約束だよっ!!!」
「約束なら、果たさなくてはいけませんね」
──
エグザベとキシリアの近衛兵に囲まれるマチュ。
「く……」
「お嬢さん、これはクランバトルじゃなく…軍事作戦なんだ…!」
ギュインッ
「!!!」
「ここは私が持たせます。行きなさい、ジークアクス!!」
「サンキュー!ヒゲマン!」
「貴方は一体…何者なんだ…?」
「私はただ…ニュータイプの未来の為に動いている…それだけです」
行きなさい、生きなさい…ジークアクス…!
私は「彼ら」の生きる未来の為なら、
幾らでも手を汚す事を、厭わない。
死をもって、その罪を償おう…。
ヒゲマンのばか!
死なないって約束したじゃん!!
マチュ…君……
だから大人は嫌いだ…!
ばか…
私は…まだ生きねばならない…か
そうだよヒゲマン!
絶対また、会うんだから!みんなと一緒に!!
貴方のようなニュータイプに会えて、良かった─
行きましょう
未来の為に──!
(完)