ちょっかい---------------
「……なぁ、イヌピー」
「ココ…?」
「それいいじゃん、どこに落ちてたんだよ」
柴大寿が東京卍會の連中とやり合っている中。ゆったりと階段に腰を下ろして身を預けていた九井は、ふっと口許を緩ませて乾が手にしている鉄パイプに視線を流してきた。
「ココも使ってみるか?」
「んー……そうだなぁ、棒術も有りかもしんねーけど……」
九井に渡した錆のない銀色が教会の仄かな明かりを吸いとる。微かに反射した暖色に端整な横顔を染めた幼馴染は、撫ぜるように長い指先を滑らせていった。
さっきまで乾がしっかりと握っていた場所に九井の手のひらが重ねられる。たったそれだけのことで揺れそうになる感情を拒むように、乾は九井から目を背けた。
「でもやっぱコレはイヌピーのが似合うだろ。オレは素手でやるからいーよ。どうせなら直接殴る方が性に合ってるっていうか、愉しいしさ」
なにかあったときに体を張るのは自分だけれど、九井も素手で乾と対等に渡り合える技量がある。無駄のない、流れるような動作。たしかに九井が鋭い突きや蹴り技で相手を翻弄するのは、乾自身も見ていて楽しかった。
「……そうか」
これを使えば拳を痛める可能性はなくなるが、九井本人の興が乗らないのなら仕方ない。幼馴染に差し出された鉄パイプを受け取ろうと乾は手を伸ばす。けれど指先が触れる直前。不意にそれを引っ込められてしまい、乾はうまく掴むことができなかった。
ん、と小さく首を傾げながらも、気のせいだろうともう一度手を伸ばす。しかし、さっきと同じように乾の手は空を切るだけだった。
「ココ……」
「ちょっと遊んだだけだろ。そんな不貞腐れんなって、イヌピー」
悪いと口にしながらも九井はくすくすと笑みを零している。明らかに自分の反応を愉しんでいる様子に視線で抗議しながら、乾は差し出された鉄パイプを今度こそぐっと握った。
けれど、受け取ろうとしたのに九井の手は離れない。強く力を込めて引っ張っても、しっかりと食い止められて引き抜くことができなかった。
「……っ」
悪戯げな光をたっぷりと宿した眼差し。さっきまで退屈さを隠しもしていなかった九井の姿はもう其処にはなかった。
「……ココ、なにしてんだよ」
「んー……」
乾の問いに応えることなく、九井はふっと口許を緩めてやわらかに微笑む。
こうして九井が戯れのようにちょっかいを出してくるのは自分に対してだけだ。乾以外の他の誰かにそれが向けられることはない。
きっと赤音が生きていたとしても、その対象にはならないだろう。姉に向けられるのは優しさだけだっただろうから……
だから、これはオレにだけ、だ――……
感傷的になりそうな心をぐっと耐えて、乾は鉄パイプから手を離す。そんなこと有り得るはずがないのに、握っていた部分から自分でもよくわからない感情が九井へと伝わってしまうことが怖かった。
「ばか、ちょっとからかっただけだろ。ほら、もう始まるから受け取れよ」
「あぁ…」
鎖で縛られたような息苦しさを誤魔化すように乾は小さく息を吐き出す。九井に、ほら、と差し出された鉄パイプを受け取って、ぐっと強く握りこんだ。
腰を下ろしていた階段からゆったりと立ち上がった九井を視界の端に捉えながら、乾は向かってくる東京卍會の連中に目を向けた。
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舞台とか行ったことなかったのですが、ココイヌのみなさんのステ感想を見てから、どーしても見たい!ってなってしまって行ってきました。
配信で一度見てたので、舞台ではココとイヌピーばっかり見てたんですが……鉄パイプをココが受け取って、それをイヌピーに返すフリして、ひょいって二回くらい引っこ抜いたとこ可愛くて、もう!
そのあとイヌピーは鉄パイプ受け取ったんですが、ココがぐって握って、イヌピーが力入れて引っ張っても離さなくて、それを二回くらいやって、イヌピーがはぁ…って嘆息したあとに「拗ねんなよ」みたいにココがイヌピーに返すとこ素敵すぎで。
ココもイヌピーと同じくらいに喧嘩できるって妄想してるので、イヌピーが鉄パイプ引っこ抜けなかったの最高でした。
ココも同じくらい喧嘩できるのに、ココのことを守るイヌピーとかいいなぁ、と。
最高すぎて捏造して、微妙文章ですがショート書いてみました。
ココもイヌピーもかっこよすぎてつらかったです。