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    キツキトウ

    描いたり、書いたりしてる人。
    「人外・異種恋愛・一般向け・アンリアル&ファンタジー・NL/BL/GL・R-18&G」等々。創作中心で活動し、「×」の関係も「+」の関係もかく。ジャンルもごちゃ。「描きたい欲・書きたい欲・作りたい欲」を消化しているだけ。

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    ● ● ●

    棲んでいる家:https://xfolio.jp/portfolio/kitukitou

    作品について:https://xfolio.jp/portfolio/kitukitou/free/96135

    絵文字箱:https://wavebox.me/wave/buon6e9zm8rkp50c/

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    キツキトウ

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    2024/3/27
    彼は誰時。

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    エブリスタ「三行から参加できる」用に新しく書いたもの。「終煙奇譚」シリーズの一つ。

    #創作
    creation
    #小説
    novel
    #怪談
    ghostStory
    ##Novel

    終煙怪奇譚:「誰そ彼、その声は、」.
    .


    『それはこっちの方がいい』
     また今日も声が聞こえた。
     幼い頃からこうだ。何かに迷う時、危機を回避する時、失敗して泣きそうになった時は宥め、子供ながらに悪さをしてしまった時は親に見つかる前に諭すように声が出てくる事もある。ポケットから。
     ただ、最終的には己で決めるので、その声に沿う事もあれば携えた小さな反抗心で沿わない事もあった。
    「お前は何にする?」
    「……そうだな」
     夕の色も瞑色に変化しつつある街中を抜けた先、訪れた店の卓上で、品書きの羅列を眺めながら通り過ぎたいつもの声をやり過ごす。
     喉が渇き、まずは茶かそれとも酒かで迷い、けれど今の状況、結局の所最後には酒をあおる事になるのだから――


    『無駄だろう』
     なぜか男とも女とも認識できない不思議な声。もしくは複合的なのだろうか。稀によく理解できない言葉を言う事もあれば、古い言葉の様な時もあり、場合によっては自身の置かれた状況や悩みに耳を傾けて解決の為の助言をしてくれる事もあった。
     これが何なのか分からない。子供の頃に一度だけ、親に声が聞こえ続ける事をぼそりと言った時もある。案の定、声の通りまともに話を聞いてはくれなかったので、それっきり周囲に言う事も無かったが。
     ただ、そうなると分かっていても、家族である自分の話をまともに聞いてはくれないのだと理解した時、感じた虚しさは今もこびり付いている。
     それ以降もそうだった。見聞きした事の話や好みのもの、考え方、そしてこの先の生き方。家族である筈の親が、真に自分へと目を向けずに表面で接しているその事を、それを子供の時分で何処か理解してしまっていた。
     自分の家族は、家族というものに希薄だったのだ。
    (……「家族の内」だとしても、必ずしも「家族」とは限らないんだな)
     ただ、それを理解して泣きそうになったとしても、それを話せる家族などいない。
    『その虚はお前だけのものだ。だが、虚は己で満たす事が出来る』
     苦笑する。
     この声の方が余程、己の事をみていそうな気がしてくるのだ。
     初めて聞いたのは何時だったんだろうな。ハッキリと覚えてはいないが、随分昔からこうなのは覚えている。それこそ親の知らぬ間に。
     自身に聞こえてくる声。
     聞こえた直後に素早くポケットを覗いてみたが、何もなかったのだ。姿なく、生活の中で着替えても、身体が成長し服を入れ替えても、移り住むようにそれは何時の間にか移動している。服を変えても懐から声が聞こえてくるのだから普段は離れる事が出来なず、それから離れるにはポケットの一切ない服を着るか、風呂に入るかだった。
     それでも生きる中で常にそうしている分けにもいかず、聞こえる時には幾度と聞こえてくるので、「そういうものなのだ」と子供ながらの柔らかさと長い付き合いの中で受け入れてしまった。それに、声に沿っても沿わなくとも特に害が無い。なのでそのまま今日に至る。聞こえてくる声は生活音や自然音のように慣れ、自身の中に溶け込んでいた。


    「酔い止め代わりにこれでも入れとけ。気を付けて帰れよ」
    『心持を手に』
     ぐらぐらと頭が揺れる。いや、実際には揺れていないのだが波に揺られるように己の中が揺れている。姿なぞ知らないその声が、波の中に落とされるとぼやけたまま沈んでいく。コートのポケットに受け取ったものを入れ、友人と別れて帰路を辿る。
     そして鍵を回して帰宅し、そのままソファに倒れ込んで眠りについてしまった。


              ✤     ✤     ✤


     彼は誰時。
     ふとカーテンの隙間から差し込む僅かな光で時間帯を察する。しかし今日は休日なのだ。だからまだ眠気に任せて瞼を閉じたっていいだろう。だが――
    「……ああ、服」
     その身動きのし辛さで気づく。コートすら自分は脱いでいない。さすがにだらしなさ過ぎる。
     身を起こしてボタンに手を掛けると、昨夜の事を思い出した。
    「そういえば飴を貰っていたな」
     友人は同僚から沢山貰ったらしく、量の多さを早く片づけたかったのかそれとも気遣いなのか、酔い止め代わりと言われ渡された飴玉。空腹を訴えそうな腹に取り敢えず入れとくかとコートのポケットに手を突っ込んだ。
    「?」
     ある筈のものを掴もうとした手はスカッと空振る。それどころか底を突き抜け手が布を通り過ぎて行った。
    「落としたのか……? 何時の間に空いて……」
     コート自体はまだまだ着れるのだから、何処かへ修繕に出せばいいか。それか、これくらいなら自分でも出来るのだろうか? 後で調べてみるのも良いだろう。
     静かな間が過ぎていく。
     手間が増えた事にはぁと息を吐くと、酔いと疲れ、そしてやるせなさにもういいかと再びごろりと横になる。一度コートを脱げば今度は皺になるとスーツまで脱ぎ捨てていただろうが、面倒くさくなってしまった。こんな事をしたらまた何か言われるだろう。……そういえば帰ってから扉の鍵は掛けたのだっけか? ……まぁいいか。
     静かすぎる間が過ぎていく。
     ああ、以前かけ忘れた時は教えてくれていたっけか。確認しに行った方がいいだろうか?
     いや、取り敢えず、もう一度寝よう。眠い。どうせ誰もこないだろうし。起きたら風呂に入って食事をして、せっかくの休日を満喫しようか。……冷蔵庫に何か入っていたか? 買い出しにも行かないといけないかもしれないな。ついでに洗濯機もまわして……
     静かすぎた間が過ぎていった。


     羅列する戯言を並べながら寝そべり、目を閉じ、とくとくと鳴り続ける奥底の鼓動を耳にして、それを共に微睡みの中へ自身を落とそうとする。
     物足りなさにまた胸が鳴った。
    「……あ、」
     さっと身に何かが駆ける。閉じていた瞼を咄嗟に開く。心に虚が空き、大事にしていたものまで消えてしまった気がした。




              - 了 -


    ----------

    エブリスタの企画「三行から参加できる」用に新しく書いたもの。お題は「ポケットの中」。

    ※ポイピクの仕様上で、拡大するとなぜか題と本文が詰まって読みづらいので、出だしに点をうっています。特に本文とは関係が無いので気にしないでください。
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