virtu,oso:記憶の檻.1「virtu,oso:記憶の檻」について
●「記憶の檻」に含まれるもの:創作GL、ファンタジー
※今後グロやR-18もあるかもしれないが今は不確定。
短編SSシリーズ。
GL想定かそれに近いお話達。世界観は現実世界・現代日本ではなく、とある世界で起きたお話。
「virtu,oso」の読み方は「ヴィルトゥオーゾ」。
○ むかーしむかしに思案した「virtu,oso」中の「見も知らぬ誰かのお話」。言う所のスピンオフ(派生)的な「自分で自分の創作を二次創作する」みたいな感覚で作ってる。ただそれも書いている内にこれも本筋の一つになるかもしれない。
この作品タイトルのみでも読める様にしているので特に気にしなくても大丈夫です。
「見も知らぬ」とは書いたものの気分次第で名前や詳細を練るかもしれない。そして続くかもしれないしそうじゃないかもしれない。気が向いたら創作しているので、何も断言出来ない。
今ある分の世界観や用語等の詳細は同じ様に文章で出すかもしれないし、今後描くなり書くなり別の何かしらの形で出すかもしれない。どうするかはまだ未定。
どうせするならば「virtu,oso」の方も新しく描き直すなりしてまとめなおしたい感じはするけれど、これ含めて他にもやりたい事が多すぎて作業の間が取れるか問題が発生している。
もし楽しんでくれた人が居たならば「ふと出会ったら楽しむ」くらいの面持ちで居て貰えるとこれ幸い。
○ 追記:名前が生えました。それと取り敢えず簡易で出せる分の人物や詳細等も付けときます。のちに変更や追加の可能性あり。
【項目 記憶の檻.1】
nota.1
nota.2
nota.3
おまけ(人物・用語)
nota.1
『楽しいね!』
降り積もっていく過去の欠片に映された彼女が、楽し気に此方へ告げる。
「たのしい……ね……」
思わず視線を下げてしまう。
応える様にこぼれたそれは憂いを含んで地に落ちていく。滲む水気が言葉を追っていく前に瞼が閉じられた。
ふっと表を上げ、足を踏み出しては憂いを振り払うため柄を握り直す。加速をつけた彼女を追いかけたのは風に揺らされた欠片達だけだった。
彼女にまた出会う為、目前に赤い花を散らせながら。
nota.2
「肉体は記憶の檻だ」
「見た事、聞いた事、感じた事。生きる中で食べた記憶達はデトリタスのように体の奥底へと降り積もり、自身を自身として作り上げていく」
「痛みを感じても、老いを携えても、激しい感情に揺さぶられたとしても、それでも私達は肉体を持つ事を望む」
「君に触れたいから」
なぜ、〝あれ〟は記憶を集めたがるのだろう?
……でも、私達も似た事をしているのだ。
獣だったとしても、魚だったとしても、植物だとしても。食物を食べ、「命を命で繋いでいる」事には変わらないのだから。
己の中にその記憶達が積もっているか分からないだけで。
それでも、私達は口にする。虐げる為の〝犠牲〟ではなく、命を繋ぐ〝糧〟として。生かしてくれた者達に感謝を示しながら食事をする。
私の〝身〟に変えて。私を私として形作る。では――
「なぜ、〝カヴェア〟は記憶を集めたがるのだろう」
nota.3
彼女が居なくなってしまった。集られ、貪られ、引き千切られながら。
消えた彼女は群がる檻達の中に染み込んだ。
彼女を喰べて取り込ん何体ものカヴェアを、また別のカヴェアが喰らったが為に彼女が今何処にいるのか分からなくなってしまった。
だから奇跡の様だった。
此処まで幾度も花を咲かせてきたのだ。
闇雲に、手がかりも霞が風に吹かれる程の情報だった。そんな中で触れた欠片が自身へ泣きそうなくらいの温かさを落としたのだ。
呆然と眺めていた意識を叩き起こし、降り積もる記憶を咄嗟に掲げた集積用の燈の中へと閉じ込める。嬉しさに浸り、泣いている暇など無い。僅かでも取り溢してはならないのだから。
幾度も撒かれた花の末、ようやく齎された欠片の中での邂逅。それが彼女との最初の再会だった。
❖ ❖ ❖
まだ復旧最中の街外れ。ぽっかりと断面が現れ、崩れかけては廃墟と成りかけている学び舎の端で膝を抱える。
(此処も取り壊されてしまうのかな)
遠めに控える街並みを見つめ、感情から目を背ける為に考えを散らす。けれどそれは無駄な事だったのかもしれない。
檻の群れで作られた厚い壁の向こうで彼女は消えた。
最後の最後まで私の名前を呼びながら果てていくその声が脳裏に焼き付いて離れない。崩し切り捨てても辿りつけない壁の向こうで、彼女は消え去った。
そして私はまだ身も知れぬ壁を切り捨て続けている。何度伸ばしてもその手を掴む事が出来ていない。
苦しくて仕方がない。
戦う事が、手がかりも無く夢遊する事が、彼女が居ない事が、消えてしまった事を自覚していくのが、手を掴んで応えられなかった事実が。
また笑顔が見たい。また話をしたい。またあの柔く包まれる温かさに触れたい。だが、彼女の肉体は含まれた記憶ごと飲み込まれてしまったのだ。
楽しさも映す景色も時間も痛みも老いも揺れる感情も、彼女と歩みたかった。肉体を捨てたくない、差し出したくない、奪われたくもない。私の肉体は自身と彼女だけのものだ。
顔を伏せ落ちそうな粒を暗闇に隠す。
その途端、傍に放られた機器がチリンと音をたてた。自分と同じように〝あれ〟を切り開いては記憶を集積している者の誰かからだろう。
他者に記憶すら奪われたまま失っていくのが嫌だ。それが嫌で仕方がないのに、今すぐにでも動きだしたいのに息を飲んでしまう。けれど――
思案する横でまたチリンと音が鳴る。
拾い上げて応答の合図を出すと、大きく呼吸をして取り込まれた辺りの温度を自身の温度に合わせていく。
ハッキリと開かれた瞳を真っすぐに前へ向かせ空を踏んだ。
何時かの君に会う為に。
おまけ(人物・用語)
○ 人物
● アルス《Ars》
カヴェアと戦う少女。ノーヴァの記憶を取り戻したくてカヴェアと戦っている。
● ノーヴァ《Nova》
カヴェアに食べられてしまった今はもう会えない少女。アルスと仲が良い。
● カヴェア《Cavea》
記憶を集めたがる檻達。
肉体を食べる事で記憶を己の中へ溜めこんでいるらしく、又、〝共食い〟もするらしい。ただ、食事をする為というよりも、記憶に固執しているような動きをしている。
〝記憶〟を集めて何になるのか。〝何か〟に成りたがっているのだろうか。誰かが嘆く感情を貪っているのだろうか。それとも一つ所に「集める」為だろうか。
或いは全部か。
○ 用語
● virtu,oso/ヴィルトオーゾ
ヴィルト〈 virt 〉とも呼ばれている。
カヴェアと対峙し、喰べられた者達の記憶と肉体をその檻から解放するのを目的としている機関。
元々は記憶の回収屋として動いていたが、燈による回収が確立し、又、人数と規模が増えたので機関として成り立たせた。それでもまだまだ人手不足気味な所がある。
第一楽団:生者を守りながら最前線でカヴェアと戦い、食べられてしまった記憶を回収しながらその記憶と肉体を檻から解放している。
第二楽団:機関内の業務や対峙器具等の手入れや管理、事象の各記録や研究・情報収集等、戦う者達を支える役目も大きく持っている。
第三楽団:カヴェアが寄りつき喰われる前に死者から記憶を回収する。良くも悪くも「死神」と揶揄される事もしばしば。
● 集積燈と結晶石
集積用の燈に集められた記憶は取りだす際には結晶化し、そしてその後は弔われる。結晶はその人を知る者が触れれば誰の石かを判別できる。
遠い昔のとある研究者が、現状をどうにかしたくて記憶の弔い方などの摸索をしていると、突然現れたとある人物が知恵を貸したらしい。鍵屋と名乗るその人物は研究者に燈や弔い方などの知恵を貸すと、鍵を取り出しては扉を生み出し何処かへ消えていったらしい。
○ 集積燈
円筒状で縦に持つ。普通の燈と言うよりも、筒が光を帯びている意匠で、蓋を開けると中には集めた記憶の結晶が入っている。
○ 結晶石
白色で明度があり、鉱物に似た姿をしている。燈から取り出されたのちは故人を思いながら焚かれる藍色の火に寄って弔われる。普通の火では焼かれないがその火は石を焼き、カヴェアを葬った時に出る欠片とは違う球形の光が浮かぶ。
研究員達の報告によると、欠片は肉体と記憶の結晶、それを弔った際に出る球形の光は記憶を含んでいるという。実際、弔った際に出る光はその者を知る者が触れると弔われた者の記憶だと判別する事が出来た。
- 了 -