十月三十一日『ハロウィン』
部屋に漂う、鼻腔を擽る香ばしい匂い。マスターである藤丸立香は深く椅子に腰掛けて、その匂いと慣れた苦い味を楽しむ。朝からこの部屋を訪れてコーヒーを運んでくる人物は変わらず一人しかいない。立香は深緑のカップを口元に運びながら、もう一つの椅子に腰掛ける人物へ視線を向けた。濃紫の外套に貴族のような派手な服と黒い鎧。緩く纏められた長い髪、その毛先は毒と称する黒炎によって染まっている。
彼は責務を果たして退去したものの、本人曰く誤算で召喚された巌窟王モンテ・クリスト。巌窟王エドモン・ダンテスの別霊基だ。永劫の復讐者故、サーヴァントの忘却呪いから外れている彼の立ち振る舞いはカルデアにいた前の彼とそう変わらない。
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