昔は良かった。
もはや歴史書でしか知ることの出来ない遠い昔、その時代では人々は今よりも生き生きと暮らしていた。
自称天才がふんぞり返り、弱者が地を這う現代とは違う。
技術が発達してない分、お互いがお互いを助け合い、本物の天才が皆を引っ張り歴史を紡いでいった黄金の時代。
…歴史至上主義者はそんなことをよく言う。
歴史書に書かれた内容など、ほんの上澄みに過ぎないというのに。
その裏では多くの人々が足掻き、地を這い、死んでいたというのに。
彼らの嘆きは歴史書に残す価値もないと判断された。
後世に伝えられなかった。
誰も知っている人が残っていないのなら、
それは存在しないのと同じことである。
この理屈だとつまり、歴史至上主義者たちの言っている内容は真実ということになるが。
あいにく、地を這う彼らのことを知っている人間がここにいる。
何の因果か、泥を啜ってでも生きようとした奴が死に、死にたくてしかたがなかった俺がこうして今も生きている。
彼らの足掻きを記そうと思う。
他にやりたいこともないから。