結婚式ごっこするやつ「病める時も健やかなる時も.........えっとあと」
「義兄さん、覚えてないの」
「うーん、結婚式は見たことないんだよ、ごめんねガイア」
「馬鹿だなあ、義兄さん」
ガイアは僕を揶揄いながらも、顔を赤くして頭に被せたテーブルクロスを顔まで被ってしまった。くすくす笑い合う声はとても心地よい。
頭にかぶっているレースのテーブルクロスは家から盗んできたものであり、アデリンが大層大事にしていたものだ。お祝い事でしか広げられないそれは子供ながらに高いものだと感じていた。
彼のためにこっそりでもとってきてよかった。そう思って勝手に満足していた。あとでアデリンからこっぴどく怒られる未来さえ知らず。
笑い合う声から沈黙が続く。流石に心配に思った僕はテーブルクロスをそっと顔から持ち上げた。
「ガイア...」
ガイアの顔は笑みから泣きそうな表情に曇っていたのだ。
僕には原因が分からず、ただただ彼の周りでオロオロしてしまった。まるで後悔しているかのような彼の瞳は暗い色を灯していく。
「...ねえ義兄さん。ずっと一緒にいてね。前に言ってくれたみたいに、俺がどんなでも一緒にいて欲しいな」
ガイアは俯き、そっとつぶやく。あたかも未来にはそうならないと確信するかのように自信がなさそうに見えた。
「ガイアは何が怖いの。僕たちはずっと一緒にいるってガイアも言ってくれたじゃないか。」
テーブルクロスを握りしめるガイアの手をそっと包む。ガイアの手は驚くほど冷たかった。何をそんなに恐れているのか、何がそんなに彼を恐れさせているのか考えはさまざまにはりめぐるが、この冷たい手を早く温めてあげたい。
「!?何をするんだよディルック!」
「何って...」
気持ちが急いだせいか、僕にはわからなかった。気がついたらガイアの手の甲にキスをしていたのだ。
ここで冷静に君の手を温めたかったから、とも言えたが義弟に言うにはなんとも恥ずかしい言葉だ。
2人の間にほんの少しの時間が流れた。
「えっと...そうだ結婚式ごっこの続きだよ!ほら騎士の任命みたいに跪いてキスされるのは女の子の憧れだって父さんが」
ごめんなさい父さん。そんなこと一言も言ってない。むしろ結婚式に手の甲にキスって我ながら辛い言い訳をしたものだと振り返る。
少し前を後悔しながらガイアを見やると、彼は笑いを我慢するように震えていた。
「ちょ...笑わないでくれよ!」
「いや、だって義兄さんが可愛くて」
ヒーヒー言いながら笑い転げるガイアにふつふつと怒りが湧く。でも繋いだ手からは段々とぬくもりを感じられて、それだけで怒りは鎮まってしまうのだ。
「もう、いいよ!馬鹿ガイア」
「ごめんて義兄さん」
怒りはおさまっているが、そうにもいっぱい食わさないとやりきれない。僕は拗ねたふりをしてガイアから顔を背けた。
「義兄さん、ディルックってば」
「......なに.........」
我ながら甘い。彼の声で名前を呼ばれるとどうにも甘やかしてしまいたくなるのだ。ガイアの声に応えて顔を見合わせる。彼は曇った顔なんてなかったように満面の笑みで僕を見据えていた。
「義兄さん、かっこよかったよ。騎士団に入るんだもんな。とても様になってた。さっきのだと俺がお嬢さんになっちまうのが癪だけど。」
「ドキドキした?」
「もちろん」
「本当かなあ」
「俺が義兄さんに嘘ついたことあるか?」
「ないけどね」
「じゃあもうすぐの義兄さんの誕生日プレゼントには俺から騎士の誓いごっこをさせてくれよ」
いい考えを思いついたとでも言うようにガイアの表情は弾んでいた。
「父さんが聞いたら怒りそうだな」
「それもそうだな、だけどこのお嬢さんになった気持ちをお前にも味合わせてやりたいんだ」
「それ本当に誕生日プレゼントかい?」
2人は笑い合う。天使のように微笑む彼らには何一つの不幸なんてなかった。
もうじきに雨が降る。