「アカンよ」「なあ、ろしょう 隣に寝てもええ?」
久方ぶりに聞いた簓の声はカサカサした瘡蓋のような、しゃがれた声であった。幾度も喉で己の声を言葉を殺したのだろうなと安易に想像がついた。
今は通夜が終わり、夜の帳が下りきった深夜帯である。一夜蝋燭の火を絶やさぬように見張りを立てなくてはならない、その灯火の番を盧笙の家族にほんのひと時譲ってもらったのだ。
俺の後ろで黙ったまま無表情で似合わない真っ黒な背広に着せられ、小さく頼りなく佇む簓の様相に流石に思う事があったのだろう。盧笙によく似た容姿の父親が「私たちも休みます。その間お願い出来ますか」と言ってくれたのだ。
簓も俺も式は後方の席で黙ってみていた。当たり前だ、どんなに会って、笑い合っていたとしても俺達は盧笙の家族では無かった。そして2人が「そう言う関係」であった事を誰も知らないのだ。何となく察せられたが、俺は何も聞かなかったし2人も言わなかった。
2024