相棒も恩返しもいらないから 決意を身に纏い金の無心に訪れた彼に僕は、つとめて平静を装い、どうして、と尋ねると、強くなりたいんです、必ず返しますから、と告げられた。僕は「ああ、そう」と内心ため息をつき、餞別のつもりでそれなりの額を包んで送り出した。
薬師の僕は山の麓の村外れに工房を構え、たまに近くの若者たちに素材類を採る際の補助を頼んでいる。当然報酬も出してるが、彼だけは頑なに拒み、助手になりたい、と駄々をこねるのが毎度のことになっていた。
そもそも彼は他所からの冒険者だ。きっと飽きたのだと思うことにしてかれこれ十年、すっかり忘れた頃に、彼は戻ってきた。何故か龍になって。
なお、貸した金が返ってくる気配は無い。
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