バーベナ本の原稿確認用「というわけで、ご期待にお応えして⭐︎ デラックスフルーツサンデーと季節の触手サラダだよぉ〜〜〜⭐︎」
相談相手の人選を間違えてはいないだろうか──そんなアマーリエからの視線を受け流し、クルールは満面の笑みで裸エプロンの男性にお礼を言う。
「ありがとうございま〜す!流石アルカード先輩、店に出てきてるやつみたい!クオリティ高え〜!」
「クルールさん」
「ほら、ラニウス!いっぺー食えよ!」
「クルールさんあの」
「あっ金なら気にするなよ、触手委員会のお給料から抜いてもらうからさ」
「いやいやぁ、趣味が高じてるだけだからタダでもいいんだよ?クルール君♡」
その高じた結果が「裸エプロンのシェフによる触手料理」なのはモーンストロム校の尊厳的にもかなり問題がある気がするが、学内変人ランキング上位勢の彼のすることなので真面目に考えた方が負けである。
それに、作ってもらった以上は食べ切るのが礼儀というものだろう。幸いにもパフェとサラダのサラダ部分は普通に美味しそうなので、とりあえず思考を放棄したアマーリエは口をつけてみることにした。
「……おいしいです…」
「んふふ、よかったぁ〜♡ 触手販売以外に新しいこと始めてみようって話してたんだけど、そう言ってもらえたなら安心できるね♡」
「あたらしいこと」
思考停止しながら復唱すると、クルールが身を乗り出して答えてくれた。
「触手委員会発案のカフェ兼相談所みたいなやつよ! 食堂を借りて料理食べながらお悩み相談できるコーナー!金も生徒の弱みも握れて最高なんだわ」
「かえります」
「まあまあまあ!ほら!アルカード先輩が相談聞いてくれるんだぜ!!な!!」
「えんりょします……かわりに悩みの多そうなクルア先輩のお話を聞いてさしあげたらどうでしょうか……」
「もちろんクルアにも声かけたんだよ?でも『今貴様らを消せば俺の悩みも消える』って怒り始めちゃってお話しできなかったんだぁ♡」
くすくすと笑うアルカードを横目に、アマーリエは黙々と料理を食べ進める。パフェのひんやりしたバニラアイスが美味しい。横で交わされる2人の会話となぜかトッピングされた触手さえなければ純粋に楽しめるレベルのクオリティだ。ひょいひょいと機械的に口に運び続けると、あっという間に料理はなくなってしまった。
「……ごちそうさまでした」
「わぁ、意外と食べ終わるの早いねえ!育ち盛り、いいこいいこ〜❤️」
「もっとだべりながらゆっくり食べるもんだぜ!」
……と言われてもこの流れで、このメンツでなかなか相談する気にはなれない。とりあえずいち早くこの場から退散したい一心で食器を片付けると、後ろから声をかけられる。
「あれ〜〜?てっきりお悩み相談しにきたのかと思ったんだけどなあ⭐︎」
「そうそう!それも恋愛相談ですって、アルカード先輩!」
きゃっきゃっと女子の如く背後で戯れる2人。その声を聞きながらそそくさと退出しようとする………が、次の瞬間、細長い何かがアマーリエの腕に巻き付いたことで引き留められてしまった。見るとそれは触手、もといデュナミス魔法"枯れ落ちた白薔薇”………のコピーである。
「な!!な!!帰るの早いって!!せっかく先輩いるんだから話聞いてもらおうぜ!!ほらアルカード先輩絶対経験豊富だし参考になるって〜!!」
「ええ〜〜面白そう❤️ お話なら聞くよ〜〜〜?」
頬杖をついて聞く気満々の2人に、片腕を囚われたアマーリエは渋々席に戻った。別にこの触手を掴んでクルールを振り回し2人揃って窓から強制退場させてもいいのだが、2人とも善意が垣間見えるあたり暴力に走りづらい。アマーリエは観念して、先ほどクルールに打ち明けた悩みを共有することにした。
◆
「……ということなんですけども」
「えぇ〜〜別にキープくんでも良くなぁい?」
「ですよね!?やっぱそう思いますよね!?でもラニウスはそれは嫌!だそうです!」
「うふふ。クルアといいアマーリエちゃんといい、緑寮監督生って2人ともお硬めだよねえ〜〜❤️」
揶揄うように笑われて、むぐぐと口ごもりそうになる。しかし意地を張っても仕方がないので、次の言葉を紡いだ。
「私、どうすればいいでしょうか。ご縁とかはなくてもいいので、その先輩に謝りたいんです……」
「合意の上で戦った結果なら謝らなくてもいいんじゃなぁい?でも戦い抜きのお話はした方がいいと思うよ~⭐︎ その子捕まえる用の触手貸そっかぁ?」
「今ならお値段5%オフだぜ、友達5人に紹介すると更に」
「いりません………」
隙あらば営業をふっかけてくるクルールを押しのけると、アマーリエは続ける。
「私、会ってどういうことを話せばいいんでしょうか……謝ることしか考えられなくて」
「あは、それは僕じゃなくて君が考えたほうが絶対楽しいよぉ〜? あと僕が教えたらねえ、たぶん僕教唆犯として通報されちゃう❤️」
「それこそクルア先輩あたりが『寮内に変態の慣習を持ち込むな!!』って飛び込んでくる結果になるのが想像つきますね」
教唆犯も何も今の見た目だけで通報案件なのでは?という本音を飲み込み、アマーリエはそれまでの思考を整理してみた。戦いばかりで何か話しそびれたことはなかったか?──もう一度振り返ると、そういえば言いたかったことがたくさんあったような気がする。
「……わかり、ました。もう一度ちゃんと先輩とお話をしてきます」
「うんうん、えらいえら〜い⭐︎ お守りの触手いるぅ?♡」
「いりません。ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げて礼を告げると、アマーリエは立ち上がった。向かう先は彼のいる緑寮である。
「え!ラニウスもう先輩んとこ行くの!?置いてくなよー!!」
背後からガタガタっと席を立つ音がする。どうやらまだついてくるらしいクルールの声に混じって、「頑張ってねぇ〜⭐︎」と間延びた声援が聞こえた。
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