「ルシファー」
彼の凪いだ声が彼女の名を呼んだ。
「いくつか君に訊きたいことがあるのだが」
「............」
「まず、君は私たちのことをどう思っているのかね」
「............」
「君は」
なおも彼女が黙っていると、彼の声がぐっと低く、厳しくなった。
「そうやって黙っていれば、周りが君の意志を汲んでくれるものと考えているのかもしれないが」
踏み込んだ言葉にも、ルシファーはベルゼブブを見返すのみ。その無感動な冷え切った視線を、彼は真っ向から受け止めた。カエサルと彼が対峙していたときに感じた不穏さと、よく似た雰囲気が張りつめていく。ゼフォンはその理由にふと思い当たった。何をしでかすか読めないカエサルや、圧倒的な力の持ち主であるルシファーの苛立ちや怒りは元より、パーティのバランサーの役目を担うベルゼブブが彼自身の感情を剥き出しにしてしまうと、収拾がつかなくなりそうなのが底知れず恐ろしいのだった。
「私たちのことを察しのいい駒か何かだと考えているのか、そうでないのか、はっきりさせたまえ」
「......っ、止せ......」
彼の鋭すぎる問いかけに、ゼフォンは堪らず制止しようとする。それをさらに遮るようにしてルシファーが言った。
「死にたいのか?」
ゼフォンがかつてベルゼブブに投げかけたものとそっくり同じ文句である。それがルシファーの口から、こうまで非情な響きで発されるとは思いもしなかった。脚と腹に光の剣が突き立てられたときさながらの痛みを、ゼフォンは、はっきりと感じた。
「いいや。私は、誰にも殺されるつもりはない」
過去からと現在への恐怖によろめきかけた彼女の体を手を差し伸べて支えながら、ベルゼブブは同じような調子で返した。
「だが、どうして君に質問しただけで、私は喉元に死を突きつけられなくてはいけないのかも、ご説明願いたいな」