付き合った人数を当てるまで出られない部屋▽○○しないと出られない部屋シリーズその②
▽王様の過去を適当に捏造しているような気がします
▽ぐだキャスギル
「――またこのパターンですか」
「雑種貴様よもや呪われているのではあるまいな? いや、呪いの気配はせんか…」
二人がいるのは真っ白な部屋である。窓もなければ扉もなく、明かりもないのに明るい、変な部屋である。部屋には見覚えがあった。以前もここに閉じ込められた。二度目である。
「えっと、今回は……」
前回は看板に脱出方法が書かれていた。ぐるりと室内を見回す。今回は――あった。
「えっと、『一緒に閉じ込められている相手の、過去付き合った人数を当てるまで出られない部屋』?」
何だこれは。前回より更にわけがわからなくなっている。しかし前回のことを考えれば、この看板に書かれてあることをクリアすれば出られる。だから今回は付き合った人数を当てられれば出られるのだろう。付き合った人数、付き合った人数……
「百人、とか?」
適当に言ってみたが部屋のどこも開く気配はない。もしかしてそれ以上か。
「百十……百二十……いや百五十だ!」
開かない。これでも違うのか。一ずつ数を増やしていくしかないのか。それはちょっと骨が折れる。
「雑種、貴様先程から何を喚いているのだ」
ギルガメッシュは涼しい顔をして立っている。人が本気で当てにいっているというのに、なんとも涼しい顔である。綺麗なところはいつも通りだ。改めなくとも立香はギルガメッシュのを見るたび美しい人だと思う。この美しい人が、あらゆる快楽を貪ってきたであろうこの王が、今まで付き合ってきた人数など立香には計り知れない。
「王様の付き合った人数を当てようとしてるんですよ」
キリがいい数字とも限らない。こうなったらやはり一つずつ地道に潰していくしかない、と思ったのだが。
「付き合った人数、だと? 付き合ったとはどういう意味なのだ」
「え? 意味? 恋人同士……恋仲になった相手ってことだと思いますけど」
「それで先程から何やら数字を喚いておったのか」
成る程、と納得行った様子でギルガメッシュは腕を組む。その片手を顎に当て、暫し思案気な表情を浮かべる。その顔も美しいが、今はそんな場合ではない。何かヒントになるようなことを言ってくれればいいのだが。そして顔を上げたギルガメッシュは首を傾げ、
「であるならば、我は過去誰とも付き合ってはいないな。我が誰かのものになるなど――」
「え、じゃあ王様、付き合ったのオレだけですか?」
「な」
言葉を継ぎかけたギルガメッシュが固まる。立香に悪気は勿論ない。だが、ヒトのモノになどならぬという王の矜持には見事に刺さった。しかし、立香が告白をし、ギルガメッシュが受けたことは確かだ。以来立香はギルガメッシュとは恋仲である、と認識しているのだが。
「まさか付き合ってなかったんですか? オレ達」
「なっ……いや、貴様は我のモノであろう? 我が貴様のものになるなど千年早いわ」
「それはそうですけど。ギルガメッシュ王、オレのこと嫌いだったんですか? オレ、てっきりギルガメッシュ王もオレのこと好きなんだって思ってたんですけど……」
うぐ、とギルガメッシュが答えに詰まる。立香の真っ直ぐな深い蒼にギルガメッシュはとかく弱い。見つめられれば普段張っている見栄や矜持が根こそぎ剥ぎ取られていくように感じられる。同時にその目を好ましいものとしても見ていたが、今は何故か居心地が悪い。
ギルガメッシュは真剣な表情の立香から僅かに視線をそらし、
「……好いておらねばわざわざカルデアになど来ぬわ。ばかもの」
か、と耳まで熱を持ったギルガメッシュの顔を、立香は笑顔で見つめる。普段滅多に言われないし、訊くこともなかったがやはり同じ気持ちだったことは素直に嬉しい。そしてそれが彼の長い人生で初めてだったことも、今回のことで判明した。長い人生、彼なら幾らでも選べただろうに、ギルガメッシュが選んだのは立香ただ一人ということになる。それはものすごく、嬉しい。嬉しい以上にこの感情を表現する言葉があればいいのだが。
「王様の初めてはオレだったんですね」
「はじ……気色悪いことを言うでないわ。そう言う貴様こそ我が初めてなのであろう? 立香」
まだほんのり赤い顔でドヤ顔をするギルガメッシュに立香は素直に頷く。
「オレの初めては全部王様ですよ。こんなに誰かを好きになったのも、触れたいと思ったのも、欲しいと思ったのも、初めてです」
真っ直ぐ見つめたまま笑って立香は言う。臆することない立香にギルガメッシュの方が面食らって、何も言えずぽかんと口を開けていた。そのギルガメッシュの手を、立香は両手で捕らえる。体躯に似合うすらりとした手を、ぐ、と握り込んで立香は微笑う。
「ギルガメッシュ王、ずっと一緒にいましょうね。もっともっと貴方としたいことや見たいものがあるんです」
「立香、」
ずっと、は無理だ、とは言えずに言葉を飲み込む。言わずとも立香にも解っていることだ。それでもなお、望んでしまうのは欲深い人間の業に近い。
「……ハ。貴様の短い人生など、我にとっては一刻よ」
だから別れが来るその時まで共にいよう。たとえ道の途中で別れがあるのだとしても、立香ならば乗り越えられる。乗り越えた先にはギルガメッシュが待っている。いつでも待つのはギルガメッシュで、立香は迎えに行く側なのだ。
「……あ、開きましたね、扉」
立香の声に視線の先へ目をやれば、何もなかった部屋には四角い出口が出来上がっていた。