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    えんどう

    @usleeepy

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    えんどう

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    ▽1部終了〜2部前の話

    ##1000-3000文字

    退去の日①▽一部終了後、全鯖を退去させた時の話
    ▽王様が出てきません
    ▽ぐだキャスギル






     どんちゃん騒ぎの後、まだ宴会の余韻どころか二次会三次会が開催されるカルデアで、ひとりひとりに説明して回った。
     カルデアは、明日、事実上解体される。名目は査察だし、あの事故で失われた人員の補充、凍結中のAチームの治療など、必要な対応も行われるが、人理焼却の破却まで駆け抜けたカルデアはここで終わりだ。それは喜ばしいことであるし、自分の役目がようやく終わったということでもあるし、終わったということは元の生活に戻れるということ、なのだが。
     立香から退去命令の説明を受けたサーヴァントの中には、退去を渋る者もいた。マスターを、立香を残して行けないと、嬉しくなることを言ってくれる者もいた。けれど、退去命令に従わなければ査問会からいらぬ難癖をつけられる要因になってしまうことは想像に難くない。ここまで共に戦ってくれたサーヴァントの皆をそんな醜い争いに巻き込みたくないし、スタッフの皆が心を砕いて立香を元の生活に戻そうとしてくれているのだからそれを無駄にするわけにはいかない。説明と、ありがとうと大丈夫を何度繰り返したか解らない。また逢えるから、なんて噓か本当か解らない言葉を口にしたりもした。
     サーヴァント達への説明役は自分の役目だと思って当然のように引き受けたけれど、それでもまる一日を説得に費やせばさすがに疲労は感じた。当たり前に感じる悲しさや寂しさも、心臓にのしかかって重い。ようやく自室へ戻る頃にはすっかり夜になっていた。誰もいない、静かすぎる通路をひとりで歩く。去年の今頃は、なんて考えてしまうと更に心臓が重くなる気がした。
     自室には、最後のひとりがいる。
     なんて言おうか、一日中時間があればそのことばかり考えた。「今までありがとうございました」「オレはもう大丈夫です」「もう心配しないでください」「お元気で」「また逢いましょう」「これを最後にしたりなんかしませんから」「これからもずっと大好きです」──ちゃんと笑えるだろうか。笑って、あの人を見送れるだろうか。嘘と咎められはしないだろうか。最後に、あのうつくしい手をとって、抱きしめて、キスのひとつくらいさせてくれるだろうか。最後に、最後に、最後に、最後に、最後に、。
     カードキーを通してセキュリティを解除する。あの人好みに造り変えられた部屋も片づけなくては。何かひとつくらい、持って行けるものが残るだろうか。
    「…………………………………………………………………………………………は?」
     目を疑って瞬きをする。が、何度目を開けたところで変わらない。ベッドは天蓋から垂れる紗幕で覆われ、床には踏むのがもったいないような滑らかな絨毯が敷かれ、やわらかな照明の灯りを反射して鈍く輝く金の調度品で統一されていた室内には、何も残っていなかった。
     がらんとして冷えきった静かな部屋。明かりをつける気にもならなかった。残されているのは元々備えられていた質素なベッドに、ガラステーブル、観葉植物、あと細々した数少ない日用品。最初に見た時と同じ、色気も味気も何もない部屋がそこにあった。
     もちろん、人の姿などどこにもない。
    (千里眼か……)
     査察が入ることも退去命令が下ることも先に視ていたのか。いつから、と考えると思考が深みに嵌りそうで意識的に思考の外へ追いやる。最後、という声が耳に残っていた。
    (なんにも残さず還りやがった)
     昨夜はあんなにはしゃいでいたのに、挨拶もなく、逢うこともなく、別れを惜しむ間もなく行ってしまったのか。
     ぽつんと置かれているベッドに、倒れ込むように寝転がる。身体を受け止めるのはあの、羽毛をしこたま詰めたようなやわらかい掛布団じゃなく、硬すぎはしないけれど包まれる感覚はないマットレスの弾力。四方を囲む紗幕も、埋もれそうな枕も、あの人好みの何もかもがなかったことにされていた。
    「………………マジかぁ……」
     深い深い溜め息が出る。まさか何もないなんて。まさか逢うこともなく還ってしまうなんて。まさかだろう、こんなの。だってあんなに、あんなに一緒にいたのに。何もないなんて予想外にも程がある。
     還る前に嘘のひとつくらい聞いてくれてもよかったんじゃないだろうか。何か一言くらい、言葉を交わしてもよかったんじゃないだろうか。ちょっとくらい、惜しんでくれてもよかったんじゃないだろうか。最後に、抱きしめるくらい、許してくれてもよかったんじゃないだろうか。だってこれで最後だ。最後だったのに。最後、なのに。もう、逢うことなんて──
    「……王様のばーかばーか」
     とんでもない暴言を吐いても、反応はない。もう誰もいない。静かすぎる十二月二十五日の一人寝は、慣れないベッドと枕のせいでなかなか寝つけなかった。
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