ぐだおが呪いか何かで喋ると口から石が出るようになった話▽マロお題
▽ぐだおが呪いか何かで喋ると口から石が出ます
▽三日後に治る
▽ぐだキャスギル
「王様、そんな顔しないでください」
いったいどんな顔をしていると言うのか。生意気にも気遣わしげな表情を浮かべる立香に手を握られ、ギルガメッシュは返事もせず立香を睨めつける。
「貴様、我が不在の時は気を抜くなと――いや、戦場では常に気を抜くなと常より言っているだろう」
「すみません、でもこの通り無事なので」
「どこが無事だばかもの!」
ぼふっと立香を覆う布団へ手を叩きつければ、白い布の上へ散らばっていた色とりどりの石がキラキラと砕けて散る。立香は苦笑いして、口を拭う。その検査着の袖から、またぽろりと斑に模様の入った鮮やかな水色の石が落ちた。
「妙な呪などかけられおって……」
「痛くも苦しくもないので、大丈夫ですよ」
苦々しい声のギルガメッシュと対照的に軽く言って笑う立香の口から、ぽろぽろとまた明るい色の石が幾つも落ちて、白い布の上で転がるものと砕けるものに別れる。ギルガメッシュがそれらを手で払えば、触れる前に粉々に砕けて塵も残らない。何かの呪術による、実体のない宝石。どこぞの駄女神が見れば卒倒しそうな消滅ぶりだ。立香が喋る度にキラキラと零れて落ちるだけの、価値のない石ころ。だけ、なら良いのだが、詳しい検査をしてみないことには解らない。その検査も、立香の体調を考え明日に延期されている。呪の他にも、戦闘による外傷を負っていたし、体力の問題もある。簡易の検査では僅かな魔力反応以外の異常は見当たらなかった。一先ず今すぐ命に関わるということはないだろう、と言うのが大凡の見解だった。しかし、今夜は医務室で一夜を明かすことになる。
「――でも、よかった」
「何がだ」
何も良くないだろう。怪我を負い、呪いまでかけられて。血まみれの立香が医務室に運び込まれた時の心臓の冷たさが忘れられない。
「また、王様に逢えてよかった」
そう言って、へら、といつものように笑う。全く何事もなかったかのように。その唇からまた石が落ちる。淡い紅色をした小さな石がぼろぼろと。
「……当然だ。勝手に死ぬなど我が赦しておらんからな」
「――そうですね。……オレは王様を遺して勝手に死んだりしません」
溟海の瞳を翳らせた立香の口からぽろりと透明な黒い石が落ち、黒い靄のように空中で霧散した。これは……藪蛇だったか。大方あの時のことでも思い出しているのだろう。立香は未だにジグラットでのことを気にしている。必要なことだったと理解していても、守れなかった命に変わりないのだろう。呆れた愚直さだ。ぐ、と力が込められた手を見下ろして溜息をつく。しかし、あの心臓の冷たさを知ってしまった今では、咎める気は、少ししか起こらなかった。
「ならばもう此度のような無様を晒す真似は控えることだな」
「善処します。……でもオレはやっぱり、何度でも手を伸ばしますよ」
「そうであろうな。貴様のことだ。その莫迦は死んでも治らんだろうよ」
笑い事ではないのだが、立香はからりと笑う。その声は薄く緑がかった青い石に変わった。
「オレはずっとオレですよ。何度だって手を伸ばしますから」
「そうか。であれば、我から離れんことだな」
「王様?」
「貴様は我の小間使いであろう 小間使いが側を離れては役目が果たせんからな」
立香は、ふ、と笑って返事をする。その口から見覚えのある青い石が零れて落ち、砕けて消えた。