王様の頭に花が咲く話▽診断メーカーお題
▽王様の頭に花が咲きます
▽三日後に治る
▽ぐだキャスギル
ギルガメッシュに花が咲いた。比喩ではなく、本当に花が咲いたのだ。しかも頭に。花は日によってどころか時間帯によっても変わり、毎日毎時間様々な花で見る者の目を楽しませてくれていた。まあ、当然本人は気に入らないようだったが。
その花は、特に痛覚や感覚を汚染していることはないらしく、むしっても痛みは特にないと言う。ただ、むしってもむしってもしばらくするとまた生えてきては花を咲かせるから、むしるだけ徒労である。明らかな異常事態だが、精密検査をしても身体のどこにも呪術などの痕跡はなく、霊基にも特に問題は見受けられなかったらしい。問題だらけだ、とぼやくのを宥めたことは記憶に新しい。原因も解らなければ異常として上がってくるデータもなく、これでは打つ手がない。なので、仕方なくそのまま様子を見るしかなかった。異常があればすぐに報告すると、何より本人が珍しく率先してその提案を飲んだ。あまり自分の手のうちを曝け出すことを是としないギルガメッシュも、流石にこれに異は唱えなかった。
それがもうかれこれ一週間前。つまり、花が咲くこと以外の異常がないまま、一週間。最初の数日は憤慨していた彼も、もうさすがに一週間めにもなると諦めがついたのか、頭に花を咲かせたまま普通に部屋で寛いだり、食堂にいたり、管制室でスタッフから仕事を奪ったりしていた。
今朝は鮮やかなピンク色の花びらが五枚ほどある、掌に収まるくらいの小さな花がもっさり咲いていたように記憶している。立香には花の名前はほとんど解らないが、綺麗だなあ、とは思う。今朝のは綺麗だし、どこなく可愛らしくもあった。ギルガメッシュの、美しい金の髪に、淡い桃色がよく似合っていた。
昼間、ギルガメッシュを見かけたスタッフによると、緑のクローバーとその花、白いシロッメクサが冠の代わりのように金髪を飾っていたと言う。同じくそれを目撃したナーサリー・ライム達幼女組も、すごいわ!冠だわ!綺麗だわ!とはしゃぎながら報告してくれた。
そして夜、いま目の前にいるギルガメッシュの頭には、真っ白な肉厚の花びらが何重にもなった大きな花がひとつ咲いている。見たことがある気がしたが、何と言う花だったろう。加えて、その花はとてもいい匂いまでさせている。
「今夜はいい匂いですね、王様」
「たわけ。我はいつでも芳しい香気に満ちておるわ。……が、確かに今宵の花は悪くない」
諦めたとは言え不機嫌な日が増えたギルガメッシュも、今夜は上機嫌であるらしい。側頭部のやや上に咲いたその花は、見た目も匂いも、このうつくしい王を飾っているようだった。
その花に誘われるように覆い被されば、匂いは一層強く感じられる。鼻の奥にまで届く濃く甘い香り。ギルガメッシュが元々使っている香水(ではないかもしれないが、立香は詳しくないので香水だと思っている)の匂いを掻き消してしまうのは少し惜しくもあるが、たまには違うものもいいのかもしれない。
すん、と鼻を鳴らして、立香はそのまま、晒されたしろい首筋に唇を寄せる。と、彼本来の匂いと花の匂いが濃く混ざり、くらりと眩暈がした。
「、立香……」
甘い花の匂いと、熱を孕んだ甘い声。身体を起こして見下ろせば、皮膚の下に流れる血が透けたような瞳に、ちらちらと炎が揺れるのが見えた気がした。見上げてくる視線は濡れていて、もう一度名前を呼ぶ声は蕩けるように熱い。脳の芯を痺れさせるような甘い匂いとその熱に浮かされるように、仄かに色づいた唇にくちづけた。