パシャッとするやつ▽ぐだおが王様の写真を撮る話です
▽ぐだキャスギル
カシャ、という聞き慣れない音がしてギルガメッシュが顔を上げれば、もう一度その音がした。音の出処はすぐ傍にある。見ればベッドの側に膝立ちで、立香が何やら四角いものを構えていた。長方形の真ん中に筒があり、ガラスが嵌めこまれているそれは、例のアレだろう。カルデアに来て以来、何度か他の者が使用しているところを見た。ギルガメッシュ自身は一度もそれに触れた事はない。が、何をする物かは解っている。
「貴様、いま何をした?」
「王様がそこにいたので、パシャッとしたんです」
「それは……何がしかの我の権利を侵害するものであろう」
「まあまあ。もう一枚、いいですか?」
良いとも悪いとも言う前に立香はその四角いものを見ながらカシャと音を立てる。記録を撮るものである事は解っているが、何故ギルガメッシュを撮っているのかというところが問題だ。
「何がしたいのだ貴様は……」
呆れ混じりに問えば立香はにこりと笑う。パシャッとしたものをポケットへしまい、隣へ腰を下ろした。
「残しておきたいだけですよ、王様の事。…………いつか、」
そこで立香は一度言葉を切る。蒼い眼を伏せ、言い難いことを言おうとしているようだった。
「いつか……すべてが終われば、オレは元の生活に戻りますから。その時のために、残しておきたいんです」
それは別れが来ることを前提とした言葉だった。いつか必ず訪れるその未来に、ギルガメッシュは存在する事ができない事は、最初から解りきった事である。
「随分感傷的だな。貴様にそんな繊細さがあったとは知らなんだぞ」
「オレだってたまには感傷的になりますよ。オレを何だと思ってるんですか」
「底抜けの阿呆」
う、と立香は唸ってから、吐く息とともに笑う。ギルガメッシュもそれにつられてふと微笑う。立香が残しておきたいデータも、退館の日にはすべて消去される。このカルデアであった事、立香が経験した事は一切合財、外へ漏らしてはならない。魔術協会とやらは別だが、その話は今はどうでもよい。
立香に与えられている端末も、その道具も、持ち出せない事は立香も理解しているはずだ。それでも立香は残しておきたいと言う。なんと愚かしい事か。それを感傷と言わずして何と言おう。いつか立香はギルガメッシュのいない世界を生きる。それは、良い未来である筈だ。
「……そのようなもので見ずとも、その目に焼きっけておけばよかろう」
誘うつもりでつと手を撫でれば困ったように笑う。けれど拒みはしない。せいぜい今のうちに刻みつけておく事だ。立香にも、――ギルガメッシュにも。
(立香の感傷が伝染ったか)
くちづけを交わしながら立香を抱き寄せ、ベッドへもつれ込む。そうして、その輝かしい未来をこの眼で見れない事を、少し、ほんの少し、惜しいと思った。