ひとりでできないもん▽ぐだおは後半まで留守
▽ぐだおがいないと寝つけなくなった王様の話
▽ぐだキャスギル
薄暗い室内にひとり、やわらかな布を敷き詰めた寝台に仰向けに横たわるギルガメッシュは、豪奢で緻密な細工の施された天蓋の裏側を眺めていた。
時刻は深夜。常ならばとうに眠りについている時間だった。否、先程からギルガメッシュは何度も眠ろうとしているし、実際意識が喪失する時間もあった。しかし、寝ついてもすぐに目が覚めてしまう。時計を見てもよくて一時間、酷い時は十分も経っていない。これでは仮眠だ。こうも何度も目が覚めれば流石に眠りにつくのも段々と難しくなってくる。むしろこんなぶつ切りでは、眠ろうとするだけ逆に疲れてしまう。これはもう無理に寝ようとしない方がいいだろうと結論づけて溜め息混じりに寝返りを打つ。
一人寝のベッドが、いつもよりやけに広く感じられるのは、ひとりだからだろう。隣に立香はいない。ギルガメッシュがいくら己の心をそう簡単に表さない――素直ではないとはいえ、気づいてはいるのだ。立香がいない。そのせいで上手く眠れない。解っている。実に単純な構図だ。考えるまでもない。
一人寝は、何も今日が初めてというわけではない。立香のいない室内はいつも、静寂に満ち、広く感じられた。すやすやと安らかに眠る立香の、眠気を誘う寝息も聞こえなければ、毛布を奪われる心配もない。変な寝言を聞かされることも、身動きが取れないほど抱き締められることもない。穏やかな夜になるはずだというのに。それなのに、いつも。
枕に半分顔を埋めたギルガメッシュは深く呼吸する。布に染みついた立香の匂いがした。嗅ぎ慣れた、立香の匂い。
「りつか、……」
つい口をついた、布に篭った声。返事はない。立香は今、特異点の修正に向かっている。戻るまで、もしくは現地へ喚び出されるまで、ギルガメッシュはただ待つだけだ。いつものことだ。そう。いつものこと。待つのも慣れている。……だのに、いつも上手く眠れない。
ごろりと仰向けに寝返りを打って、再び暗い天蓋を見上げる。
「疾く戻らぬか、…………ばかもの」
自分らしくない酷くか細い声に、溜め息混じりに苦笑して、ギルガメッシュは目を閉じた。こうすれば、瞼の裏に記憶を映しやすいのだ。映し出す記憶は、当然――――
❊❊❊
「――王様! ただいま戻りました!」
開いた扉から勢い良く入ってくる立香を見留め、ベッドに腰掛けていたギルガメッシュは唇の端を上げる。
「遅かったではないか。よもやあの程度の相手に手こずったとは言わせんぞ?」
「これでも急いだんですよ……。……早く王様に……ギルガメッシュ王に逢いたくて」
幼い顔に疲労を色濃く残した立香が、それでもいつものように笑みを浮かべ、手を伸べてくる。
その手を取ることに、もう何の障害もない。
どことなく覚束ない足取りで、ギルガメッシュへ近づいてくる立香の手を引けば、ふらりと傾いだ立香が目を大きく開いて「あ」と驚いたような声を上げる。それを受け止めながら、雪崩れるようにベッドを軋ませてふたり倒れ込む。跳ねた身体を抱き留め、ギルガメッシュは胸に溜まった息を吐く。何日分になるだろうか。これは。この身体の中の錘、澱みは。吐き切った息を吸うと、布越しではない立香の匂いがした。
「……これで漸く眠れるわ、ばかもの」
「え?」
ギルガメッシュの言葉の意味が解りかねて疑問符を浮かべる立香に、ギルガメッシュは緩く微笑い、瞬く蒼色を眇めた眼で見つめながら、ねだるようにくちづけた。