新年あけましておめでとうございます。▽年賀状出したりもらったりしてるぐだおとそれが気になる王様の話
▽ぐだキャスギル
雑種は我の物なのだから、雑種の物も我のものであろう?というジャイアニズムにより、立香の自室を塒にしているギルガメッシュは、立香が先程から真剣に紙面に向かっている背中を眺めていた。本日の種火集めが終わり、自室に戻ってきた立香は大小の紙束を持っており、机にそれらを広げては小さい方と大きい方をずっと見比べているのだ。ギルガメッシュに向けられたのは、部屋へ戻ってきた最初の「ただいま」という言葉のみで、後はずっと紙を見ている。
「貴様、先程から何をしているのだ」
「んー、当選ハガキがないかと思って」
「とうせんはがき…?」
聞いたことのない言葉をそのまま繰り返してみるが、立香はギルガメッシュの疑問に気づいた様子もなく、紙面から目を逸らそうともしない。それが何故だかギルガメッシュの神経を逆撫でした。この我が言葉をかけてやっているのに、振り向きもしないとは何事か。ギルガメッシュはベッドから起き上がり、立香の側まで歩き、おもむろに立香の耳を遠慮なしに引っ張り上げた。鋭い黄金をまとった側の手でないことはささやかな手加減だろうか。
「いだだだだだ!? なん、なんですかギルガメッシュ王!」
「貴様先程から気もそぞろではないか! 我が語りかけているというのに不敬であろう!」
「いだだだだだだまずは離してください王様! 耳が! 耳が!」
喚く立香の手からバサバサと葉書が落ちて床に広がり散乱した。それを見下ろして少し気が晴れたように思えたギルガメッシュは立香の耳を解放してやる。耳がちぎれる前に解放された立香は引っ張られていた耳を押さえ、そこで漸くギルガメッシュを仰いだ。
「王様ひどい……これ、年賀状です。新年を迎えた時に送り合う挨拶状で、こっちは新聞。ニュースとか載ってる雑誌みたいなものですね。で、この年賀状のここの数字がこの新聞に載ってたら、何かもらえるっていうくじみたいなものがあって……」
床から葉書を拾い上げた立香が指で示すものを腕組みをして見下ろしていたギルガメッシュは、訊ねておいて然程興味はなさそうだった。そんな話が聞きたかった訳ではないのだ。その行動の原因になっている感情に、立香もギルガメッシュも気づいていない。
「ギルガメッシュ王も一緒に見ます?」
余り気乗りはしないが、立香に手を引かれてギルガメッシュは渋々ベッドへ戻る。先に腰を下ろした立香の隣へ座るよう促され、並んで腰掛けた。
「ここのみんなも面白がって結構年賀状くれたんですけど、なかなか当たらないもんなんですよね、こういうの」
そう言う立香の持つ葉書には、日本語や日本語らしきもの、英語にフランス語、古代ギリシア語から獣の肉球?が押されたようなものまで様々な葉書があった。一部のサーヴァント達が面白がって送ったのだろう。いつの間にそんなことを、とギルガメッシュの胸の裡をちりりと何かが焼く。
「お金が当たることもあるんですよ、これ」
「金? 金なら貴様、有り余るほど持っているではないか」
「あれはQPでこっちはリアルマネーです。ボックスガチャで貯めましたけど、あれも一瞬で消えますよ……」
フ、と立香は遠い目をして微かに笑う。その様子を気に留めることなく、ギルガメッシュはつまらなさそうに紙面を見遣る。立香が示した辺りには見慣れない現代の文字がびっしり並んでいる。勿論読めない訳ではなかったが、積極的に読んでやろうとも思わない。ただ立香に言われたから見ただけだ。何となく、ただただ何となく。
「立香」
「なんですか?」
「貴様、その手に持っているはがきとやらと、そこな文字は同じではないのか」
「えっ?」
興味なさそうに頬杖をつきながらギルガメッシュは新聞の紙面を黄金の爪で指し示す。その言葉に新聞と葉書とを眼前に持ち上げた立香の目はふたつの間を何度か行き来する。そしてばっと顔を上げたかと思うとふたつを放り出してギルガメッシュの手を取り、
「やりました! 当たりましたよギルガメッシュ王!!」
と、陽のような満面の笑みを浮かべて両手で掴んだ手を上下に振った。予想外の反応に面食らったギルガメッシュは暫くされるがままに手を振られていたが、はたと我に返るとフンと鼻を鳴らして顔を背ける。
「我の双眸にかかれば当然よ。して、何が得られたのだ雑種」
「えっとですね…………切手シートです!!」
一度紙面に視線を移した立香は今度はすぐに顔を上げてまた笑う。「きってしいと?」と首を傾げるギルガメッシュに構わず、立香は嬉しそうにギルガメッシュの手を再度掴んで振る。何なのかは解らないが、立香の喜びようでさぞ良い物が当たったのだろうと結論づけてギルガメッシュはすっかり機嫌を良くし満足げな笑みを浮かべた。そのギルガメッシュを見て、立香の笑みが更に深くなる理由を、ギルガメッシュは知らない。