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    rikiya_itinose

    @rikiya_itinose

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    rikiya_itinose

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    天使と弱虫「もうここも危ない!!!じきに崩落するぞ!!!」










    男の叫び声とガラガラと建物が崩れ落ちる音が木霊する。


    もう体を動かす術も見つからない。
    視界が赤い。己の血のせいか。





    「瑶!!!!早く!!!!!!」


    男の叫ぶ声は先程よりも切羽詰まったものだった。己の最期も近いということだろう。
    胸に広がるは一種の安堵。
    そしてほんの一匙の恐れ。
    こんな俺が死を恐れるなんてことあってはならないのに。









    これは俺が望んだ最期だ。










    「………………行け。瑶。」


    なんだ声出るじゃないか。
    ちゃんと聞こえただろうか。
    目の前の愛おしい家族に。
    俺の天使に。
    大丈夫。ゴポという音とともに広がる血の味匂いには目をつぶっておこう。

    血は嫌いだ。恐い。

    けれど俺の天使の瞳の色と同じと思えば
    あの綺麗な紅玉の瞳と同じと思えば

    恐くないのかもしれない。



    顔は見なかった。
    どんな表情してるのかなんて最期に見たくなかった。
    きっと見てしまえば恐ろしくなる。
    この後俺に待ち受ける結果が。

    当然の報いだと
    耳元で誰かが言う

    ああそうだな。と、
    乾いた同意をすることしか俺にはできない






    「ッ…」

    苦しそうに息を飲む音とザ、という靴擦れの音と共に目の前の人影が動いたことが分かる。





    家族の最期ぐらい
    なんだちょっとは
    そのあれだ


    やめておこう。


    彼に。俺の天使に。
    今となってはたった一人の家族に。
    俺は

    愛を貰うなんてそんな立場ではない。




    そう、



    家族殺しの俺に。







    チラリと横目で背を向けて去る彼を見る。

    大きくなったなぁと思う。

    一人ぽっちで気だるそうにに暗い街をてくてくと歩いていたあの日の彼は
    いつの間にか周りにたくさんの人間が居て
    その輪の中であの日と変わらず下手くそな笑みを浮かべて
    至極真っ当に

    生きていた。




    二つの白が俺の天使の手を引く。
    片方は、俺もよく知る人物。
    片方は、俺の憧れたものを持つ人物。

    前者はきっと俺の天使のことを愛しているのだろう。そして俺の天使も彼のことが一等に好きなのだろう。家族だから分かるのだ。きっと彼は俺の天使を守って大きな愛で包んで幸せを与えてくれるだろう。安心だ。本当に。こんな家族殺しの俺に頼まれるなんて不名誉なことだとは思うけれど、俺の天使をどうかどうかお願いしますと願わざるを得ない。
    後者は俺がずっとずっと憧れて夢見たところにいる人だ。そして俺が一生手に入れられないものを沢山持ってる。彼は遥の弟だと言った。知っている。だってあの日彼からも遥を奪ったのは俺なのだから。彼にも悪いことをしたと思う。どうか赦さないでくれ、どうか最後まで憎んでくれ。けれど彼は優しく眉を下げて悲しそうに「そんなことできないや」
    と笑うだけだった。嗚呼。こんな人がヒーローになるべきだと。己の幼稚さで死にたくなった。

    遥かに背の高い白に手を引かれ俺の天使は姿を消そうとしていた。



    一人か。

    俺はもう時期死ぬ。

    このビルの崩壊に飲まれて。
    ああほら今も。
    地響きのような音、振動。目の先に大きな瓦礫が落ちてくる。その衝撃に身をすくめるほどの力も俺は残っていなかった。





    目を閉じてみる。
    走馬灯なんて信じやしないけど。
    最期ぐらい好きなこと考えたって罰当たりじゃあないだろう?


    なぁ。

    瑶。


    …遥。












    間違いなく貴方は。

    私の天使だった。








    目を閉じれば暗闇の先で笑ってくれる。
    そしてこれは俺作りだした幻想。

    「優!!!!行くぞ!!!」

    弾けんばかりの光のような輝きを瞳に
    俺よりももっともっと真白い肌が、人を殺したこともあるくせにいつだって変わらない白魚のような手が、こちらに伸びる。

    遥…。

    怖がりな俺を。臆病者な俺を。
    それを隠そうと躍起になる俺を。
    いつだって手を引いて先を走ってくれたのは
    遥だった。

    俺は遥が大好きだ。
    家族愛?友情?恋心?そんなもんじゃない。
    愛しているんだ。俺の天使を。俺の家族を。


    でも、俺が殺した。
    この事実は変わらない。



    「ほら。優。手。」

    眩い光を放つ遥のその隣で冷たくでも優しい光が伸びてくる。
    瞳は冷えきったまま、しかし俺を心配してくれていることがありありと伝わる。遥と全く変わらない、人を殺していてもいつ見ても綺麗な滑らかな肌は指先は俺に伸びる。
    手を出せずにいるとさらに心配の色は濃く深くなっていく。
    俺はわざとこの色が欲しくていつだってお前を。瑶。お前を心配させた。




    間違いなく貴方は、

    間違いなく、



    「俺の天使だったよ…よう。はるか。」



    鉄筋がむき出しになった上空
    吹き抜けた空から差し込む陽だまりに柔く照らされながら

    一際大きく何かが崩れる音がする。
    目は開けない。
    俺はいつだって怖がりの弱虫だ。


    でもいいんだ。
    これで俺は俺として死ねる。
    全く関わりもない表の世界の奴らに、ヴィランという烙印を押されて死なずにすんだ。

    瑶には悪いことをしたと思う。
    言葉じゃ言いきれないほど。

    でも言ったろ?俺は弱虫だ。
    瑶の優しさにいつだってつけ込んで、瑶はいつだって俺に優しいから。





    「ありがと…よう。瑶。どうか幸せに。」



    願うことはただ一つ。
    一人遺る俺の天使に。俺の家族に。

    どうか

    どうか幸多からんことを。






    音が大きくなった。
    目を閉じていてもわかる。
    ほんの数秒で

    終わると。

    全てがこれで

    終ると。




    身体がぐっと持ち上がる感覚がある。死ぬってこんな感覚なんだ。驚いたことに不思議と痛みはなかった。なんだ死ぬのも悪くないじゃないか。痛みがないことをいい事に目を開く、死後の世界がどんなものか見てやろうと思った。やっぱこれが

    正解……?






    「ど…して…」




    俺の視界にいっぱいの
    俺の

    天使。


    酷いじゃないか。神様は。俺を迎えに来るのにこんな…俺の天使の姿をしたやつをくれてくるなんて。どうせ俺は天国に、もうこの世には居ない俺の天使に会えもしないのに。



    ひとつおかしいことといえば。

    天使の手が暖かかったこと。
    天使がボロボロなこと。

    そう、さっきまで戦いあった姿のまま。





    持ち上げられた身体を引くその手は強く俺の腕を握りしめ、痛みを脳に送る。

    さっきまで俺のいた場所には大きな瓦礫。
    俺はそれに潰されて死ぬ


    はずだった。




    「どうして」

    こんな言葉しか出ない。

    目の前の天使は俯いたまま。
    天使の真白い羽も無ければ、金色に輝く輪もない。


    「………ど、し…て」


    脳に広がるのは、何度も繰り返し見る光景。
    俺の。俺が全てを壊してしまったあの日。
    俺が、目の前の天使の兄を。
    遥を殺してしまったあの日、あの瞬間。

    やはり生きていていいはずがない。
    俺は死ぬべきなんだ、いや死んでも何度死んでもこの罪は消えない、けれどこの罪を償う方法は見当たらない。

    だって俺にはもうこのちっぽけな命しか残っていないのだから。


    全身が痛みを訴える。相変わらず片目は赤しか映さない。立つことすらままならず、膝はすぐに地面に落ちた。

    俯く天使は何を思っているのか。
    愛おしい彼の心を今は見たいと思う。
    なぜ、








    なぜ俺を救けたのか。生かしたのか。


    「どうして、!!」

    そんな思いはこんな安っぽい疑問の言葉にしかならなかった。

    俯く俺の天使は、俺にあの瞳を見せないままボロボロの腕を手を俺に伸ばす。
    そうあの日のように。


    何も動けない俺の手を天使が奪う。
    強く握られる。本当に強く。強く。
    不思議と痛みより嬉しさが勝つ。当たり前だ。俺は目の前の天使に手を握ってもらうことか大好きなのだから。


    天使は俺の手を引く。


    天使は



    瑶は


    まっすぐ俺を見て。







    「生きるぞ」


    泣いていた。
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