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    呪霊のいない一般人五七と猫五七が存在する世界

    猫の悟さんが人の七海さんに出会う話と猫悟さんから見た同棲始めた五七の話

    猫のいる生活吾輩は猫である。
    なんて冒頭の文学がある事も知っている。俺は超賢い猫である。名前はもうある。最愛のご主人、七海がつけてくれたさとるという名だ。他人と重ね合わせて付けられた名に思うところが無くはないが、たしかに奴との共通点は多いし、顔だけはいいと言うことは周知の事実なのでまぁ良しとする。なにより七海が毎日「さとるさん」と優しく呼んでくれるからそれだけで俺はこの名を気に入った。

    七海と俺の出会いは2年前。
    両親はチャンピオン猫で申し分ない血統に加え、混じり気のない真っ白な毛並みと透き通るような青い瞳、そして愛らしさ抜群の顔立ちを持って生まれた俺はかなりの高額猫として猫舎で生まれた。ブリーダーも今までで1番だともてはやし、それはもう大事に大事に育てられたのだがある日ついに俺を飼うという人間がやってきた。超絶賢い俺は猫でありながらこの猫舎のシステムを既に理解していたため家族と離れることに抵抗はなく、どんな人間が飼い主になるのかとワクワクしていた。そこに現れたのが七海……ではない。そこに居たのは小太りのおっさんだった。ここに引取りに来る人間は化粧はキツいが綺麗な女性だったり、幸せを絵に書いたような裕福そうな家族だったりと女子供が多かった。予想外だったし正直少しがっかりした。おっさんが悪いわけではないのだが、ここに来てから俺達を見て頬を緩めるでもなく手早く手続きを進めようとする様子に「あ、こいつ猫が好きなわけじゃないな」と察してしまったからだ。家族に強請られて仕方なくならまだしも女を呼ぶためのアクセサリーとしてだった場合最悪である。まぁ俺はベタベタふれあいたいタイプじゃないし?最低限の手入れと飯だけ用意してもらえればいいし、最悪いつでも脱走してやろうと決めてキャリーへ入ってふて寝をした。
    それから3時間ほどたっただろうか。その間1度もキャリーが開けられることも無く、これは脱走決定かと思いながら乱暴な揺れに耐えていると別の人間の気配がした。おっさんが嬉々として挨拶をして世間話をしかけている。声からするに相手も男のようだが淡々とした声音は親しい間柄ではなさそうだ。しかししばらくしておっさんからプレゼントとのワードが発せられる。え、この感じで俺をプレゼントにするとか正気か。驚いて首を上げた瞬間、雑にキャリーが置かれたことで頭をぶつけた。このおっさん引っ掻いてやろうかと思うが、踏みとどまって大人しく引っぱり出されてやる。ここで暴れて相手に凶暴だからと拒否された場合、絶対八つ当たりされるからだ。俺の優秀な頭脳はこのおっさんよりも相手に貰われるのが最善と答えを出していた。

    「可愛いだろう? 真っ白でふわふわのゴージャスな毛並みが七海くんに似合うと思ったんだよ。金色の子もいいかと思ったんだが、この子の方が血統が良いみたいでね」

    ずいっと差し出された先に西洋人だろう色白金髪の男が驚いた様子で立っていた。それが七海とのファーストコンタクトである。
    きっちりと着込んだスーツと撫でつけた髪は少々お堅いイメージを受けるが、表情は純粋な驚きと戸惑いのみでこちらに対する悪い感情は感じられない。うん、こいつがいい。俺は人好きのする控えめで甘えた声を聞かせてやった。しかし、差し出されている俺を受け取ろうとはせず眉尻を下げた。

    「確かに以前猫も好きだとお話しましたが、生き物をいただく訳にはいきません。ペットを飼うには責任を……」
    「まぁまぁ、そんな難しく考えなくてもいいじゃないか。日々の癒しが欲しいと言っていただろう? 生き物との生活はかなりのストレス解消になるそうだよ」

    七海の言う通りだ。命は気安く受け渡ししていいものではないし、一生の世話を必要とするのだからそれなりの覚悟を持ってもらいたい。が、今はおっさんを応援したい。うちは基本客都合の返金対応不可だし、おっさんがまともな引き取り手を探してくれるとは考えにくい。最悪野良生活は覚悟しているが、七海に引き取って貰うのがベストである。俺はおっさんの手をすり抜け七海の足元へ擦り寄った。

    「ほら、その子も気に入ったようじゃないか。七海くんにはこれからも頑張ってもらいたいからね、受け取って貰えないかな。ああ、出張の時は家で預かるとも。日々の世話も大変なら家で一緒に住むのも良い……」
    「結構です」

    このおっさん案の定下心ありありらしい。食い気味に断られているのはいい気味である。

    「まず第一にいつもお伝えしておりますがクライアントから物品をいただく訳には行かないんです。お気遣いはとても有難いのですが受け取るわけにはいきません」
    「真面目なのも七海くんの美徳なんだが……そうか、でもその子はどうしたものか……」

    肩を落としたおっさんがチラリと俺に視線を向ける。俺は承知したとばかりにもう一度ニャーと可愛らしく鳴き七海の足へと身体を擦り付け、登る仕草で七海の足へと掴まり立ちをする。しかし爪は立てないように最新の注意を払ってなので直立している七海に実際に登ることは叶わない。困ったように見下ろす七海と視線をしっかり合わせ、もう一度愛らしく声を上げて首を傾げて見せた。しっぽは足に巻き付かせて離れたくないと意思表示だ。七海は実際猫が好きなようだ。うっと顔を顰める表情は嫌がるというより葛藤を滲ませ、弱り果てている様子である。

    「私は猫を飼いたい訳では無いからねぇ。七海くんに貰って貰えないとしたら……ねぇ?」

    おっさんの保健所行きも厭わないとでも言うような匂わせのセリフに七海は眉間に皺を寄せた。あーヤダヤダ、想像以上にゲスなおっさん。しかしこれは効果的だったようだ。七海が俺に手を伸ばして抱き上げた。

    「……分かりました。この子は引き取ります。血統書等の書類はお持ちで?」
    「ああ、そうか! 良かった良かった! その子は路頭に迷わないし、これで七海くんのクマも少しは減るんじゃないかい。ちゃんとしたところのこの子だからもちろん血統書もあるよ」

    デレデレとしながら書類やらブリーダーから受け取ったものを七海へと渡し、それじゃあ一緒に必要なものを買いに行こうかと嬉々として誘うおっさんに七海がキッパリと言った。

    「いえ、結構です。この子は授受ではなく買取の形で引き取らせていただきます。ブリーダーさんに確認して私の方からこの子にかかった金額は全てきっちり振り込ませて頂きますのでご安心ください。今後のこの子の世話のこともご迷惑はおかけしませんのでご心配なく。ああ、貴方は猫に興味がないようですのでこの子についてのやり取りも不要ですね。ではこの件はここまでということで。本日お持ちした資料は置いていきます。詳しいご説明必要でしたら改めて日を儲けさせていただきますのでこれで失礼します」

    おっさんに何も言わせずさっさと退室する七海。おっさんの俺の扱いにだいぶ怒っていたのだろう。俺の目に狂いはなかったと温かい腕の中で安心したのを今でもたまに思い出す。これが七海との出会いだ。ちなみにあの後すぐにおっさんの担当は外れたらしい。

    それから1年七海と二人きりの生活はそれはそれは充実し、とても幸せな日々だった。俺に名を与え、忙しい中でもきっちり俺の世話をこなし、ブリーダーの元にいた頃と遜色ない暮らしをさせてもらった。そして時間を見つけては俺をしっかり構い倒し、七海も楽しそうに笑ってくれた。七海の大きな手に撫でられるのはとても心地よく、温かな膝の上は最高の安眠スポットだった。夜も一緒に眠れば七海のクマはおっさんの予言通り薄くなって、快調だと七海も喜んだし俺も幸せだった。だった、と過去形にはなるが決して今が不幸という訳では無い。変わらず俺は七海の猫で、何不自由ない生活を送らせてもらっている。が。
    俺をひきとって1年後、七海はある男と同棲を始めた。
    『五条悟』
    俺と同じ名を持つこの男が俺から七海を奪うのだ。
    「七海~、早く寝室行こ?」
    「先におひとりでどうぞ」
    「なんでよ。せっかく一緒にいられんのに」
    「さとるさんのグルーミング中です」
    むくれてこちらを見ている五条にいい気味だと鼻を鳴らしてやる。
    「ちょっ、今の見た!? こいつ絶対今僕の事バカにしたよね!?」
    「五条さん静かにしてください。ご近所迷惑ですよ」
    騒ぐ五条を無視して七海は丁寧に俺の毛繕いをしてくれる。合間に撫でる手つきも優しく、最高の時間である。それを毎度邪魔してくるのが五条だ。この時間だけではない。七海は五条と同棲をはじめて俺と一緒に寝なくなった。大きな一軒家へと引っ越して俺の部屋が与えられたからだ。代わりに七海と寝るようになったのが五条である。大変不本意だ。俺の部屋とリビングや他の部屋へは行き来自由なのだが寝室だけは入れて貰えない。五条も七海以上に忙しいようで帰らない日もあるがその日でさえ癖になるからと入れて貰えないのだ。これでまた七海がクマを作るようであれば無理矢理にでも入り込んでやるところだが、七海は変わらず健康を維持しているので渋々従っているところである。
    「もうそろそろ良くない? 毛玉とかないでしょ」
    「グルーミングは毛玉取りのためだけじゃありませんよ」
    「それはもう耳タコ。でもそろそろ五条さんのグルーミングに取り掛かってくれても良いと思うんだけど。二人でゆっくり出来るの2週間ぶりだよ?」
    「悟さんとの時間も最近あまり取れてませんでしたからもう少しです」
    七海が五条よりも自分を優先してくれることに優越感を感じる。
    「それもさぁ! 僕も悟さんなんだけど!」
    これは度々というか、紹介された日からいつも五条が言っている事だ。さとると言うのは五条に似てるからと七海の友人家入が提案した名だが、その場にいた五条の文句を無視して七海が決めてくれた。五条の同じ名では混乱するだろうという主張は通らなかった。なにせ七海は五条を悟とは呼ばない。そう呼んでいるのは俺が知る限り五条の友人、夏油くらいではないだろうか。
    「私にとっては昔から五条さんですからね」
    「今はお前も五条さんみたいなもんでしょ。ねぇ、名前呼んでよ。僕も呼ばれたい、建人」
    五条が七海に猫のようにすり寄って猫なで声を出す。すると七海の手がピクリと震え、撫でる手が止まってしまう。
    「……、もう少しだけ待って。後でいくらでも呼んであげますから」
    「待てない」
    五条の手が七海の腕を滑り手を重ねてブラシを奪い取る。五条は七海へと顔を近づけ、キスをしようとした。
    「いっ!」
    俺を無視して交尾を始めようとするので五条の指に思い切り噛み付いてやった。
    「こっの、バカ猫!」
    「さとるさんはとても賢いですよ。今のは待てと言うのに待たない五条さんが悪いです」
    「お前どっちの味方だよ」
    「どっちでもないですね」
    こんなやり取りももう何度目だろうか。こうやってすぐに七海を奪い取ろうとする。万年発情期め。再開されたグルーミングと共に喉を撫でられゴロゴロと鳴らす。七海はすっかり俺のツボを抑えていて簡単に五条への苛立ちを沈めてくれる。ブツブツと文句を言いながら救急箱を空けている五条にいい気味だと思う。同棲した事でただでさえ俺と七海の二人きりの時間が減ったのだ。七海が俺を構ってくれる時間を邪魔するなら容赦しない。しかし、七海が望むなら話は別だ。俺は出来た猫なのだ。
    「さとるさん、そろそろ満足できそうですか? もう1人の悟さんが我慢出来ないようなので」
    離れた五条に聞こえないようにか小さな声で囁く七海。見上げた七海の顔は頬がうっすらと染まっている。人間はみな万年発情期だ。愛する七海が望むのなら仕方ない。
    「なーん」
    俺は一声鳴いて七海の手をペロリと舐めると立ち上がる。トッと軽快な音を立てて床に降り立ち、すっかり慣れてしまった一人寝をするべくリビングを後にするのだった。
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