Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    も ぶ

    @57mob

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 21

    も ぶ

    ☆quiet follow

    花吐き病妄想2つ目を形にしてみた。

    #五七
    Gonana

    花吐き病 今日の任務をつつがなく終え、灰原と二人食堂へと向かう。任務場所は奥多摩の廃村で、近くは無いが東京都内であり、相手は数だけ多い低級呪霊。難なく祓除がかなったため高専へ戻って報告、風呂を済ませてもまだ18時。ちょうど夕食どきに間に合う事に私も灰原も気分よく足を進めていた。
    「あー、お腹空いた! 今日の夕飯何かな?」
    「昨日は魚だったから肉料理じゃないか?」
    「ハンバーグとかいいなぁ。でも唐揚げも捨て難い」
     楽しげに食べたいメニューをたかる灰原に私の頬も自然と緩んだ。食堂の扉が近づくと声が聞こえてくる。灰原もそれに気づいたようだ。
    「今日は先輩たちも居るみたいだね」
    「珍しく揃ってるみたいだな」
     ここのところ任務が立て込んでいたらしく、私たち以上に忙しい特級二人がこの時間に揃っているのは久しぶりだった。僅かに胸が痛み喉の奥に違和感を覚える。私はコホンと咳き込んで足を止めた。
    「大丈夫?七海咳なかなか収まらないね」
    「問題ない。咳だけだし、回数はだいぶ減った」
     私はひと月前から患っている病があった。咳で足を止めたのはその病のため。
    「嘔吐中枢花被性疾患」
    通称花吐き病は片思いを拗らせると口から花を吐き出すというなんとも奇妙な病だった。非常に稀ではあるが昔から存在するというこの病は吐き出された花に触れると感染する。任務で助けた女性がそれに罹患していたらしく、助けた際に気づかずに触れてしまったことが原因だ。元々知らなかったのだから仕方がない。この奇病は呪術界にだけ知られているものだった。なんでも花の具現化に一定の呪力を必要とするらしく、一般人では感染していても発症することはまずない。助けた女性は呪術師ではなかったが窓、見える側の人間だったのだ。あとから女性に謝られ、花を吐き出すだけだから問題ないと答えた。確かに見られる症状はこれだけだ。しかし、花吐き病は片思いが解消する以外の完治方法がない。つまりこの病について知っている人間に見られれば自分は片思いをしていると知らしめることになる。私は花を履かないよう意識をコントロールし、冷静さを保つために小さく深呼吸をした。それからゆっくりと足を動かす。あの人が呪術界のみに存在するというこの病を知らないわけが無い。私は花吐き病を患っていることを知られる訳には行かなかった。私の片思い相手、五条さんには絶対に。
    「まじなんなんだアイツら。ア〜、めんどくせぇ~」
     扉を静かに開けると五条さんの不機嫌そうな声がはっきりととびこんできた。久しぶりに目にする姿に喉の違和感が強くなるのを感じ、今日の献立へと意識を逸らそす。五条さんへの想いを意識しなければ我慢できた。花吐き病は本当に恋心に連動しているらしい。五条さんの向かいで苦笑を浮かべていた夏油さんがこちらに目を向けた。
    「2人ともお疲れ様」
    「おつかれー」
     夏油さんの横にいた家入さんも手を振り労いの声をかけてくれる。五条さんだけはチラリと目線を向けただけで直ぐに手元の携帯電話へと目線を落としてしまった。私はむしろそれにほっと息をつく。
    「お疲れ様です!」
    「お疲れ様です」
     私と灰原はカウンターから食事を受け取って、先輩達のテーブルへと近づく。すると灰原は自然と夏油さんの横へと腰掛けた。必然的に私はその向かい五条さんの横へと座る事になる。以前から揃って食事をする時、この並びになることが多かったのだ。今更変わってくれともいえず、私は少しの緊張とともに席へと着いた。食事の途中にもかかわらず、メールをしているらしい五条さんは非常に機嫌が悪そうだ。灰原が声を少し潜めて夏油さんに問いかける。
    「五条さん、どうかしたんですか?」
    「ああ、家の事でちょっとね」
    「五条お見合いするんだってさ」
     濁した夏油さんの代わりに面白そうに家入さんが答えを教えてくれた。なるほど、不機嫌の理由に納得した。しかし私の脳裏に以前の会話が蘇った。
    「全て断っていたのでは?」
    「そういえばそんなこと言ってたね。今度の人は良い人だったんですか?」
     灰原も記憶にあったらしく首を傾げて五条さんへと問いかける。それに五条さんはとても嫌そうに顔をしかめ携帯を放り投げた。そして深いため息を吐き出す。
    「逆だ。クソめんどくせー相手。何度断らせても引き下がらなくて仕方なく直接話つけることになったんだよ」
    「よほど悟に惚れ込んでるんだろうね、随分根性のあるお嬢さんみたいだよ」
    「根性っていうか執念感じて怖えーよ」
     五条さんがおえ〜と吐く真似をする。お見合いと言うよりも話し合いというのが正しいらしい。ざわつきそうになる心がようやく落ち着いた。五条さんが食事を再開したのに合わせて私と灰原も手を合わせて箸を動かし始めた。
    「箱入り娘のお嬢様なんでしょう? 自分で高専にまで乗り込んでこようとするなんてそのガッツは認めてやってもいいんじゃない?」
    「世間知らずで自己中なだけだろ。こっちの迷惑考えろっつーの」
    「正論だけど悟が言うと同意しにくいな」
    「なんでだよ」
     先輩方の会話に耳を傾けながら灰原の希望通りだったハンバーグに箸を入れていく。結局はこれまでと変わらず五条家当主という地位に付随する煩わしさということだ。その事に安堵するが、それに伴いうずきそうな恋心に騒ぐなと蓋をして黙々と箸を動かした。しかし同じく白米を頬張っていたはずの灰原の声に顔を上げる。
    「相手はどんな人なんですか?」
    「五条家の遠縁で年下だとか。結構可愛い子だったよ」
    「夏油さんたちも会ったことあるんですか?」
    「私たちは写真見せてもらったんだ。悟」
     夏油さんが五条さんに向かって手を差し出す。五条さんは嫌そうにしながらもその手に携帯を乗せた。夏油さんがそれを灰原へと見せる。
    「この子」
    「ほんとだ!すごく可愛い!それに良い子そうじゃないですか?」
    「顔が良くてもこっちの都合も考えずに学校まで乗り込んでこようとするとか、クソ面倒な女嫌だろ」
    「悟には言われたくないだろうね」
    「あぁ!?」
     凄む五条さんを無視して食事をする夏油さん。横の家入さんも笑いながら同意する。
    「言えてる。五条ほど面倒なやつなんてそうそういないでしょう。押しかけが良くないのはその通りだけど。まぁ、一目惚れって言うし若さゆえの勢いでしょ。今中3だっけ、その子」
    「らしい。けどこっちはあった覚えもねーっての。それで一目惚れとか言われてもなぁ」
    「どうせ悟が覚えていないだけだろう」
    「よりにもよって五条に惚れるとか可哀想に」
    「家関係の付き合いの場にいたやつなんか興味ねぇし、いちいち覚えてねぇよ」
    「へー、七海も見てみなよ」
     先輩たちの会話を他所に観察し終わったのか、灰原に携帯を差し出される。私は少し悩んだがそれを受け取った。そこに映し出されているのはサラサラと流れる長い黒髪で幼さの残る可愛らしい面差しの少女だ。華奢で丸みを帯びた身体は女性らしく、眩しい笑顔を向ける彼女は確かにとても可愛らしい。五条さんは興味は無いようだがモテるのだろうと簡単に想像できる。それにもかかわらず己を袖にする男に何度もアタックしてくるということは相当惚れ込んでいるのだろう。しかし、と思う。
    「まともに話したことは無いんですよね?なら五条さんと話をすれば直ぐに目を覚ますんじゃないですか?」
     私の言葉に五条さんが足で小突いてくる。視線を向ければ不満げな五条さんと目が合う。
    「どういう意味だ、コラ」
     頬杖をつきながらこちらを見て口をとがらせている。
    「そのままの意味です」
    「おまえなぁ」
     五条さんの顔がますます不機嫌になって文句を言おうとするのを夏油さんが遮る。
    「まぁまぁ。明日合えば分かる事さ。悟るだってそれで諦めてくれれば願ったり叶ったりだろう?」
    「まぁ、な。それで諦めてくれればいいけど」
    「諦めなさそう~」
    「だよなぁ」
     ケラケラと笑う家入さんに五条さんは深いため息をこぼして項垂れた。
    「いっそ試しに付き合うっていうのはないんですか? 前から見合い話よく持ってこられて断ってるって話だったじゃないですか。相手が出来ればそれはなくなりますよね?」
     灰原の言葉にドキリとする。家入さんと夏油さんも驚いたように灰原に目を向けた。
    「うわぁ、灰原からそんな打算的な話聞きたくなかったわ」
    「以外だな。灰原は好きでもないのに付き合うなんて発想は出ないタイプだと思ってたよ」
    「え!? ダメですか? もちろん騙してはダメと思いますけど試しにお付き合いして、お互い知っていけば案外好きになるとかもあると思うんですけど」
     その言葉に夏油さんと家入さんはやっぱり灰原だと安堵している。五条さんもそうかと思って横を見れば顎に手を当てて考えている様子だ。そしてチラリとこちらに目を向けて言う。
    「七海もそう思うか?」
    「え?」
     突然話を振られて戸惑う。意味は理解しているがすぐに返事をかえせなかった。
    「だから試しに付き合ってみたら好きになるとかあると思うか?」
    「それは……、なくは、ないと思いますが」
     まさか五条さんがそんな事を検討するとは思はなかった。だってこれまで恋愛なんて面倒だと言っていた。その気になれば全く女性に困らないけれど、その相手をするくらいなら夏油さんと桃鉄をしている方が有意義だと言っていた。将来はともかく今は好きな相手はいない、そんな相手を作る予定もない。五条さんはそうなのだと思っていた。
    「そっか。……ま、明日会って考えるわ。マジでどんなやつか家から送られてきた情報以外記憶にないし」
     違ったらしい。もし、あの少女を五条さんが悪くないと感じれば二人は恋人同士となるのだろう。そしてもし、あの少女が本当に一途に五条さんに恋をしていて、間近で接して本当に五条悟を知ってなお好きだと言うのなら。もし五条さんがあの庇護欲をそそるような愛らしい少女の本質を知って気に入ったとしたら。もし、二人の間に愛情が芽生えたとしたら。周りの声が遠くに聞こえる。脳裏に二人が手を取りあって笑い合う姿が過った。
    「ごほっ、ぅ、」
     突然込み上げてきた嘔吐感。慌てて口を抑えるが何かが喉につかえている感覚がある。息がつまり苦しくなってさらに咳き込んだ。ダメだと思うのに止められない。
    「おい、七海、大丈夫か?」
     背に温かな感触を覚える。途端に嘔吐感が強くなり、胸を締め付けるような痛みが走る。
    「げほっ、……っ、おえっごほっ」
     私は耐えきれずに込み上げたものを吐き出した。嘔吐をする私の背中を撫でる手はいつになく優しいものだった。私は耐えきれずにそのまま吐き出し続ける。いくつも口からこぼれ落ちる花。抑えていた手からあふれてぽとりと落ちた。それまで心配そうにかけられていた声が止まる。
    「花?」
     苦しさに滲んだ涙でぼやけた視界に赤いものが映る。落ち着いた嘔吐感に手を離し、瞬きをしてようやく見えた隠しきれないそれは真っ赤なアネモネだ。ああ、やってしまった。
    「どうして花が?」
    「待て!触るな!」
     心配してそばに来てくれていたらしい灰原がその花に手を伸ばした時、家入さんが珍しく大きな声を出してその手を止めさせた。夏油さんが家入さんに尋ねる。
    「硝子、何か知ってるのか?」
    「それはおそらく」
    「花吐き病、だな」
     五条さんが遮るように答える。いつになく真剣な声音に目を向けるが、真っ黒なサングラスにさえぎられて表情は上手く読み取ることが出来ない。
    「五条も知ってるのか」
    「一応な。呪術師にだけ稀に発症する奇病だ。呪術師家系の人間なら名前くらいは知ってる」
     近年は発症例の報告は無いとされていたから知らない可能性もあったがそんな期待は打ち砕かれてしまった。
    「花吐き病って……」
     横に来て私の様子を見る家入さんに灰原が尋ねる。
    「正確には『嘔吐中枢花被性疾患』。罹患すると花を吐き出す。感染ルートは花への接触だけど、発症する原因は『片思い』らしい」
    「片思い?」
     家入さんの説明に事情を知らない二人が目を瞬かせる。私も最初は信じられなかった。
    「私も詳しくは無いけど、昔から潜伏と流行を繰り返してるらしい。症状は叶わない恋心に連動して花を吐き出す」
    「そんな事があるのか?」
    「だから奇病なんだよ」
     不信を滲ませ呟いた夏油さんに五条さんが答える。
    「俺も初めて見るし、近年発症したとか聞いた事ないけど別の呪いなら最初に俺が気づいてる」
    「他にこれだけの花を吐き出すなんて理由思いつかないし間違いないと思うよ。七海、花を吐いたのは今日が初めてか?」
     家入さんの言葉に私はゆるゆると首を横に振る。もうバレてしまったのだ。隠す必要はない。
    「1ヶ月前、任務で助けた女性から感染しました。先生に相談して、提携の病院で念の為精密検査儲けてます。他に異常はなく、間違いなく花吐き病と診断されました」
    「七海が最近よく咳してたのは風邪じゃなくて花を吐きそうだったんだね」
    「ああ」
    「硝子と悟の様子からして深刻ではなさそうだけど、命に関わるものじゃないと思っていいのか?」
     夏油さんの質問に灰原も心配そうに私を見つめる。
    「直接命に関わりはしないそうです。ただ、花を吐き出すことには体力も呪力も消耗するのでその点には注意するように言われています。治療法は特にないそうなので上手く付き合っていくしかないですが、たまに花を吐くそれだけなので心配しないでください」
     そういうと夏油さんと灰原は安心したように息を吐いた。家入さんはおそらく完治の方法を知っているのだろうが私の気持ちを組んで黙っていてくれた。
    「心配をかけてすみません。でも花を吐く回数は減ってます。今は通常通り動いても問題ないみたいですし、気にせず今まで通りでお願いします。ただ花に近づかないよう気をつけてくださいね」
     さっさと花を片付けようと手を伸ばしたがその手を掴まれる。
    「あるだろう」
     これまで黙っていた五条さんが口を開いた。
    「五条さん?」
    「完治させる方法。あるだろ」
     五条さんはそれも知っていたのか。家入さんのように黙っていてくれればいいのにそうしてはくれないらしい。解決に協力するとでも言い出すのか、からかわれるのか分からないが身構える。
    「っ、それはいいんです。本当に私のことは気にしないでください」
     私の腕を掴んでいた手が緩み引いてくれるのかと安堵しかけたのに、私は目を見開くことになった。
    「五条さんっ、何やってるんですか!」
     五条さんは私の吐き出したアネモネも拾い上げたのだ。そしてあろう事か顔にちかづけて匂いを嗅いでいる。
    「五条さん! 早く捨ててください!」
    「これ何の花? あんま匂いしねーな」
     五条さんはこちらの話を聞くことなく、花を取り上げようとしても抑え込まれて叶わない。どの程度で感染するのか、五条さんに移ってしまったらどうしよう。焦る私とは対照的に五条さんは静かに花の観察を続けている。
    「悟、話を聞いてなかったのか? 花から感染するという話だったろ」
    「話聞くも何も感染することも元から知ってるって」
     夏油さんが苦言を呈しても気にする素振りさえ無く、落ち着いたものだった。五条さんが何を考えているのか分からない。
    「だったらどうして……」
     五条さんの視線が花からこちらへと向く。
    「完治する方法を知ってるから。うっ、ゴホッ」
    「五条さん!」
     五条さんの口からも花がこぼれおちた。ああ、移ってしまった。私は呆然と手元に落ちてきた花をみつめる。それは私のものとは違い、紫色をした花。おそらくパンジーだ。
    「うぇ、これ結構苦しいな。けほっ」
    「はー、なにやってんの。完治方法って定説以外に何かあるの?」
     家入さんが呆れながら言う。私が聞いている方法はただ1つ。他になにか方法があるのか?
    「硝子の言う定説が何か知らないけど、完治する方法は両思いになる事だよ」
     あっけらかんと告げられた答えは定説そのものだった。ああそうか、この人には自分が両思いになる確証を持つ相手がいるのだ。恋愛に興味が無いだとか明日会う彼女とのこととか、全て嘘だったのだ。私はそれを信じて今だけでも誰のものでもないことに安堵していた。叶うはずがないと言い聞かせながらも、心のどこかで「もしかしたら」なんておもいながら一人花を吐き続けていたのだ。
    「それが出来れば苦労しないでしょう。げほっ、……、最低だ」
     私は一生この花を吐き出し続けるというのにこんな巫山戯た真似をして見せつけて。移してしまった心配だとか罪悪感だとか五条さんを気遣う気持ちが怒りと悲しみに変わる。叶わないけれど捨てられない想いなのだ。せめてそっとしておいて欲しかった。花を吐く時とは違った痛みが胸を締め付けた。
    「七海」
     五条さんの手が俯く私の顔を包み込み、上を向かせる。これ以上何を言うつもりなのだろうか。力で五条さんには叶わない。せめてもの抵抗に五条さんを睨みつけた。
    「なんで出来ないって決めつけてんの」
    「あなたに何が分かるんですかっ」
    「わかるから言ってんだろ」
     五条さんが突然私の手を引き立ち上がる。
    「ちょっと、なんなんですか!」
    「悪い、お前ら飯だけ片付けといて。花は後でどうにかする」
    「わかった」
    「一つ貸しね」
    「灰原、七海の事は悟に任せて食事に戻ろう」
    「え、あ、はい」
     夏油さんと家入さんは五条さんが何をしようとしているのかわかっているのだろうか。あっさりと了承を返して灰原を促すと席へと戻る。着席を待つことなく五条さんは私を引っ張りながら食堂を後にした。
    「待ってください、五条さん!」
    「お前あそこで続き話すと怒るだろ」
    「は? 一体これ以上何を話すんですか」
     それ以上五条さんは答えることなく、強い力で私を引きずって行く。たどり着いたのは五条さんの部屋だ。部屋へと連れ込まれ、バタンと大きな音を立てて扉が閉まる。そして私はすぐに壁へと縫いとめられてしまった。突然の二人っきりの空間と至近距離にドキリとする。この状況でも花が生まれそうな感覚に泣きたくなる。あのまま嫌いに慣れればよかったのに。
    「本当に、なんなんですか……」
    「花吐き病を完治させられるのは想いを叶えることだけだ」
    「わかっています。あなたのことは知りませんが私の想いは叶わない。無理なものは無理なんです。だからもう放っておいてください」
    「わかってない」
     何がわかっていないというのか。睨み返そうと逸らしていた視線を前に向けて気づく。五条さんの顔がだんだんと近づいてきている。
    「っ、五条さん?」
     からかいたいにしてはサングラスの向こうに見えた瞳は真剣な色を帯びていた。混乱のままに見つめ返す。ケホリと私の口からまた赤い花がこぼれた。ひとつ、ふたつ。みっつ目の花が落ちる前、五条さんの唇によって私の唇が塞がれてしまった。信じられない現実に思考が停止するが、心臓は痛いくらいに脈打っている。
    「んぅ!? ゲホッ! ゴホッゴホッ」
     瞬間熱が離れ、五条さんが目の前で酷くむせ返っている。その口元からこぼれ出てきたのは薔薇。色は赤だけでなくピンクと白、青とカラフルな薔薇が私の上へと降り注いだ。むせ返るような甘い香りに包まれる。
    「けほっ。うっへぇ、これじゃキスもまともに出来ねーな」
     五条さんはようやく落ち着いたのか口元をぬぐい息をつく。私はその様子を混乱のまま呆然と見上げていた。
    「な、なに……?」
    「まだわかんないのかよ」
     はぁっと大袈裟にため息を疲れる。なにがなんだかわからない。しかし早鐘を打つ心臓は期待を物語っていた。期待してはいけない。そう思うのに今口を開けば花があふれてしまいそうだった。
    「七海、お前の片思い相手って俺だろ」
     花を抑え込むようにゴクリと唾を飲み込む。そして声を絞り出す。
    「違います」
    「違わないだろ。最近お前俺の事避けてたの花吐き病のせいだろ。話してた時も妙によそよそしいし。それにさっきの花吐くタイミング。なぁ、俺が見合い相手と付き合うかもって思ったら苦しくなったんだろ?」
    「それは……」
     五条さんの手が優しく頬に触れる。今にも口から花があふれでそうだ。
    「なぁ、七海。俺が好きだって言って」
     こちらを見つめる空色の瞳はどこまでも真っ直ぐでとても澄んだ色をしている。その眼差しに射抜かれるともうダメだった。
    「……好きです。吐き出した花で部屋が埋まってしまうくらい、五条さんが好きなんです。消したくても消せなかった。このままでは私は花に埋もれて死んでしまう」
    「大丈夫。七海はこんな事で死なない。言ったろ、完治する方法知ってるって」
     完治するのは両思いになった時。私が花に埋もれずに済む方法を叶えられるのは1人だけだ。ふわりと五条さんが微笑む。とても綺麗だと思った。
    「俺も七海が好きだよ」
     揃って大きな白百合を吐き出した。これが感知の証だ。五条さんの顔が近づいてくる。私はゆっくりと目を閉じた。先程と同じように心臓が痛いほどに脈打つが、赤い花が溢れることは無い。五条さんが薔薇を吐き出すことも無い。今度こそ花に邪魔されることの無い口付け。五条さんの手が後頭部へと周り、キスが深くなっていく。これは本当に両思いとなったからこそ許されているのだ。そう思うと余計に胸が熱くなる。好きです、五条さんが好き。ずっと言いたくていえなかった言葉は花吐き病を患って以来、想うことさえままならなかった。変わりにこぼれおちたたくさんのアネモネ。ただ捨てられ枯れていくだけだったあの花たちが浄化されていくように感じた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘💘🌹🌺🌹🌺🌹🌺💖💖💖🌹🌺🌻🌼🌷💐💖💖💖💖💖💖🌹🌹💐🌼💖💖💖💖💖💖🌼🌼🌼🌼🌼🌼🌼🌼🌼🌼👏💞👍❤💘💯💯💗💞❤💕💗❤👏💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works