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    も ぶ

    @57mob

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    ハロウィン前日か前々日くらいのお話。
    付き合ってる五七です。
    ハロウィン当日までに書きたかったフライングハロウィン

     季節はすっかり秋本番。スーツを着ていても肌寒さを感じるようになり、足早に待機場所へと足を進める。今日は朝から2件近隣での任務をこなし、あとは高専での待機が命じられている。定時まで残り数時間。事案が発生しなければそのまま帰宅出来るので何事もなければ良いと祈りながら部屋の扉を開いた。

    「おつかれサマンサ〜」

     そこに居たのは五条さん。報告書の提出後、補助監督からティーセットも用意してますからと指定された待機場所がここだった。普段あまり使われない応接室が指定された理由はこの人だったのだろう。任務ではないのだが早速面倒事が発生する予感しかない。

    「お疲れ様です」

     ここで反応しては思う壺なので私は努めて平坦に挨拶を返した。そんな私を気に止めるでもなく五条さんは機嫌良さげにティーポットへとお湯を注ぎ、お茶を入れる準備を始めた。おや、と思う。いつもならば「お茶入れてー」とお願いという名の命令がなされるところだ。後輩は積極的に使って行く派の五条さんが自ら動いている事を訝しむ。

    「何つったってんの。早く座ってよ」

     五条さんの催促に少しばかり警戒しつつ向かいへと腰掛ける。

    「なに企んでいるんですか?」
    「なんだと思う?」
    「質問に質問で返さないでください」
    「まぁまぁ。僕と七海の仲じゃん。で、なんだと思う?」

     答える気のない五条さんにため息をついて自分で答えを探す。するとすぐに思い当たることがひとつあった。

    「ハロウィンですか」

     当日ではないが、街中はすでにハロウィンムード一色だ。五条さんはイベントにかこつけて騒ぎたがるところがあり、なおかつ甘いもの好きとなれば日がズレていようがやりたがる事は想定できる。ハロウィンまでに私も五条さんもゆっくり時間が取れるのがちょうど今だったのだろう。

    「せいかーい。流石が七海!」
    「お菓子なんて持ってませんし、当日でもないのにイタズラも無効ですよ」
    「だよねー。おまえにそこ期待してないよ」

     案の定答えはハロウィンだったが思っていた展開と違っていた。「Trick or Treat」これを狙って駄々をこねるのかと思ったが違うらしく、私の前に入れたての紅茶が差し出される。こっちになにか仕込んでいるのか?怪しみながらもとりあえず受け取った。匂いはアールグレイのいい香り、色も特に問題なし。しかし口をつけていいものか悩んでいると五条さんの笑い声が聞こえる。

    「別になんも仕込んでないって。普通の紅茶。僕の事信用はしてくれてるんでしょ」
    「では何があるんですか」
    「Trick or Treatって言って」

     こちらにそれを要求する意味がわからず五条さんを見つめるが、変わらず笑みを浮かべて見ているだけだ。言いたくない言葉というわけではないが警戒心が解けない今、そのまま従うのははばかられた。

    「……なぜ?」
    「いいからいいから」

     相変わらず答える気は無いらしい。おやつを出されても食べる食べないは自由。イタズラを要求されても従ういわれもない。そこまでおかしなことにはならないだろうと判断して口を開いた。

    「Trick or Treat」
    「HAPPY HALLOWEEN!」

     待ってましたとばかりに差し出された物。それはカボチャの形をかたどっている。

    「パンですか?」
    「そう! 五条悟特製パンプキンパン! 名付けてぇー、『パンパンパンプキーン』!」

     テンション高く紹介されたそれはチョコペンで可愛い顔の描かれたジャック・オー・ランタン風のパンだ。受け取ってよく見ても素人の手作りとは思えない。ラッピングを見れば工場で作ったような既製品感はないが、良くできていて街のパン屋さんの品といった雰囲気だ。

    「これ、五条さんが作ったんですか?」
    「そうだよ。中に入ってるかぼちゃクリームはもちろん、生地にもしっかりかぼちゃ練り込んで1から作ったからかぼちゃも愛情もたっぷり入ってるよ♡」

     自信たっぷりに言う五条さんから褒めてオーラを感じとる。素人なのは確かだがなんでもそつなくこなす器用な男だ。味ももちろん一定以上の出来なのだろう。すごいとは思う。しかし簡単に褒めはしない。褒めも貶しもせず事実に即すという信条もあるが、五条さんの場合単純に調子に乗るのが目に見えているからだ。

    「そうですか」
    「おまえさぁ、もうちょい反応してくれても良くない? 五条さん凄いです♡パンも作れちゃうなんて惚れ直しちゃいますぅ♡愛情たっぷり嬉しい♡みたいな」
    「私がそんなこと言うと思いますか」
    「思わないけどさぁ」

     ムゥっとふくれる28歳児。可愛くないと言いたいところだが、目隠しを外してしまえば可愛いとも取れなくはない整いすぎた顔を思い出し言葉を飲み込んだ。

    「食べていいんですか?」
    「誰のために作ったと思ってんの」
    「私のためとでも?」
    「おまえ以外居ないだろ。パンマニア」

     さも当然と言いたげだ。しかし今回は短くは無い付き合いの中で今までにないハロウィンのパターンである。

    「去年までハロウィンは菓子をねだる側だったのが突然パンを作った理由は?」
    「悠仁と野薔薇がジャック・オー・ランタン作ったことないって言うからさ。昨日かぼちゃ用意して作ったんだよねー」
    「中身の処理に困っただけじゃないですか」
    「そこはミキサーにぶち込んでスープにするれば簡単なのにわざわざ手間ひまかけておまえの好きなパンにした僕の気持ちを買ってよ」

     開封してちぎってみたパンはふわふわと柔らかく、中のクリームも滑らかでしっかりと裏ごしされているように見える。食べる前から美味しそうなそれはたしかに時間がかけられているように見えた。

    「そうですね、たしかに適当に作られたものでは無いようだ。ありがとうございます。お気持ちは受け取ってありがたくいただきますよ」
    「そうそう! もっとありがたがって食え!」

     ふんぞり返る五条さんは無視して私は一口パンにかじりついた。見た目通りふわふわのパン生地は一晩たっているようだが水分を失っておらず、食感を損なっていない。クリームも滑らかな舌触りと上品な甘さを持ち合わせていてほんのり甘いパン生地と合わせてちょうど良い。これは上手い。私は黙々とパンを口へと入れていく。

    「どう? 美味しい?」

     その声に正面へと目を向ければ優しい視線とかち合った。いつの間にか下ろされていた目隠しの下から現れた青い瞳は呪霊を相手にする時のような苛烈さを潜めて柔らかな色味のように見える。緩く弧を描いて細められた目元と相まって見守っていてくれる安心感のようなものを覚える。甘く優しいその視線に自然と胸が温かくなるのを感じた。こういう時に思う。ああ、やはりこの人が好きだな。私はなんだか照れくさくなって紅茶へと口をつける。口内に残っていた甘さと共に照れを飲み込んでから感想を述べた。

    「美味しいです。とても」
    「なら良かった。七海に褒められる出来なら頑張った甲斐があったね」

     嬉しそうに笑う五条さんにこちらも頬が緩むのを感じる。

    「生地はパサつきもなくふんわりとした食感でほのかな甘みもあってこれだけで美味しいし、クリームもしっかり裏ごしされているから舌触りも良くて甘さもしつこくなく、パン生地の甘さと合わせてちょうど良いです」
    「そんなに気に入ってくれたならまた作ってやるよ。めっちゃ手間はかかったけど、お前のそんな顔見られるなら悪くない」

     緩んでいる自覚はあるけれど私は一体どんな顔をしているのだろう。せめてサングラスをしていて良かったと思う。

    「期待しています」

     そう言ってあとは誤魔化すようにパンを食べる事に集中するのだった。
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