Bloodangea「なぁウェズン、あの花ってなんて名前なんだ?」
アダーラとともに歩いていた時、こいつは視界に入った花のことを俺様に訊いてきた。赤黒い色の小花だ。
「あれは……吸血花だな」
最近こいつは、気になったことがあると何でも人に訊いてくる。俺様にだって知らねぇことはあるのだが、こいつの前で「わからねぇ」なんて言いたくねぇ。おかげで余計なことを覚える羽目になってしまった。
「吸血? 血を吸うの?」
「普通は薄いピンク色らしいが、咲く場所によってはあんな色になるらしい」
本の説明が頭に入っていたおかげでなんとか格好がついた……とは思う。偉そうに言っているが、俺様だって全然知らねぇんだよ。だがこの説明だけではアダーラは納得しないらしい。まだ疑問の残る表情を見せている。
「例えば……土の中に死体が埋まってたら、死体の血を吸って赤くなるらしいぜ」
だから吸血花というらしい。だがこれはただの迷信だ。これも本に書かれていた。だがこいつをからかってやりたくなり、わざと大真面目な顔と声で言ってやった。こいつは怖がるか、それとも……。
「マジで!? すげぇ!」
やはりこいつは喜びやがった。俺様と同類ってほどじゃないが、スリルを楽しむ質だと改めて思う。目を輝かせて花を眺めるアダーラが面白く感じた。
その数日後だった。アダーラが歩いているのを見かけたが、アダーラは自身の背丈に対しては大きすぎるサイズのショベルを担いでいた。なんだか嫌な予感がする。まさかとは思うが、吸血花の下を掘り起こそうと思っているのではないだろうか。アダーラならやりかねない。こっそり尾行してみると、やはりあの花のところへたどり着いた。
野生の花だから多少掘り起こそうが問題はないだろう。――アダーラが多少で済ませられるかは別として。だがそれよりも、あの大きすぎるショベルを使えるのかどうかが気になった。せめて身長関係なしに使えるサイズの物を使えばいいのに。
そして案の定、アダーラはショベルをうまく扱えていなかった。思わず吹き出してしまうと、その声に気付いたアダーラが俺様の方を振り向いてしまった。その瞬間、アダーラの表情がぱぁっと明るくなった。
その顔が何を言いたいかはおおよそ検討はつく。少し跳ねるような足取りで近づくその姿も、俺様に期待しているのがよくわかる。
「ウェズン! 吸血花の下を掘ってくれ!!」
やっぱりそうきたか。アダーラに有無を言わさずショベルを寄越されてしまい、俺様は従うしかなかった。いや、断ることはきっとできただろう。だが正直……俺様も土の中が気になっていたことは事実だ。それに尾行していたという負い目もあり、断るという選択肢は全く頭になかった。
「ったく、しょうがねぇな」
ショベルを吸血花の花畑の端に刺すと、一気に掘り返す。掘ってすぐのところには死体などは埋まってなかった。もう少し掘って何も出なければ、死体が埋まっているなどというのは本当に迷信ということになる。
「うわっ! ウェズン、見てくれ!」
アダーラが突然驚いた声を上げ、吸血花の方を指差していた。その方を覗き込んでみると、ショベルで切れた吸血花の葉や茎から血液のような赤い汁が流れていた。確かにこれは、吸血花という名前がつけられるのも納得だ。
だがそれに怯むことなく、俺様は思いっきりショベルを差し込んだ。その瞬間、ショベルの先に硬いものが当たったような気がした。それを掘り起こそうとショベルを持ち上げると……確かに白い骨のようなものは出てきた。ただしそれは小さく、とても人のもののようには見えない。
「……きっと土竜だな」
「土竜」
俺様もアダーラも気が抜けたような声を発してしまう。さっきショベルに当たったものも、ただの大きめの石だったようだ。
アダーラはその場にぺたんと座り込むと、大きくため息をついた。落胆しているのかと思ったが、顔を見てみるとそうでもないようだ。
「死体は死体でも動物かよ!」
ケラケラと笑いながらアダーラは言う。確かに死体であることは事実だった。確かに俺様も人の死体が出てくると思い込んでいた。
「動物だったな」
つられて俺様も笑う。拍子抜けではあったが、妙に楽しかった。こいつに振り回されたのは、既に両の指では数え切れないほどになっているが、何も考えないでいいという意味では気楽だ。
「そういえばこのショベル、どこから持ってきたんだ?」
「あー……おれん家から勝手に持ってきた」
「……あとで怒られても知らねぇぞ」
「そんときは一緒に怒られてくれ!」
そう言うと思ったぜ。怒られるのはもう慣れたが、いい加減にしろ。ショベルを片手に立ち上がり、アダーラの方を見る。後先考えない姿を見ていると、一回しっかりとシメた方がいいんだろうが……それさえもこいつなら楽しんでしまうのだろう。
「子守ってのも大変だよなぁ……」
アダーラのぴょんぴょんとした動きを見て、俺様は独り言ちつつため息をついた。