くすぐったい話.
「トランクスさんの髪って本当にきれいですよね」
これはどういう状況だろう。トランクスは髪を梳かされるくすぐったさに困ってしまう。いつの間にかまた肩より下まで伸びていた髪に、悟飯は丁寧にブラシをかける。だが、その必要もあまり感じないほどに、ブラシが引っかかることもない。
「あ、あの悟飯さん……もう十分じゃ……」
「そうですね。じゃあ結びますね」
「え?」
ブラシを置いた少年は、代わりに何かを手に取った。しかしトランクスがそれを何か認識する前に、ぐいと髪が上の方へと引っ張られるのを感じた。
「……はい、出来ました。どうですか?」
そう言って、悟飯はトランクスに手鏡を渡した。トランクスが小さな鏡の世界を覗き込むと、そこには長い髪を高い位置でひとくくりにした自分と、嬉しそうな少年がいた。
「悟飯さん、お上手ですね」
「トランクスさんの髪がさらさらで結びやすかったからですよ。触り心地がすごくいいから……ずっと触ってたくなっちゃいますね」
そう言いながら、悟飯は結んだ髪の先に軽く指を絡めた。髪には感覚はないはずなのに、トランクスはまたくすぐったさを感じた。
「あ、あの悟飯さん……それで誕生日のお祝い、ほしいものは決まりましたか?」
そう、それこそがトランクスの今日の本題だった。「何をもらいたいか考える間、少し髪をいじらせてほしい」と言われた時は、首を傾げてしまったが、まあ悟飯にとっては一種の暇つぶしのようなものだったのだろう。確かに、何か考え事をする時は、そういった頭を使わないことをしていると考えがまとまるものだ。
「ええ、決まりました」
「何ですか? オレに用意できるものだと良いんですが」
「それなら大丈夫です……トランクスさん」
ぎゅっと後ろから抱きつかれて、トランクスは少し驚いた。悟飯は年の割にはしっかりしていて、こういう子どもっぽいスキンシップはあまりしないタイプだと思っていた。だが、実際の彼の年を考えれば、それほどおかしなことでは――。
「……っ…!?」
しかし、トランクスは自分の考えが色々な意味で間違っていたことに気付かされた。髪を結い上げて、無防備になっていたうなじに何かが触れた。そして温かい、柔らかいそれは、一度だけでなく何度も触れた。ちゅ、と鳴った音にトランクスは小さく息を飲んだ。
「っ……あ、あの……悟飯さん……?」
「トランクスさんが良いです」
それはどういう意味なのか。振り返って尋ねる勇気をトランクスが持つ前に、また、後ろから、ちゅ、と音が聞こえた。ダメだ。この髪型は防御力が無さすぎる。トランクスはもうこのくすぐったさに勝てる気がしなかった。